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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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78話 数字と依頼


しばらく笑い声が続いたあと、グラハムがふと腕を組み直した。


豪快に笑っていた顔から熱が少しだけ引き、代わりにギルドマスターとしての冷静な目が戻ってくる。その変化はほんのわずかなものだったが、先ほどまで腕相撲で盛り上がっていた空気が、そこで静かに切り替わった。


「……さて」


低く呟き、改めてマットたち一行を見渡す。


「マット。お前さんの実力はよーくわかった。力だけなら、Bランクも視野に入るくらいだ」


その言葉にリーリヤとアルエが目を丸くした。


Bランク。


それは一人前の冒険者として認められる領域であり、地方都市なら中堅どころか主力として扱われることも珍しくない。預かりCランクのマットに対して、ギルド総本部の長がそこまで言うのは、かなり破格の評価だった。


マット本人はというと、腕をぶんぶん振って痺れを散らしながら首をかしげている。


「Bランクってそんなにすごいのか?」


「すごいのよ」


リーリヤが即座に言った。


「少なくとも、子供のうちにそんな評価をもらうのは普通じゃないわ」


「そうなのか」


「そうなの」


アルエも呆れ半分、感心半分といった顔で頷いた。


「普通はもっとこう……地道に依頼をこなして、少しずつ上がっていくものなんだよ。いきなり筋力でねじ伏せるのはあんたくらい」


「なるほど」


納得したように頷くマットの横で、グラハムが鼻を鳴らす。


「そこの嬢ちゃんたちも魔法の腕は大したもんなんだろ。言わなくても十分に分かる」


アルエは得意げに胸を張り、リーリヤは少し照れくさそうに目を逸らした。


「そして従獣たちだ。どいつもこいつも強力なモンスターだ。それによく鍛えられてる。その力を想像するのも難しいことじゃない」


グラハムは顎を撫でながら続けた。


「とはいえ、数字ってのは裏切らないもんだ」


そして、にやりと笑う。


「ステータスも見せてみろ」


その一言に、ロイドが軽く頷いた。


「確かに。それが一番早いですね」


カタリナほどの大きな街になると、冒険者を判断する基準は実績だけではない。実力の裏付けとして、ある程度の数値を確認することも珍しくない。特に、未知の案件や特殊な依頼を回すとなればなおさらだ。


