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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第97話 氷の微笑


 「……くさいんだけど」


 リーリヤの唇が、ほんのわずかに動いた。


 声は小さく、かすれていた。


 しかし男には聞き取れなかったらしい。


 「あ? ビビって声も出ねえか。大人しくしてろ」


 男は笑いながら、リーリヤの首元へ押し当てた短剣に力を込めた。


 刃先が白い肌へ食い込み、細い赤い線が浮かび上がる。


 洞窟の空気が張り詰めた。


 マットの足が半歩前へ出る。


 飛び込めば届く距離だ。


 だがその一瞬で刃が動けば――。


 リーリヤの首が裂ける。


 マットの拳が震えた。


 アルエも同じだった。


 歯を食いしばりながら男を睨みつける。


 誰も動けない。


 その緊張の中で、リーリヤの口がもう一度動いた。


 「臭い息吐かないでって言ったの」


 「な!?」


 その瞬間。


 男の手に握られていたナイフが、弾かれたように宙へ舞った。


 カン、と乾いた音が響く。


 男の目が見開かれる。


 何が起きたのか理解できない。


 だが――。


 リーリヤの足元。


 そこには、いつの間にか小さな氷片がいくつも転がっていた。


 空気中の湿気を凍らせて作った、微細な弾丸。


 その一つが、ナイフの柄を正確に弾いたのだ。


 そして。


 リーリヤの声が静かに響く。


 「アイスダガー」


 詠唱が終わると同時に、空間に氷の刃が無数に生まれた。


 鋭い氷が一斉に男へ突き刺さる。


 肉を貫き、衣服を裂き、その勢いのまま男の体を洞窟の壁へ叩きつけた。


 からん。


 落ちたナイフが岩床を転がる。


 男の体は氷の刃によって岩壁へ縫い付けられていた。


 まるで標本のように。


 「リーリヤ!」「姉さん!」


 マットとアルエが駆け寄ろうとする。


 しかし。


 二人の足は途中で止まった。


 リーリヤから放たれる威圧感。


 それが洞窟の空気そのものを凍らせていた。


 「乙女の肌にナイフなんて突きつけて」


 リーリヤはゆっくり振り返る。


 瞳の奥には、静かな怒りが宿っていた。


 「顔に傷ついたらどうやって責任取るつもりだったのかしら」


 男の顔から血の気が引いていく。


 リーリヤは一歩、また一歩と歩み寄った。


 氷のような微笑を浮かべながら。


 「しかも、ちび?」


 「レディーに対する礼儀がなってないわね」


 男の喉がひゅっと鳴る。


 リーリヤの瞳が細くなる。


 「それに」


 その視線が洞窟の奥へ向く。


 床一面に転がっていたフェニックスの死体。


 炎を失った羽。


 魔力を吸い尽くされた身体。


 リーリヤの声がわずかに低くなる。


 「生き物を弄ぶやつ、嫌いなの」


 次の瞬間。


 再び氷が生まれた。


 アイスダガー。


 今度は詠唱すらない。


 鋭く研ぎ澄まされた氷の刃が、男の喉元へ突きつけられる。


 刃先が皮膚を一筋だけ裂いた。


 血が細く流れる。


 男の喉がごくりと鳴った。


 「ねぇ、知ってる?」


 リーリヤの声は静かだった。


 「魔力切れって、辛いんだよ」


 男は必死に首を振る。


 だがリーリヤは構わない。


 「おいで、アミノ」


 呼ばれたアミノがびくりと体を震わせる。


 それでも、するするとリーリヤの腕へ巻き付いた。


 「まずは同じ苦しみを味わってみよっか」


 リーリヤは微笑む。


 その笑顔に温度はなかった。


 「大丈夫。死にはしないわ」


 「や、やめてくれ!俺はただの雇われで――!」


 その言葉は途中で途切れた。


 アミノの牙が、男の首筋へ突き立ったからだ。


 瞬間。


 男の体が大きく跳ねる。


 体の奥から何かが引き剥がされる感覚。


 魔力。


 生命力に近いそれが、ごっそり抜き取られていく。


 体温が急激に下がる。


 手足が震える。


 膝に力が入らない。


 視界が暗くなる。


 壁に縫い付けられたまま、男は声にならない悲鳴を上げた。


 やがて。


 体から完全に力が抜ける。


 魔力枯渇だった。


 リーリヤは男を見下ろす。


 「どう?」


 「苦しいでしょ」


 男は答える余裕すらない。


 リーリヤはさらにアイスダガーを生成した。


 そして男の太ももの横、岩へ突き立てる。


 ごん、と鈍い音が洞窟に響いた。


 その衝撃だけで男は白目をむき、そのまま気を失う。


 洞窟に静寂が戻った。


 しばらくの沈黙。


 ロイドがいつの間にかメモを取っていた。


 アルエは口を半開きにして固まっている。


 マットは何も言えない。


 その空気の中で。


 リーリヤが大きく息を吐いた。


 そして振り向く。


 「あー、怖かったよぉ」


 さっきまでの威圧感が嘘のように消えていた。


 その場へへたり込む。


 マットとアルエは顔を見合わせた。


 そして心の中で固く誓う。


 リーリヤだけは怒らせまい、と。


 しばらくして。


 マットが男の頬を軽く叩いた。


 「おい、起きろ」


 反応がない。


 もう一度叩く。


 男が呻き声を上げて目を開けた。


 だが視界に入ったのは――。


 自分を見下ろすリーリヤの顔だった。


 男の顔が一瞬で青ざめる。


 「さて」


 リーリヤはにっこり笑った。


 指先で氷の刃をくるくると回す。


 「楽しい尋問タイム、始めよっか」



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