19 「アサシン恐るべし」
「お前らー!! ビッグスパイダー狩り大会を開催するぞー!!」
「「うぉっー!!」」
ギルドマスターであるエマさんの男勝りな宣言とともに、騒音にも似た冒険者達の叫びが木霊している。
聖域の森に集まった冒険者の数は、200は優に超えていた。他の町からもこの大会を聞き付けた嗅覚鋭い冒険者によっての200超えだ。まあ、それもそのはず……この大会の賞金総額は300万エーンにもなる。
ビッグスパイダーを一番狩った1位のパーティーには100万エーンが与えられ、2位は50万、3位が30万、4位が20万だ。そして、ブービー賞には1位と同じ100万エーンが贈られる大盤振る舞い。
この大会……町や村の人、要は税金払ってる人が聞いたら怒るじゃないかと思うのだが、ところがどっこいそうでもなかった。
「俺は単勝でAランク冒険者パーティーのブラックウィンドウに賭けたぜ。ブービーはフォグとかいう野郎が率いるセイシーズだな」
「俺は断然、女の子だけのパーティーのスゥイーセントだな。ブービーは適当だ」
「わたしゃ、イケメン三人組のハニースマイルだね。頑張れー!! ハニーしゅまいるっっ!」
婆さん入れ歯飛ばすなや……。
まあご覧の通り、俺達は賭けの対象にされ、この大会は町や近隣の村を巻き込んでの一大イベントと化していた。勿論領主の許可も下りている。てか、賭けの胴元は領主だしな……。
「フォグさん、ワクワクしてきますね! 頑張って1位を目指しましょう! エレナちゃんも頑張ろうね! あっ、でも無理しちゃダメだよ?」
「はい! 無理せず、気配を消してズブりと殺ります!」
いや、殺らなくて良いですよ聖女は……。
「いいかお前達。今日はエレナの教育がメインだ。ビッグスパイダーはかなり手強いから、マジで無理しないからな」
「「はーい……」」
「そんなにしょぼくれんなよ……んっんっ! なんでも、エマさんからの伝言だと、ビッグスパイダーの脚はエレナに一番多く渡すって言ってな~」
「本当ですか!? やったねエレナちゃん!」
「嬉しいです! 今日は帰ったらお祝いですね!」
食いしん坊が二人に増えたか。
こりゃ、食費が大変だ……。
よーしっ……食費ぐれえ、今よりもっと強くなって稼いでやらぁ! 男の甲斐性を見してやるぜ!!
実は俺、この大会で更なるスキル獲得を目論んでいる。まだ倒していないモンスターを三種類倒して、新しいスキルで強くなりたい。最近はそういう欲が出てきた。
今までの俺じゃ考えられない前向きさ。
これも、守る者が出来たお陰かもな。
んで、今日の大会で狙うビッグスパイダーは、ゴブリンやポイズンウルフより上の危険度Cランク。それで先ずは一体。残る二体もどうせなら同じCランクが良い。
だってよ、危険度が上がるほど強そうなスキルを持ってそうじゃん? それに、この前ゲットしたスキルは『繁殖』だぜ……もう少し役に立つのが良いです。
「よーし。そろそろ大会が始まる! 気合い入れて行くぞ!」
「「はーい!」」
俺の掛け声に元気良く答えるキョウカとエレナ。
こうやって見ると、この二人は格別に可愛いな。
キョウカは小動物みたいで可愛い感じだし。エレナは目元しか分からないが、その目元だけ見ても綺麗な女だと分かるし、おっぱいが大きい。
あれ? 俺ってかなり羨まけしからん状態じゃない?
「アイツ可愛い女二人とか気に入らねえな」
「ああ。裏で殺っちまうか」
男達のそんな物騒な声が俺の背中へ突き刺さる。
なんか一悶着ありそうでやだな……。
そう思い辺りを見回すと、俺をいつも馬鹿にしていたイケメン三人組が此方を見ているのに気が付いた。
アイツらか……絶対、絡みにくるぞ。
だが、俺の予想に反してイケメン三人組は人混みへ消えていく。強張った体が、なんだか肩透かしを喰らったみたいで、逆に力が抜けてしまった。
「なんだ? 普段なら絶対馬鹿にしにくる筈なのに……」
「どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない」
キョウカにはなんでもないと言ったが、もしかしたら何か企んでるかもしれない。警戒を怠らないようにしないと。
「それでは、ただいまよりビッグスパイダー狩猟大会を始めます。マスター、お願いします」
「うむ……大会、スタート!!」
エマさんの掛け声で始まったビッグスパイダー狩猟大会。森の入り口で待機していた冒険者達は、その掛け声で一斉に森の中へ消えていく。
先頭を行くのは人気NO.1のブラックウィンドウという、Aランク冒険者達のパーティーだ。
次点で2番人気のスゥイーセント。女だけで組まれたパーティーだけあって、華があって良いな。お邪魔したいぐらいだ。
「また鼻の下伸ばして……私達じゃ満足出来ないんですか!?」
「まあまあ、キョウカちゃん。男の人はこういうものよ? なんならズブリと殺りましょうか?」
「二人には大満足です」
アサシン(暗殺者)エレナは怖い。聖女エレナの前は、本当にアサシンだったのではと思えるほどの風格がそなわっている。
なんか色々秘密がありそうですね。
だんだん、事情を聞くのが嫌になってきたぜ。
「じゃあ、俺達セイシーズも行くとするか」
「「はーい」」
キョウカとエレナを連れ、他の冒険者達より遅れて森へ入る。
上位を狙ってる訳じゃないから、出遅れても問題ない。今日は、エレナにモンスターの恐ろしさを教育するのが目的。
正直、大会は二の次だ。教育中にビッグスパイダーを狩れれば幸いだし、その副産物としてブービー賞が取れたら良いなぐらいの気持ちだ。
「モンスター出て来ないね」
「そうですね……」
聖域の森を歩いていると、キョウカとエレナがぼやきだした。
「多分、先に入った冒険者達があらかた狩り尽くしてんだろ。ビッグスパイダー以外のモンスターも狩っとけば、それはそれで金になるからな」
「え~、じゃあ私達、何にも狩れないじゃん……」
「残念です。ズブリと殺りたかったんですが……」
血に飢えすぎだろコイツら……肉食系女子って怖いね。
「その内出て来るさ。油断せずにな」
「はーい」
「分かりました!」
エレナはやけに気合い入ってんな。
もしかして、モンスターが怖くないのか?
