表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/129

第68話 地下に残されたもの


 青い光に満ちた巨大空洞から、いくつもの枝道が暗闇へと伸びていた。


 調査隊はそこでいったん隊を分けることにした。全員で同じ通路を進むには規模が広すぎるし、足場や安全確認の意味でも複数のルートを同時に見ていく必要があったからだ。


 マットたちはそのうちの一本を任されていた。


 先頭を歩くのはカーボである。


 黒い毛並みの魔狼は、鼻先をわずかに持ち上げながら慎重に足を進めていた。青い鉱石の光はすでに背後の大空洞で途切れており、この通路にはランタンの光しかない。壁も床もむき出しの岩で、踏みしめるたびに靴底の音が鈍く響く。


 通路は人が二人並んで歩けるかどうかという程度の幅しかなく、ところどころで天井が低くなっていた。自然洞窟らしく曲がりくねりながら続いており、先がどこまで伸びているのかはまるで分からない。


 マットは無意識に周囲を見回していた。


 洞窟というのは本来、もう少し生命の気配があるものだ。地下水の滴る音、岩の隙間に潜む虫、小さな動物の気配。しかしこの場所にはそれがほとんどない。鉱石の魔力のせいなのか、それとも別の理由なのかは分からないが、静かすぎるほど静かだった。


 その静寂を破ったのは、カーボの声だった。


「ワフ」


 短い鳴き声。


 しかしその響きは、普段よりずっと低い。


 警戒している時の声だ。


 カーボは足を止め、地面を見つめている。


「どうした?」


 マットが近づくと、カーボは鼻先で地面を軽く突いた。


 そこには、小さな瓶が転がっていた。


 薄いガラスでできた、掌ほどの容器。口は割れており、中身はすでに空だ。だが、どう見ても自然にできたものではない。


「瓶?」


 アルエがしゃがみこんでそれを拾い上げる。


「なんでこんなところにあるの?」


 ロイドもランタンを近づけ、瓶を覗き込んだ。


「……間違いなく人工物だね」


 彼は瓶の口を指でなぞりながら続ける。


「しかも結構最近のものだ。長い時間ここに放置されていたなら、もっと汚れや鉱石の粉が付着しているはずだから」


 リーリヤが周囲を見渡した。


「つまり、人がここに来てるってこと?」


「可能性じゃなくて、ほぼ確定だろうね」


 ロイドは静かに言った。


「この瓶、錬金薬を入れる容器に近い形状だ。冒険者が携帯する回復薬とは少し違う」


 マットは瓶を手に取り、光にかざす。


 瓶の内側には、ごくわずかに紫色の染みが残っていた。


「薬の跡?」


「そう見えるね」


 ロイドは頷いた。


 それから少し歩いたところで、さらに別のものが見つかった。


 岩の隙間に差し込まれた金属の杭。


 壁に刻まれた、簡単な印。


 そして、踏み荒らされた足跡のような痕跡。


 ここまで揃えば、もう疑う余地はなかった。


「完全に人の痕跡だね」


 ロイドが結論を出す。


 リーリヤは眉をひそめた。


「こんな地下の奥で、何してるのよ」


「それは……」


 ロイドは言葉を濁した。


 だが、その先を口に出さなくても、全員の頭には同じ考えが浮かんでいた。


 こんな場所で、人工の薬瓶を使う人間。


 まともな仕事であるはずがない。


「これじゃ、悪の科学者が居ても全然驚かないね」


 アルエがぽつりと言う。


 誰も反論しなかった。


 マットは少し考え、それから口を開く。


「イレーヌを呼ぼう」


「そうだね」


 ロイドも同意した。


 もしここに人の関与があるのなら、これはもう単なる洞窟調査ではない。ギルドの正式な案件になる。


 カーボが来た道を振り返り、軽く吠えた。


 ほどなくして、イレーヌと調査隊の残りが合流した。


 彼女は瓶を受け取り、しばらく黙って眺めていた。


 それから深く息を吐く。


「……やっぱりね」


 疲れた声だった。


「こんなところで人工物が見つかるなんて、嫌な予感しかしないわ」


 彼女は瓶をロイドへ返した。


「どう思う?」


「錬金薬の容器だと思う。少なくとも、普通の回復薬じゃない」


「つまり?」


「地下で何かを作ってる人間がいる」


 ロイドは静かに答えた。


 イレーヌは腕を組む。


「……本当に、悪だくみをしている人間が居るとしか思えないじゃない」


 しばらく相談したあと、調査隊はこの枝道をさらに進むことに決めた。


 カーボが再び先頭に立つ。


 通路はゆるやかに下りながら続いていた。


 やがて。


 ロイドが足を止めた。


「待って」


 声は小さかったが、全員がすぐに立ち止まる。


「どうした?」


 マットが尋ねる。


 ロイドは耳を澄ませていた。


 それから、低い声で言う。


「空気の流れが変わった」


 言われてみれば、確かにそうだった。


 わずかな風が、奥からこちらへ流れてきている。


 しかもその風は、どこか広い空間を通ってきたような匂いがした。


 ロイドは周囲の岩壁を見ながら呟く。


「この奥に、広い空間があるね」


 声を潜めたままの言葉だった。


 カーボが低く唸る。


 ウゥ……


 明らかな警戒。


 マットはゆっくりと剣の柄に手を置いた。


 全員の足取りが自然と静かになる。


 通路は緩やかに曲がり、その先で急に視界が開けた。


 ランタンの光が闇の奥へ広がる。


 そこは、先ほどの鉱床空洞とは別の空間だった。


 床には岩が散らばり、中央には不自然な石の台がいくつも並んでいる。壁には鉄の枠のようなものが打ち付けられ、砕けた鎖が床に落ちていた。


 そして。


 その奥で、何かが動いた。


 低い唸り声。


 重い呼吸。


 ランタンの光がその姿を照らす。


 それは、ライオンのような体をしていた。


 だが、どこかがおかしい。


 肩からは甲殻のような硬い装甲が生え、背中には本来あるはずのない棘が並んでいる。尾は爬虫類のように太く、片方の前脚には蜘蛛のような節のある構造が混ざっていた。


 複数の生き物を、無理やり繋ぎ合わせたような姿。


 その怪物が、ゆっくりと顔を上げる。


 黄色い瞳が、調査隊を捉えた。


 ロイドが息を呑む。


「……キマイラ」


 次の瞬間。


 怪物は、咆哮を上げた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