20「嫌な予感」
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「フォグさん……もう持てませんよ」
「ああ……俺もだ」
俺とキョウカの腰に付けた布袋は、とある物でパンパンになっていた。とある物というのは、簡単に言うと"目玉"だ。
今回の狩猟大会でビッグスパイダーを狩った証として、目玉を集めなければいけないのだ。ビッグスパイダーに付いている沢山の目玉の中で、真ん中に付いている一番大きな目玉は一個しかない。だからこの大きな目玉がビッグスパイダーを狩ったという証拠になる。
卑劣なパーティーなんかは他のパーティーが集めた目玉を強奪して順位を上げようとするかもしれないが、それも作戦の内かもしれない。特にイケメン三人組には気を付けねえと……。
所で、なんで俺達がパンパンになるまでビッグスパイダーの目玉を集めたかというと、うちのアサシン(聖女)が狩りまくっていたからだ。
もう持てないから、そろそろ止めて欲しい……。
「お忙しい所すいません……袋に入りきらなくなってきたのでそろそろ止めて頂いても宜しいですかね? エレナさん」
「あら、私夢中になってしまいました……分かりました。これぐらいで終わりに致しましょう」
狩りを終え、返り血を拭うエレナ。
どうやら満足してくれたみたいだ。
因みに、俺もビッグスパイダーを狩ったぞ。まあ、エレナが散々いたぶった所にトドメをさしただけだが……。
「これだけあれば、結構いい順位かもしれないですね!」
「ああ、そうだな。もしかしたら賞金が出る順位にはいるかもな」
キョウカの言葉にそう返すと、キョウカとエレナは手を取り合って嬉しそうに喜んでいた。さて、狩りは終わりだが、まだ俺の用事が残っている。
ビッグスパイダーを狩る事が出来たから、今日狩りたいモンスターは後二種類。それで新しいスキルを獲得出来る筈だ。
「喜んでるとこ悪いんだが、後二種類ほど倒した事がないモンスターを倒したいから協力してくれるか?」
「勿論! それでフォグさんが強くなるなら喜んで協力しますよ!」
「私も協力は惜しみません。ですが……それで強くなるというのはどういう事でしょうか?」
キョウカは事情を知ってるから即答で答えてくれたが、エレナは疑問をぶつけてきた。ここで俺のスキルについて教えても良いが、エレナの事情も分からないしな……。
「俺の秘密はエレナの秘密と交換でどうだ? なにも今すぐじゃなくて良い。大会が終わったらゆっくり話そうぜ」
「……分かりました。命を預ける仲間なら、秘密も共有という事ですね」
真っ直ぐ俺の瞳を捉えて答えるエレナ。聖女様の秘密を聞いてしまったら後には戻れそうにないが、これも何かの縁、覚悟は決めてる。なんたって、既に"女神の使い"とかいう奴がこっちには居るしな。
「なんですかフォグさん? 私の顔に何か付いてます?」
「いや、なんでもねえ。ただ、可愛い顔だなと思ってよ」
「ふぁっ!? きゅ、急になに言ってるんですか!!」
「ふふっ、フォグさんとキョウカちゃんは仲が良くて羨ましいですね」
「もうっ! フォグさんのバカッッ!」
褒めたら怒られる……女性は訳が分からんな。
「とりあえず、モンスターを探してもう少し奥に行ってみるか」
「「はーい」」
エレナのお陰でかなりの目玉を集めたので、俺達のビッグスパイダー狩猟大会はここで終了だ。次は俺のスキルを増やすため、未討伐のモンスターを探しに行く事になった。
俺を先頭に聖域の森をずんずんと進み、まだ入った事のない奥地まで足を踏み入れた俺達。
木の枝が風で軋む僅かな音さえ敏感になり、危険な香りも増してきた気がする。どんなモンスターが現れるのか……心の高鳴りが高まっていく。
緊張の面持ちの中、辺りの様子を警戒しつつ進んでいると、茂みを掻き分ける音と共に男の大きな声が聞こえてきた。
「助けてくれー!! 仲間が大変なんだ!!」
茂みを掻き分け焦った様子で俺達の前に現れたのは、イケメン三人組の一人である赤髪の男だ。リーダーの金髪と黒髪ロン毛がいない所を見るに、二人に何かあったのだろう。
「落ち着け、何があった?」
俺がそう問いかけると、赤髪のイケメンは顔を青くして事の顛末を話し出した。
「た、大変なんだ!! 中々ビッグスパイダーに出会えなくて森の奥まで行ったら、そこでゴブリンとホブゴブリンの群れが現れて……必死に戦って何とか殲滅したんだが、二人共酷い怪我で動けねえんだっ! それで助けを求めてここまで戻って来たらお前がいたんだ!! どうすればいい!? アイツらこのままじゃ……」
「話は分かった、それで、アイツらは何処にいる?」
「この道を真っ直ぐ行った所で二人共ぐったりしてる。なあフォグ! 今まで馬鹿にした事は謝るからよ……アイツら運ぶのだけでも手伝ってくれ!! 早くしねえと血の臭いに釣られてモンスターが集まってきちまう! 頼むよフォグ!」
必死に頭を下げて懇願する赤髪のイケメン。俺は今まで散々馬鹿にされてきた事を綺麗さっぱり水に流すなんて潔い男じゃねえが……それとこれは別だ。助けを求めてる声が聞こえれば走り出すのが男ってもんだろ!!