怖くないなら冒険者として大問題。冒険者はモンスターにビビってなんぼだ。それが、自分の命を守る事になる。まあ、俺みたいにビビり過ぎるのも問題だけどな。
「エレナ、この世で一番弱いモンスターはなんだ?」
「そうですね……スライムですか?」
「ああそうだ。だが、一番弱いとされてるスライムでさえ、人間の命を奪う。スライムの酸を喰らったらたちまち骨まで溶けちまうんだぞ」
「それは恐ろしいですね……油断せずに気を付けます!」
「あっ! 噂をすれば出て来たよ、フォグさん!」
「げっ……」
キョウカの指差す先には、プルプルと姿を現したスライム。
弱くて金にならねえから見過ごされてたんだな。
どれ、ここは俺の真骨頂を見せてやるか。
「いいか、エレナ! 先ずはスライムの酸が当たらない距離まで、って!! エレナが居ない!?」
「エレナちゃんなら姿消しちゃいましたよ」
なんだと!? エレナのやつ何処行ったんだ……まさかスライムに突っ込んで行ったんじゃないだろうな。
「フォグさん!! スライムが!」
「酸を飛ばしてきたか!?」
酸を警戒しつつスライムの姿を視界におさめると、そこには核を壊され、ドロドロに溶けていくプルプルのモンスターがいた。
「ふぅ~。殺りました! どうでしたか?」
ドロドロの残骸の後ろから姿を現したエレナ。清々しい汗を拭い、殺戮後の余興を楽しむように俺達に感想を求めてきた。
「凄いよエレナちゃん! 瞬殺じゃんか! 流石アサシン!」
「えへへっ。照れます……」
えへへじゃねえよ! 何者だよお前……。
「ス、スライムを瞬殺したからって調子に乗るんじゃないぞ! いいか、他にも恐ろしいモンスターが山ほどいる!」
「は、はい……」
「フォグさん!」
「例えば、ポイズンウルフに噛まれたら毒で動けなくなるし、ビッグスパイダーの糸はそこらの剣じゃ斬れねえほど強靭なんだ! 油断したらな──」
「後ろ!! フォグさん後ろ!」
「なんだキョウカ! 今、エレナに教育中なんだ! 後にしろ!」
「いいから後ろ見て!!」
ちっ、なんだよ! 人が教育してんのに!
「ガウッ!」
「シュッー!」
「あ……どうも」
「フォグさん。このモンスター達はなんですの?」
「ポイズンウルフさんとビッグスパイダーさんです……」
「フォグさん! どうしますか!?」
どうするって……。
「逃げるぞー!!」
「あっ、ちょっと待ってよフォグさん!」
突如現れたポイズンウルフとビッグスパイダーのコンビ。多分、冒険者達が取り逃がした残党が、ここまで逃げて来たんだろう。
俺達はそのコンビから全速力で逃げる。
まだ、戦う準備なんてしてねえよ!
くそっ! ……一番油断してたのは俺だったぜ。
「フォグさん! エレナちゃんが居ない!」
「あっ!? 気配消して一緒に逃げてんじゃねえのか? おーいっ、エレナ! 居たら返事しろ!」
「エレナちゃん何処ー!?」
俺とキョウカがエレナを呼んで叫ぶが、一向に姿を現さない。
も、もしかして……。
「「戦ってる?」」
「ウオォォッー! 今行くぞエレナー!!」
「エレナちゃん死なないでー!!」
踵を返し逃げて来た道を戻る俺とキョウカ。
走りながらも俺は鋼の剣を抜き、キョウカは弓を構えた。
息を切らして戻った俺達の前には、血みどろに濡れたエレナの姿があった。なんて事を……俺の、責任だ……。
「ウアァァァッー!!」
「エレナちゃん!! そんなっ! そんなのってないよ!!」
黒装束に赤黒く濡れた血。その鮮血は、心の底から恐ろしい光景だった。俺達は間に合わなかった。いくら後悔しても、その事実は変えられないのだ。
心を洗い流すようなエレナの笑顔。顔を隠してからは目元しか見えなかったが、その優しげな瞳は今も頭から離れない。
きっと、横で震えているキョウカもそれは同じな筈だ。
だって……現在進行形で微笑んでらっしゃるから。
「どうしたのですか慌てて? モンスターなら殺りましたよ? このモンスター達もたいした事なかったですけどね」
モンスターの死体に挟まれながら、震え上がるような微笑みで俺達を見つめるエレナ。その瞳は、俺のタマタマをおもいっきり縮こませた。この時、俺はある問題を抱えてしまった。
『聖女エレナ様。強すぎ問題』だ。
またしても、たった数時間で教育が終わってしまった。
これからは、俺達が教育される番かもしれない……。
「「アサシン(聖女)恐るべし……」」
俺とキョウカの共鳴した声が、殺伐とした森へ響いた。
エレナさん怖い……。




