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忘れられない香り
牡丹の花が咲く頃には、気づいていたのかもしれない。
春の匂い、
夏の匂い、
秋の匂い、
冬の匂い。
全部、違う匂いなはずなのに。どうして、同じような香りがするのか。同じような香りなのに、思い出すたびに薄れていく。声も、表情も、存在も。なにもかもが曖昧なのに。どうしてか、忘れられない。忘れられれば、楽になれるとわかっているのに。思い出すことをやめられない。胸の奥に残るあの匂いを、忘れたくない。もう、誰のものかすらわからないっていうのに。
「忘れてしまえれば、いいのに。」
なにを忘れれば良いのか、もうわからないっていうのに。けれど、その言葉を口にするたびに、ほんの少しだけ安心している自分が居た。
その声は、風と、白い息に交えて消えていった。