「俺は行く。良いか? キョウカとエレナ」
「勿論ですよ! 早く助けに行って上げましょう!! てか、エレナちゃんは走って行っちゃいましたよ……」
「アイツ、また勝手にっ! 急いで行くぞ!!」
イケメン三人組の残る二人を助けるため、赤髪とキョウカを伴って走り出す。エレナはいつの間にか気配を消して先に向かってしまったようだ。
怪我をした者が居ると聞いて、聖女の血が騒いだのか? なんにせよ、勝手な行動を取ったのは許せん……後で説教しないと。
それが仲間ってもんだろ?
まあ、エレナが先に行った事自体は怪我をしたイケメン二人には幸いだ。なんせ究極の治療を施せる聖女様だからな。これでアイツらの生存率もぐっと上がった。生きていればの話だが……。
そんな事を思いながら赤髪が来た茂みを掻き分けて突き進み、更に深い森の中へ迷いこんで行く。
そして、必死に走り息が上がってきた頃。
一際大きな声で助けを求める男達の叫びが聞こえてきた。
「誰か助けてくれー!!」
「モンスターに囲まれてるんだ!!」
散々馬鹿にされたせいか、耳に残っている二つの声。間違いなくアイツらの声だ。良かった……まだ生きてはいるようだな。
「キョウカ! 戦う準備しとけよ!」
「もうしてます!」
戦闘準備を整えた俺とキョウカは、先頭の赤髪を差し置いて声のする方向へと力の限り走り出した。
それにしてもエレナはどうしたんだ? まさか迷ったか?
たくっ! 今はエレナの心配してる場合じゃねえのに!
しゃあねえ、二人を助けてから探すしかないな……まあ、エレナはモンスターからも気配を消せるから、最悪の事態は避けられるだろ。
「アイツら何処だ!? 声はこっちから聞こえたよな?」
「はい。でも、居ませんね……あっ! エレナちゃんがあそこに居ますよ!」
声のする方向へ進むが、一向にイケメン二人の姿が見えない。
その代わりに、エレナの姿をキョウカが発見したようだった。
「エレナ! アイツらは居たか!?」
俺の問いに、木の下で突っ立っていたエレナは無言で首を振る。先に来ていたエレナが分からないとなると、一体アイツら何処に居る?
「くそっ! 一体何処に居やがる!! そういや、赤髪も追いかけて来ねえし……」
「私なんだか嫌な予感がします……」
不安な表情で不吉な事を呟くキョウカ。こういう場面でそういうのは当たるから、止めて欲しいと心から思う。
「なんだよ嫌な予感って……んな事あるわけ──」
「フォグさん。キョウカちゃんの予感は、どうやら当たってしまったようです」
俺の言葉を遮り、一段と鋭くなった瞳を俺とキョウカの後ろへ向けるエレナ。後ろを振り返りたくはないが、恐る恐る振り返ってみると──
「フッー! フッー!」
そこに居たのは……。
「マジかよ……こいつはフンババじゃねえか」
「フォグさん、フンババって!?」
「危険度Sランクの聖域の番人だ……」




