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13 「ピンチはチャンス。チャンスはピンチ」

評価&ブクマありがとうございます!

お気に入りまでしてくれた人がいたので大変嬉しいです!

 入り口は光によって目覚めてしまったコンフュバット。

 後ろは醜悪な面をした数十体のゴブリン。

 逃げ場を塞がれ、足は知らぬ間に震えていた。


 俺の後ろで袖を掴むキョウカの顔は不安に満ちている。

 なんとかキョウカだけでも救いたい。


 この絶望的な状況を打破するため、足りない頭をフル活動させる。


 ゴブリンは集団で生活し、必ずつがいの二体で行動する厄介なやつらだ。その事から、ゴブリンの危険度は二体で行動する分少し高めに設定されている。

 

 だが、今の俺と鋼の剣ならば、一体一体確実に仕留めていけばなんとかなる筈だ。 

 

 そうなると、問題はコンフュバットだな。


 コンフュバットは生き物の血を吸って糧を得ているが、一回で吸う量はさほどでもない。だからコンフュバット自体はあまり危険ではないのだが……。


 良くないのはこの状況だ。コンフュバットは特殊な音波で相手を短時間混乱においやって、その間に血を吸う事で知られている。この状況でそんな事されてみろ……。


 いくら吸う量が少ないと言っても、数十匹に一気に吸われれば確実に死んでしまう。それにゴブリンどもも控えているんだ。


 仮に血を吸われて生きていたとしても、瀕死の俺達をゴブリンどもがほっとく訳がない。


 コンフュバットの音波さえ防げれば希望があるんだが……。


「キョウカ! コンフュバットは音波を出して混乱させてくるモンスターだ。音波を防ぐ方法は何か思い付かないか!?」

「音波ですか……音って確か空気の振動? じゃあ、体を風のスキルで包めれば……」


「何か思い付いたのか!?」

「は、はい! でもこの方法だと……」


「良いから言ってみろ!」

「わ、分かりました! えっと、私達の体を風のスキルで包めれば音波を遮断出来るかもしれないです。ただ、この方法だと音が聞こえなくなるので危険じゃないかと……」


 確かに、音が聞こえなくなると周囲の状況を掴むのが大変だ……だが、この状況を脱出出来る可能性があるならやるしかねえだろ!


「やってくれキョウカ! コンフュバットは相手が混乱してない限り近付いてこねえ! その間に逃げるぞ!!」

「分かりました! でも、二人分かけるので長くは持ちませんよ? ゴブリンが来たら……って来たー!!」


 キョウカの焦った声を聞き、ゴブリンの方を急いで確認すると、何体かのゴブリンが俺達に駆け寄って来ていた。


「俺はゴブリンを相手してくるから、その間にスキルをかけてくれ! 急いで頼むぞ!」

「は、はい! 頑張ります!」


 キョウカの返事を確認した俺は、駆け寄って来るゴブリンへ素早く距離をつめる。


 緑の肌をした醜悪なモンスターゴブリン。その手には、自分達で作ったのか、でこぼこした不出来な棍棒が握られていた。


 俺がゴブリンの前に立ちはだかると、二体のゴブリンが棍棒を振り回して威嚇してくる。


 棍棒に当たらない間合いまで詰め、大きく振りかぶって隙が出来た所で背後に回り込み鋼の剣を叩き込む!


「オラッー||」

「「ギギッッー!!」」


 二体のゴブリンは絶叫と血しぶきを上げ、きり離された上半身がボトッと地面へ落ちた。


 ゴブリンを倒したのも初めてだった。今まではゴブリンを見たらバレないように身を潜め、逃げていたんだ。


 必ず二体で行動するゴブリンに勝ち目がないと思ったし、何より怖かった……。


 正直今も怖い。

 だけど、怖がってる暇はないんだ。

 今の俺には、守る者がいるから。


「「ギッー!!」」


 駆け寄っていたもう二体が近くまで来ていた。

 奴らをしっかり視界に入れ、迎え撃つ準備をする。

 両足を踏み締め、脇を締めて固く鋼の剣を握り、構えた。


 すると、優しく包まれるような感覚が体全体に駆けめぐる。

 外からの音と臭いは遮断され、自分の心音と息づかいだけが聞こえていた。


 キョウカがやってくれたのだろう。

 これでコンフュバットの音波は怖くない。

 後は……近付いてくる二体のゴブリンを倒して逃げるだけだ!


