第7話 コカトリス
その日、村は朝から騒がしかった。
叫び声。
家の戸が開く音。
誰かが必死に何かを叫んでいる。
「モンスターだ!!」
「森から出てきた!!」
「でかいぞ!!」
俺は畑で鍬を振っていた手を止めた。
「モンスター?」
この辺りでモンスターは珍しくない。
だが、村の中まで入ってくることは滅多にない。
しかもこの騒ぎ方。
ただ事ではないらしい。
俺は鍬を地面に立てかける。
「ちょっと見てくる」
そう言って村の方へ走った。
村の広場へ近づくにつれて、騒ぎはどんどん大きくなる。
人が逃げている。
叫んでいる。
家の中に駆け込む者。
武器を持って集まる者。
そして――。
そいつは、広場の真ん中にいた。
巨大な鳥のような体。
だが羽はなく、代わりに鱗に覆われている。
鋭い鉤爪。
長い蛇のような尾。
そして――岩をも砕きそうな嘴。
黄色い瞳がぎらりと光る。
コカトリス。
本来は森の奥に棲む、かなり強力なモンスターだ。
この辺りではまず見ない。
少なくとも、こんな人の多い場所に出てくることはない。
村人たちは完全にパニックになっていた。
コカトリスが嘴を振り回す。
ドゴォッ!
地面が抉れる。
家の壁が砕ける。
「逃げろ!!」
「近づくな!!」
村の男たちが武器を構えているが、誰も踏み込めない。
その様子を見て――。
俺は少し首をかしげた。
「……あれ?」
確かに大きい。
確かに迫力もある。
だが。
振り回される爪も。
地面を抉る嘴も。
蛇のようにしなる尾も。
全部。
妙に――遅く見える。
「こんなもんか?」
思わず呟く。
洞窟で毎日スパーリングしている相手と比べると。
正直――。
「カーボの方が強くないか?」
その時だった。
「マット!」
聞き慣れた声がした。
振り向く。
母さん――エルザだった。
剣を手に持ち、こちらへ駆けてくる。
「こっちに来なさい!」
どうやら俺を逃がそうとしているらしい。
まあ、母さんの腕ならコカトリス相手でも遅れを取ることはないのだろうが。
「母さん。大丈夫だよ?」
「何言って――」
その時。
コカトリスがこちらを向いた。
鋭い瞳が俺を捉える。
次の瞬間。
突進。
巨大な爪が振り下ろされる。
俺は一歩踏み込んだ。
そして。
拳を振る。
ドゴォッ!!
鈍い衝撃音が広場に響く。
コカトリスの頭が横に跳ねた。
巨体がぐらりと揺れる。
そのまま。
ドサッ。
コカトリスは地面に倒れた。
沈黙。
村人たちが固まる。
母さんも固まる。
「……は?」
俺は拳を見た。
「……あ」
しまった。
ちょっと力を入れすぎたかもしれない。
だがもう遅い。
「マット」
母さんがゆっくりこちらへ歩いてくる。
「ちょっとこっち来なさい」
「……はい」
これは怒られる流れだ。
そう思って近づくと。
突然。
ぎゅっ。
抱きしめられた。
「心配したのよ!!」
「……え?」
予想外だった。
その時。
ぽわん、と白い光が灯る。
鑑定魔法。
母さんが俺を見つめたまま固まった。
「……え?」
そして。
「レベル32!?!?」
村中に聞こえる声で叫んだ。
「しかも筋力350!?何がどうなってるのよ!!」
母さんは慌てて自分にも鑑定魔法をかける。
そして自分のステータスを見る。
「レベル27……筋力120……」
俺を見る。
もう一度自分を見る。
そして。
「……説明しなさい」
静かに言った。
「全部」
「えーと……」
俺は頭を掻いた。
農業。
筋トレ。
洞窟。
スパーリング。
回復魔法。
とりあえず思いつくことを全部話しながら――。
俺は気絶したコカトリスの足を掴む。
そしてそのまま。
ズルズルと引きずり始めた。
「……何してるの?」
「ジムに連れてく」
「ジム?」
その後。
洞窟に到着した時。
母さんは――もう一度固まった。
そこにいたのは。
胸を張って立つ巨大な狼。
「……なんでこんなところに」
母さんの声が震える。
「ダイアウルフがいるのよ!!」
「え?」
「ダイアウルフ?」
「山狼でしょ?」
スパーン!
頭を叩かれた。
「こんな山狼がいるわけないでしょ!!」
「明らかに進化してるじゃない!!」
母さんは頭を抱える。
「もう……どうするのよこれ……」
洞窟の中で。
俺とカーボは顔を見合わせた。
「ワン?」




