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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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79話 蒼銀の装備


依頼を受けた翌日。


カタリナの街は朝から活気に満ちていた。石造りの通りにはすでに多くの冒険者や商人が行き交い、荷車の軋む音や店先の呼び声があちこちから聞こえてくる。大都市特有の騒がしさだったが、不思議と不快なものではない。むしろ、この街が大陸の中心として機能していることを実感させる生命力のようなものがあった。


マットたちはギルドを出ると、そのまま街の西区画へ向かった。


そこには鍛冶屋や防具職人、武具職人の店が集まっている。通りに入った途端、空気が変わった。熱い鉄の匂い、炭の煙、そしてハンマーが金属を叩く重い音。まるで街の心臓がここで鼓動しているようだった。


「すごい音……」


アルエが周囲を見回しながら呟く。


「ここがカタリナの鍛冶街だよ」


ロイドが説明する。


「この街の装備の質が高い理由の一つでもある」


やがて目的の店の前に到着した。


入口には無骨な看板が掛かっている。装飾らしい装飾はなく、代わりに扉の横には何本もの剣や鎧の試作品が無造作に立てかけられていた。


マットが扉を押す。


店の中は外以上に熱気がこもっていた。


奥から、低く太い声が響く。


「おう、坊主。できてるぜ」


店主が奥から現れる。


筋肉質の腕に煤が付いたまま、無骨な笑みを浮かべていた。


その手には、布に包まれた何かが抱えられている。


「お前の装備だ」


そう言って布を机の上に置く。


ゆっくりと布が外された。


そこに現れたのは、見慣れた形の装備だった。


だが、その姿は以前とはまるで違っていた。


元はボロボロだった胸当てとガントレット。


しかし今は、まるで別物のように輝いている。


表面の色は鋼の銀色ではなかった。


淡く蒼を帯びた銀。


光の角度によって、静かな蒼色が浮かび上がる不思議な金属光沢だった。


リーリヤが思わず息を呑む。


「きれい……」


アルエも目を丸くした。


「なんか……普通の金属じゃないよね?」


店主はニヤリと笑う。


「当たり前だ」


彼は胸当てを軽く叩いた。


「ササミの羽を使って鍛え直してある」


その言葉に、全員の視線がササミへ向いた。


蒼銀の鳥は胸を張って誇らしげに鳴いた。


「クエ!」


店主は続ける。


「ミスリルイグナイトの羽だ。普通なら素材として手に入るもんじゃねぇ」


胸当てとガントレット。


どちらにも、微細な蒼い金属繊維が織り込まれている。


よく見ると、装備の表面には羽根の構造を思わせる細かな層が重なっていた。


ロイドが感心したように呟く。


「……なるほど。羽の魔力構造をそのまま利用しているのか」


「分かるのか」


店主が少し驚いた顔をする。


ロイドは頷いた。


「ええ。ミスリルイグナイトは魔力を遮断する特性を持っています。ただし、その構造は完全な遮断ではなく、方向性がある」


店主は満足そうに笑う。


「その通りだ」


彼はガントレットを持ち上げ、マットに向けて見せた。


「表面からの魔法攻撃は遮断するようになっている」


そして指で内側を叩く。


「だが逆に、内側からの魔力供給は増幅する仕掛けだ」


マットは目を輝かせた。


「へえ。めちゃくちゃ便利だけど、なんでそんなことまで?」


店主は肩をすくめる。


「こちとら職人だ」


それだけ言うと、ニヤリと笑った。


「素材を見りゃ、何ができるかはだいたい分かる」


彼はさらに続ける。


「それに防具の痛み方を見ればどんな使い方をしてるか見当もつく」


マットは思わず目を見開いた。


確かに、戦い方を細かく説明した覚えはない。


だが、今目の前にある装備は明らかに自分の使い方に合わせて調整されている。回復魔法で身体を酷使しながら殴り続ける戦闘。電撃を流す癖。衝撃が集中する位置。


それらすべてが、まるで見ていたかのように反映されていた。


マットは胸当てを軽く叩き、静かに呟く。


「……完璧だ」


その言葉に、店主は少しだけ口元を緩めた。


「喜んでもらえて何よりだ」


マットは装備をしっかりと身に着け直し、店主の方へ向き直る。


「大事に使わせてもらう。お代は?」


店主は片眉を上げた。


「随分面白い仕事させてもらったからな。そいつは取っとけ」


その言葉に、アルエがぱっと顔を明るくする。


「え、いいの?」


しかしマットは首を横に振った。


アルエが不思議そうに言う。


「どうしたのよ、マット。ただでいいって言ってくれてるのに」


マットは真剣な顔で答える。


「いい仕事には、相応の対価を払う。これは、流儀だ」


その言葉に、今度は店主の方が驚いた顔をした。


しばらくマットの顔を見つめ、そして低く笑う。


「坊主……いや、マットと言ったか」


「お前さん、よく分かってるな」


腕を組み、少し考える。


「よし。そういうことなら、こっちも遠慮はしねえ」


だが、と店主は頭を掻いた。


「ロハでいいと言った手前、普通に金を受け取るのも気が引ける」


そう言って店の引き出しを開けた。


中から取り出したのは、淡く蒼く輝く一枚の羽だった。


ササミの羽。


どうやら、装備を加工した際に余った素材らしい。


店主はそれを指先でつまみ上げる。


「こいつを譲っちゃくれねえか?」


「加工の代金としては十分な価値だ」


マットは少し驚いた顔をする。


「本当にそんなのでいいのか?」


「こっちからしたら、いくらでも手に入るからタダ同然なんだが」


店主は鼻で笑った。


「お前さんにとってはな」


そして羽を軽く揺らす。


「だが、俺にとっちゃ代金もらうよりよっぽど価値がある」


マットは少し考え、そして頷いた。


「なら、交渉成立だな」


どちらともなく手を差し出す。


がしりと、固い握手が交わされた。


職人の手は熱く、そして力強かった。


店主は笑う。


「またメンテナンスが必要になったら、いつでも訪ねてこい」


「俺が生きてる限りは、必ず直してやる」


マットも力強く頷く。


「その時はよろしく頼む」


店を出ると、鍛冶街の空気が再び体を包んだ。


遠くでハンマーの音が鳴り続けている。


マットは新しいガントレットを握りしめた。


蒼銀の装備は、まるで身体の一部のように馴染んでいた。


リーリヤが少し笑う。


「いい買い物だったわね」


「買い物というか、交換だったけどね」


ロイドが言う。


アルエはマットの腕をつついた。


「さあ、それじゃ行こうか」


カーボが立ち上がる。


ササミが羽を広げ、アミノがマットの腕へ巻き付いた。


マットたちは街の門へ向かって歩き出した。


新しい装備と共に、最初の依頼へ向かうために。



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