「久しぶりだな」


マットはそう呟きながら、自分のステータスを開いた。


青白い半透明の画面が空中に浮かび上がる。


その表示を、グラハムもロイドも、リーリヤたちも覗き込んだ。


――――――――――


マット


種族:人間 レベル:42


生命力:332 魔力量:125 筋力:437 耐久:415 敏捷:104 器用:53 精神:102


適性

・回復魔法:EX

・身体強化:A


技能

・回復魔法

・自己回復促進

・筋肉制御

・電撃適応

・栽培

・従魔契約


称号

・筋肉狂い

・異常成長体

・回復する拳

・モンスタートレーナー


備考

・電気刺激訓練による神経伝達強化


――――――――――


「……相変わらず訳の分からん数値だな」


グラハムが最初に漏らしたのは、半ば感心したような声だった。


もっとも、全体の空気としては、筋力四百三十七という数値そのものより、すでにそれを受け入れている雰囲気の方が異常だった。


「栽培?」


マットは腕を組みながら画面を眺める。


「ああ、豆のことか。しかし、これが特性ってどういうことだ?」


首をひねりながら呟き、今度は別の欄に目を止める。


「それに従魔契約が増えてるな。正式に特性扱いされたのか」


「そこに反応するのね」


リーリヤが小さく笑った。


「筋力の数字にはもう誰も驚かないんだな」


ロイドが苦笑する。


「今さらそこに突っ込んでも仕方ないからね。むしろ日々の行動の結果が、きちんと技能や称号に反映されている方が興味深い」


「筋肉狂いって称号はどうなんだ?」


アルエが言うと、マットは少しだけ胸を張った。


「悪くないだろ」


「褒めてないのよ」


そんなやり取りのあと、次にカーボのステータスが表示された。


巨大な狼は自分が話題の中心になっていることを理解しているのか、静かにその場へ座り、尻尾を一度だけ床に打ちつける。


――――――――――


カーボ


種族:アルファダイアウルフ レベル:42


生命力:312 魔力量:74 筋力:312 耐久:256 敏捷:276 器用:152 精神:134


適性

・統率:A

・感知:A


固有技能

・群狼統率

・危険察知

・迎撃

・高速突撃

・指揮


称号

・群れを率いる牙

・守護狼


――――――――――


それを見たロイドとグラハムが、ほとんど同時に眉を上げた。


「……こいつはもうアルファだろうが何だろうが、ダイアウルフのステータスじゃないな」


グラハムが低く言う。


ロイドも真剣な顔で頷いた。


「うん。ここまで行くと、むしろホワイトウルフやシルバーウルフに進化していてもおかしくない」


「というか、進化していないことの方が不思議だ」


グラハムが腕を組む。


「まさか進化を拒んでいる?」


その言葉に、部屋の空気がほんの少しだけ変わった。


ロイドは顎に手を当て、考え込む。


「そんなことが可能なのか……? いや、理屈の上ではあり得る。進化というのは常に強制されるものじゃなく、個体の意思や環境条件で遅延する例も報告はある。ただ……」


「ただ?」


リーリヤが問う。


「ここまで明確に上位種相当の能力を持ちながら、種族表記が変わらないのは珍しい。かなり珍しいどころじゃない」


ロイドはカーボを見る。


カーボ本人はただ静かに尻尾を揺らし、特に気にした様子もない。むしろ、話の内容を分かっていて黙っているような落ち着きすら感じさせる。


「何か意味があるのかもしれねぇな」


グラハムが言った。


「だが、今の段階じゃ分からんか」


「うん。分からない」


ロイドは素直に頷いた。


「分からないけれど、興味深い」


「お前さん、その言い方だと余計に怪しく聞こえるぞ」


グラハムが呆れたように言うと、ロイドは少しだけ咳払いをした。


次に表示されたのは、リーリヤのステータスだった。


リーリヤは少し嫌そうな顔をしつつも、観念したように画面を開く。


――――――――――


リーリヤ


種族:人間 レベル:28


生命力:112 魔力量:162 筋力:34 耐久:46 敏捷:72 器用:188 精神:126


適性

・水魔法:A-

・魔法制御:A

・氷雪魔法:B+

・光魔法:C+


固有技能

・水流制御

・水刃生成

・水盾

・氷雪刃

・光球

・従魔契約


称号

・流水の術者


――――――――――


「……え?」


最初に声を上げたのはアルエだった。


「従魔契約?!」


リーリヤ自身も目を丸くする。


「ちょっと待って……いつの間に?」


「契約した覚えある?」


「ないわよ!」


即答だった。


その反応にロイドがすぐ鑑定魔法を走らせる。指先に薄い光が走り、視線がリーリヤのステータスからササミへ移る。


「……なるほど」


ゆっくりと頷く。


「ササミと契約している」


全員の視線が一斉にササミへ向いた。


蒼銀の鳥は、きょとんとした顔で首を傾げる。


「クエ?」


当の本人――いや、本鳥には自覚があるのかないのか、反応は妙にのんびりしていた。


「つまり今の状態だと……」


ロイドが説明を続ける。


「ササミはマットとリーリヤ、二人と契約している形になる」


グラハムが感心したように口笛を吹いた。


「へぇ。珍しいが、前例がないわけじゃねぇな」


「特殊って程度だ」


「特殊って程度で済ませるのね……」


リーリヤはまだ混乱した顔をしていたが、ロイドはさらに画面の別の項目を指した。


「それよりこっちの方が面白い」


「複数属性適性だ」


水、氷雪、光。


魔法適性が三系統に及んでいた。


ロイドの目が、研究者特有の光を帯びる。


「これはかなり珍しい。水と氷雪はまだ分かる。でも、そこに光が混ざっているのは面白いね」


「面白いって軽く言わないでよ」


「いや、本当にすごいことだよ」


ロイドは珍しく素直に感心していた。


「魔法制御Aも含めて考えると、意外な才能が開花しつつあるのかもしれない」