 ゴブリンの威嚇する声はもう聞こえない。

 聴覚と嗅覚が利かないと、他の感覚が研ぎ澄まされる。


 視界は広がり、敵の動き一つ一つに反応するように目玉はギョロギョロと動いている気がした。

 

 風で覆われていない足の底からは、砂利の粒まで繊細に感じ、剣を握った手の平からは、剣に空気が当たる振動まで伝わってくる。

 

 こんな感覚初めてだ。

 なんだか、今日は初めて尽くしだな。


 キラースピアーやゴブリンを倒したのは初めてだし、おっぱいを揉んだのも今日が初めてだ。


 何より……こんなに誰かを守りたいと思ったのは初めてだった。


「ウオラッッー!!」


 気合いを入れ、ゴブリンを迎え撃つ。

 二体のゴブリンは俺を挟み撃ちにしようと左右に分かれた。


 一体の気配が後ろからする。

 感覚を研ぎ澄まし、ゴブリンが踏んだ地面の感触を感じ取る。


 後ろのゴブリンが一メートル位まで近付いてきたと感じ、振り向く反動を利用して鋼の剣を振り抜いた。


「ギッッ!!」


 ゴブリンの声は聞こえないが、落ちた首の感触は地面を伝って感じた。


 もう一体のゴブリンも、背後から近付いてくる気配を感じる。

 振り向いて後ろに飛び退きゴブリンを確認する。


 重い棍棒を振り上げ迫るゴブリン。重いものは振り下ろす時は速いが、上げる時は重くて遅くなる。


 俺はその隙を見逃さず無防備な首筋めがけ鋼の剣を横に振った。


 スパッと首を落とす感触が手に伝わり、ゴブリンの頭が飛んでいく。首を失った胴体は、人形のように力なく崩れ落ちた。


 迫っていたゴブリン達を倒した事を確認し、剣を一振りしてついた血を落とす。


 キョウカの様子を確認すると、空中でバタバタと飛んでいるコンフュバットを警戒しているようだ。


 大丈夫。俺達が混乱して膝をつかなければ、アイツらは襲って来ない。


 そう思うと、俺の感情に欲が出てきた。

 もっと自分の力を試したいと、思ってしまった。


「ウオッッー!!」


 俺は洞穴の少し奥にいるゴブリン達へ自ら駆け寄る。

 きっと後ろでは、自分からゴブリンに走る俺を驚いた顔で見てるキョウカがいるんだろうな。


 少し待っててくれ。直ぐに戻ってくるからよ……。


「ウオリャッー!!」

「「ギギッー!!」」


 そこからは夢中で剣を振りまくった。

 首を落とし、胴体を斬り落とし、心臓に剣を突き刺す。


 気付けば俺の周りには、ゴブリンの亡骸が無数に転がっていた。


 全部倒しきった所で冷静になり、これを自分がやったのかと少し驚いていた。


 そんな時──


 ふと、俺の肩に優しい感触の手が置かれる。

 振り向くと、心配そうに見つめるキョウカの姿があった。


 そんなキョウカを安心させるため、強張った顔の筋肉を緩めて笑顔を見せた。俺の笑った顔を見たキョウカが笑顔を返すのを確認し、親指で合図をする。


 ゆっくりと頷いたキョウカに、俺の袖を掴むよう手を引き寄せた。走って一気に入り口へ突き進むから置いてかないようにしないとな。


 少し恥ずかそうなそぶりで俺の袖を掴むキョウカ。

 そんなキョウカに、顔を使って行くぞと合図を出す。


 頷いたのを確認し、俺達は洞穴を脱出するために走り出した。

 

 バタバタと空中を飛び交うコンフュバットの群れに剣を振り回しながら突撃する。


 目の前を飛ぶ邪魔なコンフュバットをぶった斬りながら突き進む。外の光が少しづつ近付いてくる。

 

 そしてようやく──

 俺達は外の暖かい光を浴びる事が出来た。


 洞穴を脱出すると、俺達は安堵するように近くの木にもたれかかった。ゴブリンは全部倒したし、コンフュバットは夜じゃねえと外に出てこねえからもう安心だ。


 俺は疲労感漂うキョウカに近付き、声が聞こえる耳元で呟いた。


「もうスキルを解いていいぞ。ありがとな」


 俺がそう呟くと、キョウカは何故か飛び上がるように立ち上がる。それと同時に、俺達を包んでいた風の膜は消え去り、森から聞こえる自然の音が鼓膜になだれ込んできた。


「ひゃあっー!! 耳はダメです!」


 ほーう……そうか、耳が弱点か。

 こりゃ面白い発見をした。後でいじめてやろう。


「なんで悪い顔してるんですか!?」

「さあな。それより疲れただろ? 歩いて帰れそうか?」


「はい、疲れました……少し休まないとダメかも」


 そう言ってへたりこむキョウカ。まあ、ずっと風のスキルを維持してたから相当精神力を削られたんだろ。

 

 体力はあるが気力がないって事か……しょうがねえな。


「ちょっ! 何してるんですかフォグさん!?」


 焦ったようなうわずった声を出すキョウカ。

 なんだ、お姫様抱っこは嫌いなのか?


