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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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73話 街道の先にあるもの


街道は昼下がりの光に満ちていた。


春の終わり。冬の名残をわずかに残していた風はすでに柔らぎ、乾いた草原の匂いをゆっくりと運んでくる。街道の両脇では背丈ほどもある草が揺れ、風の流れに合わせて波のようにうねっていた。遠くでは鳥の鳴き声が響き、時折、空を横切る影が旅人たちの足元に一瞬だけ暗い模様を落としていく。


その街道を、七つの影がゆっくりと進んでいた。


カタリナへ向かう旅の途中。


だが、隊列の先頭を歩くのは人ではない。


巨大な狼だった。


灰色の体毛は陽光を受けて鈍く輝き、肩までの高さだけでも成人男性の胸ほどはある。通常のダイアウルフより一回り、いや二回りは大きいその体躯は、ただ歩いているだけでも周囲の空気を押しのけるような威圧感を持っていた。


アルファダイアウルフ。


群れの王として進化した個体。


カーボ。


マットはその巨大な背に気軽に手を乗せながら歩いている。旅の道中ではむしろこの狼に乗って移動している時間の方が長いくらいで、周囲から見れば奇妙な騎乗の形だった。


カーボは低く鼻を鳴らしながら歩いている。


耳は絶えず動き、風の流れを読むように周囲の音を拾い続けていた。鼻先は常に風上を向き、草むらの奥の匂いまで嗅ぎ分ける。


斥候。


その役割は、完全に身体に染みついているようだった。


「なあロイド」


マットが肩を回しながら言う。


筋肉がぎしりと鳴るような音が聞こえそうなほど大きく腕を回し、背中の筋を伸ばす。


「この辺で一回休まないか?」


「もう休憩するの?」


即座にリーリヤが振り返った。


淡い色の髪を揺らしながら、半ば呆れたような視線をマットへ向ける。


「いや、あれは休憩じゃない」


マットは真顔で言う。


「筋トレの合間のインターバルだ」


「同じよ」


リーリヤは小さくため息をついた。


その横で、アルエがくすりと笑う。


「ねえマット。普通の人はね、移動中に腕立てとかしないの」


「そうなのか?」


「そうなのよ」


「だが歩きながらでも鍛えられる筋肉はある」


そう言ってマットはその場でスクワットを始めた。


ゆっくり腰を落とし、そして立ち上がる。


地面を踏みしめるたびに、筋肉が服の上からでも分かるほど膨らむ。


「……また始まった」


アルエが肩を落とす。


「歩きながら筋トレする冒険者なんて聞いたことないわよ」


「でもマットらしいでしょ」


リーリヤは苦笑する。


その時だった。


カサッ


草むらが揺れた。


次の瞬間、灰色の影が飛び出す。


鋭い牙。


低い唸り声。


「モンスター!」


アルエが即座に杖を構える。


だが、ロイドが片手を上げた。


「待ってください」


視線は鋭く、すでに対象を観察している。


飛び出してきたのは二匹のウルフだった。


白い体毛。


細長い身体。


ホワイトウルフ。


だが――。


「妙だね」


ロイドがゆっくりと近づく。


ウルフたちは飛びかかることも逃げることもせず、一定の距離を保ちながらこちらを見ていた。


「普通は群れで活動するモンスターなんだけど」


「お腹減ってないんじゃない?」


アルエが言う。


「いや」


ロイドは首を振る。


「この個体……」


彼は目を細めた。


「筋肉の付き方が妙だね」


その言葉に、マットがぴくりと反応した。


「筋肉?」


「ええ」


ロイドはウルフを観察する。


「通常より筋繊維が太い。骨格に対して筋量が明らかに多い」


「まるで――」


「鍛えてるみたいってことか?」


マットが言う。


「いえ」


ロイドは静かに答えた。


「鍛えた筋肉ではこうはならないだろうね。筋繊維が自然な配列になっていない」


「言ってみれば無理やり肥大化させた筋肉だ」


その瞬間。


ウルフが飛びかかった。


「来た!」


マットが一歩前へ出る。


拳が振り抜かれた。


ドンッ


衝撃。


ウルフは地面へ叩きつけられ、砂を巻き上げながら転がる。


だが、もう一匹が横から飛び込んできた。


「マット!」


リーリヤの魔法が発動する。


白い光。


フラッシュ。


一瞬、視界を焼きつくす光が弾けた。


ウルフの動きが止まる。


その瞬間、空から影が落ちた。


ガキィン


金属音。


蒼銀の羽。


ササミの爪がウルフを叩き伏せる。


羽毛は金属光沢を帯び、まるで刃のように光っていた。


「さすが」


ロイドが感心する。


「ミスリルイグナイト……魔法耐性が高いだけではなく、純粋な攻撃力もロックスイーパーのころとは桁違いだ」


「ササミはすごいね!」


リーリヤが誇らしげに言う。


その腕の表面を、細い影が走る。


アミノだった。


いつの間にリーリヤの腕にくっついている。


微かな放電がぱちりと弾けた。


「……アミノまた太くなってるんじゃない?」


リーリヤが呆れた声を出す。


「俺もアミノも戦えば戦うほど筋力が成長するみたいだからな。効率いいだろ」


マットは笑う。


ロイドはその様子をじっと見ていた。


「本当に興味深い」


「何が?」


マットが振り返る。


ロイドはゆっくり言った。


「全部だよ」


「回復魔法と筋肉損傷のループ」


「普通なら成立しない理屈だ」


「それでも君は成立させてしまっている」


マットは頭をかいた。


「よくわからんが、鍛えれば強くなるだろ」


「その通り」


ロイドは小さく笑う。


「そして君のおかげで、面白い進化もたくさん見れる」


だがその表情は、どこか遠くを見ているようだった。


「しかし世の中には」


「鍛えずに強くなろうとする人もいる」


風が吹いた。


ロイドの表情が、ほんの一瞬だけ曇る。


リーリヤがそれに気づいた。


「……誰か、知り合いのはなし?」


ロイドは少しだけ黙った。


そして言った。


「昔の仲間。いや、パーティメンバーかな」


「彼も僕と同じく冒険者をしながら研究を行っていた同志ともいえる仲だったんだ」


「でもね、彼はどこか」


ロイドは遠くの空を見た。


「進化という現象に取りつかれていた」


マットが首をかしげる。


「憑りつかれる?」


「ええ」


ロイドは静かに言う。


「進化という現象の行きつく先」


「それをずっと追い求めていたんだ」


「最後の時まで」


しばらく誰も何も言わなかった。


その時だった。


カーボが低く鳴いた。


グルル……。


ただの警戒音ではない。


マットがすぐに理解する。


「前方警戒か?」


カーボは一度だけ短く吠えた。


ロイドが目を細める。


「敵の気配を見つけた時の合図だね。相変わらず優秀な斥候だ」


マットはカーボの首筋を軽く叩いた。


「よく気づいたな」


巨大な狼は小さく鼻を鳴らす。


街道の先。


遠くに都市の影が見えていた。


高い塔。


巨大な城壁。


カタリナ。


大陸中の冒険者が集まる都市。


ロイドが呟く。


「さて」


「ここからが本番だね」


マットは拳を鳴らした。


「強いやつ、いるかな」


リーリヤがため息をつく。


「マットはそれしか考えてないでしょ」


アルエが笑う。


「まあ、それがマットだからね」


蒼銀の翼が空を切る。


ササミが先へ飛んだ。


その背中を見ながら、ロイドは小さく呟いた。


「ゾーナス……」


「君にもこの光景を見せてあげたかったよ」



カタリナ編スタートです。


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