リーリヤは少し戸惑いながら、自分の手を見る。


確かに最近、水魔法の扱いが以前より滑らかになっている感覚はあった。ササミと息を合わせた時に、不思議と魔力の流れが通りやすいと感じることも増えている。


「……そういうものなのかな」


「そういうものかもしれん」


グラハムが言った。


「才能ってのは、だいたい後から見つかるもんだ」


続いてアルエのステータスが表示された。


本人はどこか待ってましたと言わんばかりの顔で胸を張っている。


――――――――――


アルエ


種族:人間 レベル:30


生命力:132 魔力量:184 筋力:38 耐久:56 敏捷:62 器用:99 精神:168


適性

・火魔法:A

・魔力操作:A-


固有技能

・ファイアボール

・魔力圧縮

・火炎鞭

・豪火球


称号

・紅炎の魔法使い


――――――――――


「豪火球?」


リーリヤが目を細める。


アルエは、ふふんと得意げに胸を張った。


「中級魔法よ」


「こっそり練習してたの」


「こっそり、ねぇ」


リーリヤは半眼になった。


「だから最近、夜中に庭の隅で爆発音がしてたのね」


「あれはちゃんと加減してたよ?」


「基準がおかしいのよ」


ロイドが苦笑する。


「フレアブラストか。なるほど、火球の圧縮率を一段上げているんだね」


「そうそう。こう、ぎゅっと詰めて、どかんって」


「説明が雑」


「でも強いでしょ?」


「それはそう」


アルエは満足そうに笑った。


しばらく笑い声が続いたあと、グラハムがふと腕を組み直した。


「そういや」


グラハムはふと視線を横へ向けた。


マットの腕に巻き付いている白い蛇――アミノ。そして机の端に止まっている蒼銀の鳥、ササミ。


「そいつらのステータスも見せてみろ」


「最近確認したばかりだけど、確かにまとめておいた方がいいなね」


ロイドが頷く。


マットは素直に頷き、アミノのステータスを表示した。


――――――――――


アミノ


種族:シンビオートヴァイパー レベル:37


生命力:164 魔力量:286 筋力:106 耐久:138 敏捷:184 器用:158 精神:261


適性 ・電撃魔法:A+ ・感知:A ・毒耐性:B


固有技能 ・電磁探知 ・振動感知 ・雷牙 ・電撃放出 ・共生強化 ・毒吸収


称号 ・共にある蛇


――――――――――


グラハムが低く唸る。


「ほう……蛇のくせに魔力量がえらく高ぇな」


「共生型の魔獣ですからね」


ロイドが補足する。


「宿主の魔力循環と連動する個体は、精神や魔力量が高くなる傾向があります。マットの場合は回復魔法適性も影響しているでしょう」


アミノはその話を理解しているのかいないのか、マットの腕へ巻き付いたまま小さく舌を出した。


続いてササミのステータスが表示される。


蒼銀の鳥はどこか誇らしげに胸を張っていた。


――――――――――


ササミ


種族:ミスリルイグナイト レベル:40


生命力:256 魔力量:232 筋力:196 耐久:331 敏捷:188 器用:94 精神:183


特性 ・鉱石選別 ・金属蓄積 ・希少金属吸収 ・魔力遮断 ・魔力蓄積


固有技能 ・金属砕き ・魔断爪 ・嘴強化 ・採掘加速 ・飛行


称号 ・蒼銀の翼


――――――――――


グラハムは腕を組んだまま、しばらく画面を眺めていた。


「……こりゃまた妙な連中だな」


感心したように笑う。


「蛇は魔法寄り、鳥は完全に鉱石系の魔獣か」


「しかも飛行型で採掘能力持ちとは、冒険者的にはかなり便利だ」


ロイドも頷いた。


ただ、改めて見てもこの一行はやはり妙だった。


人間三人。


狼一匹。


鳥一羽。


蛇一体。


しかも、そのどれもが一癖も二癖もある。


こうして奇妙な謎をいくつか残しつつ、ステータス確認は一通り終了した。


グラハムは満足そうに頷き、椅子へ深く腰掛ける。


「よし。お前らの実力もステータスも十分わかった」


「これで俺から回す依頼も吟味できる」


マットが首をかしげた。


「指名依頼?」


グラハムはニヤリと笑った。


「まあ、指名ではあるが、俺からの依頼はノーカンだ」


「それよりも、お前たちにしか頼めない依頼が既に何件かある。それを順番に片付けてくれ」


「俺たちにしか頼めない?」


マットが目を輝かせる。


グラハムは机の上の書類を指で軽く叩いた。


「例えば、例のキマイラ関係の依頼」


ロイドが頷く。


「なるほど」


「イレーヌのところの冒険者は大概アーデンから離れられない」


「そういうことだ」


グラハムは豪快に笑う。


「使えるコマはお前らくらいだ」


その言い方にリーリヤが少しだけ眉をひそめるが、グラハムは気にした様子もなく続けた。


「他にも、特殊進化や強制進化薬やら、よりどりみどりだ」


そして机の引き出しから数枚の依頼書を取り出し、どさりと並べた。


厚手の紙に記された文字はどれも簡潔だが、その内容は重い。


キマイラと思われるモンスターの痕跡調査。


異常進化個体の確認依頼。


進化薬流通経路の調査。


一つ一つが、今この大陸のどこかで静かに広がりつつある不穏さと直結していた。


「どれからやる?」


その問いに、マットは依頼書を覗き込みながら笑う。


筋肉を鍛えるには、これ以上ない環境だった。


リーリヤはそんなマットの横顔を見て、少しだけ肩の力を抜く。アルエは机に並んだ依頼書を眺めながら、面白そうだと口元を緩めていた。ロイドの目はすでに研究者のそれになっていて、未知の進化の痕跡を追えることに明らかに高揚している。


カーボは静かに伏せ、ササミは机の端へ飛び乗り、アミノはいつの間にかマットの腕へ巻き付いていた。


カタリナでの仕事が、ここから本格的に始まる。


その予感だけは、誰の胸の中にもはっきりとあった。



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