「嫌か? 着くまで休ませようと思ったんだが。それともおんぶが良いか?」

「えっ、えーと……このままでお願いします……」


 素直にこのままでと返事をするキョウカ。

 その顔は少し赤い気がした。


「惚れたか?」

「……惚れません。それ言わなければ格好良かったのに」


 だって、なんか気恥ずかしいだろ……。


 童貞処女コンビの青臭い俺達は、ゆっくりと町へ戻って行った──




「ま、マジかフォグ……キラースピアーが一体にゴブリン六十体、それにコンフュバット二十体だと!? これ、マジでお前が?」

「いや、カード確認してんだからマジだろ……それとも何か、ギルドのシステムがイカれたんですか?」


「いや、それは無いが……あまりの事にな……」

「おじさん。本当にフォグさんが倒したんですよ! 凄い強さでゴブリンを圧倒してました!」

「フッ、まあな」


 町へ戻ってきた俺達は、今日の狩りの結果をギルドに報告していた。


 焦って逃げてたからモンスターから取れる素材は取って来れなかったが、ゴブリンは討伐しただけで報酬が発生する対象だから、六十体分だと結構な額になるだろ。


「おっさん。ゴブリンの討伐報酬は全部でいくらだ?」

「えっ、ああ。一体2000エーンだから全部で……12万エーンだな。しかし、お前がこんなに強くなるとは……なんだか夢みたいだな」


「ハハッ、夢じゃねえよ? さあ、後はこのガードを赤くしてくれよ。おっさん」

「あっ、そうか! 危険度Dのゴブリンを五十体以上倒したから、ランクアップ出来るな……ま、待ってろ! 直ぐに申請してくっから!」


 慌てて俺のカードを持って奥に引っ込むおっさん。

 俺が急に倒した事がないモンスターを倒してきたからビックリしてんだろうな。


 いや、俺もビックリだよ? なんたって、一昨日まで万年Fランルーキーだったんだから……。


「待たせたな! 持って来たぞ。ゴブリンを倒した報酬と、Dランクカードだ! こっからはいよいよ中堅冒険者だ。頑張れフォグ! 応援してっからな」

「ありがとな。おっさん」


「ああそうだ。お前達二人揃って中堅の仲間入りなら拠点を持った方がいいんじゃないか?」

「うーん、まあそうだが……」

「フォグさん拠点って何ですか?」


「ん? ああ……冒険者は世界を巡って活動するもんだ。ランクが上がれば上がるほどそれは顕著になる。自分達のランクに見合った依頼や、強くて素材が高いモンスターを倒したいからな。だが、世界を巡るにも疲れを癒す家が必要だろ? 誰にも邪魔されず落ち着ける場所がよ」

「成る程……じゃあ、私達も拠点となる家を探さないとですね!」


「そうだそうだ。それでお前達に紹介したい物件があるんだ。何でも一年契約で20万エーンの破格で住めるらしいぞ。俺の知り合いが不動産を営んでてな。興味があったら行ってみろ」


 おっさんはそう言って一枚の紙を俺に手渡してきた。

 その紙をよく見ると、不動産の場所が書いてある地図だ。


「分かった。後で行ってみるよ」

「ああ、色々大変かもしれないが体には気を付けろよ」


 おっさんの暖かい言葉を背にギルドを後にした俺達。

 目指すは勿論……シェリーさんの酒場だ!


 毎日行くって約束しちゃったからね。

 約束だからしょうがないよね。約束は破っちゃダメだもん!


「フォグさん顔がだらしないですよ! 浮気はダメですからね!」


 は? なに言ってのこいつ。

 それじゃ俺達付き合ってるみてえじゃねえか……。


 も、もしかしてヤったら付き合ってると思う子?

 いや、ヤってねえぞ! でも勘違いしたままなのか……。


 今さらしてませんとか、言い訳ぽくって余計拗れそうだよな……どうする俺? ピンチを脱出出来たと思った再びピンチだぞ!


「そ、そうだキョウカ! 今日倒した事がないモンスターを三種類倒したんだが、新しいスキルを獲得してないか見てくれ!!」

「えっ、別に良いですけど……ぬぬ、ぬぬぬ」


 な、何とか誤魔化せたみたいだな……。

 さて、俺の新しいスキルは何かな?

 

 今日俺が倒したモンスターは、キラースピアーにコンフュバットにゴブリン。


 キラースピアーは『痺れ針』だってキョウカが言ってたし、コンフュバットは多分、敵に混乱を与えるスキルだろうな。


 ゴブリンは……なんだ? 

 てか、アイツらスキル持ってんのか?


 そんな事を考えていると、鑑定を終えたキョウカが真剣な顔をして口を開いた。


「見えました! フォグさんの新しいスキルは……」

お読み頂きありがとうございます!

面白いと思って頂けましたら、評価&ブクマしていただけると嬉しいです( `・∀・´)ノ ヨロシクー

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