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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第63話 森の調査と毒蜘蛛


 鍛冶屋を後にした翌日、マットたちはギルドの依頼掲示板の前に立っていた。


 最近、この街の周辺ではモンスターの様子がおかしい。縄張りの移動、普段見ない種族の出没、そして進化しかけの個体。小さな異常が重なり始めており、放置すればいずれ大きな問題になる可能性がある。そこでギルドは周辺の調査依頼を出していた。


「討伐じゃなくて調査か」


 依頼書を眺めながらマットが呟く。


 受付のロイドが腕を組み、軽く肩をすくめた。


「今のところ被害は出てないからね。原因が分からない状態で無闇に討伐しても状況が悪化するかもしれない。まずは何が起きているのか確認する段階だよ」


 ロイドはそう言いながら地図を広げる。アーデンの街の周囲には森や丘陵が広がっており、いくつかの狩場が点在している。そのうちの一つを指先で叩いた。


「最近、妙にモンスターの気配が濃いのがこの森だ。小型の魔物が急に減ったり、逆に見ない種類が出たりしているらしい」


「見ない種類?」


 リーリヤが眉を寄せる。


「この辺りには本来いないはずのモンスターが出たって報告がいくつかある。まだ確証はないけど、念のため調べておきたいんだ」


 ロイドはそこで一度言葉を切り、マットたちを見回した。


「無理に奥まで踏み込む必要はない。危険そうなら戻ってきてくれればいい。ただ、可能な限り状況は見てきてほしい」


 マットは頷き、依頼書を掲示板から外した。


「分かった。様子を見てくる」


 昼前、マットたちは森の入口に立っていた。


 アーデンの街からそう遠くない場所にあるこの森は、普段なら薬草採取や低ランクの狩りでよく使われる場所だ。危険な魔物は少なく、初心者の冒険者でも足を踏み入れることができる。だが今日は、森の空気がどこか重く感じられた。


 風は吹いているのに、鳥の声がほとんど聞こえない。


「静かね……」


 リーリヤが周囲を見回す。


「いつもなら、もう少し賑やかなんでしょうね」


 アルエは落ち着かない様子で辺りをきょろきょろ見回していた。


「なんかやだなぁ、この感じ」


 そう言いながらも、彼女は手にした鞭を軽く振る。最近覚えたばかりの魔法、フレイムウィップ。魔力を込めれば炎をまとった鞭が形成されるという、彼女にとってはかなり気に入っている技だった。


 マットは森の奥へ視線を向ける。


 足元には折れた枝が散らばり、ところどころ地面が荒れている。何かが通った跡のようにも見えるが、はっきりとは分からない。


 その時だった。


 アミノが、ふと足を止めた。


 地面の上で身体を持ち上げ、舌を何度も空気に伸ばす。


「どうした?」


 マットが声をかけると、アミノはしばらく同じ動きを繰り返した後、ゆっくりと森の奥を向いた。


 リーリヤが小さく息を吸う。


「……毒の匂いがする」


「毒?」


 アルエが顔をしかめる。


 その直後。


 マットの頬に、何かが触れた。


 細く、柔らかな感触。


 手で払うと、それは白い糸だった。


「……糸?」


 視線を上げる。


 木と木の間に、白い糸が幾重にも張り巡らされていた。普通の蜘蛛の巣とは比べ物にならないほど太く、しかも広い範囲に広がっている。


 そして。


 その中央。


 逆さにぶら下がる巨大な影があった。


 人ほどの大きさの黒い体。


 八本の脚がゆっくりと動き、腹部には毒々しい紫色の模様が走っている。顎の部分では鋭い牙がわずかに開き、糸の上を伝ってこちらを観察していた。


「……ベノムスパイダー」


 リーリヤが低く呟いた。


「この辺では珍しい種族だよ」


 その言葉が終わるより早く、蜘蛛が動いた。


 糸を伝って一気に距離を詰め、地面へと落下する。


 マットは前へ踏み出し、拳を構える。


 鈍い衝撃とともに蜘蛛が着地し、八本の脚を広げる。威嚇するように牙を鳴らし、体を低く構えた。


 だが、その時。


 森の奥から、かさり、と乾いた音がした。


 続いて、もう一つ。


 さらにもう一つ。


 葉の擦れる音が次々と重なる。


 マットたちは一斉に視線を向けた。


 木の根元、倒木の陰、岩の隙間。


 そこから、次々と黒い影が現れる。


 八本脚の影。


 同じ姿の蜘蛛。


 そして、また一匹。


 さらにもう一匹。


 気がつけば、周囲の木々の間には十匹以上のベノムスパイダーが姿を見せていた。


 アルエが思わず声を上げる。


「ちょっと! どこが珍しいのよこれ!」


 リーリヤも顔を引きつらせる。


「確かに……これは普通じゃないね」


 マットは周囲を見回し、低く息を吐いた。


「完全に繁殖してるな」


 アルエは鳥肌でも立ったのか、肩を震わせた。


「そんなことどうでもいいよ! あんなにいっぱいいたら気持ち悪い!」


 そう叫ぶと同時に、彼女の腕が振られた。


 炎が弧を描く。


 フレイムウィップ。


 燃え上がる鞭が空気を裂き、前方の蜘蛛の群れを薙ぎ払った。


 火花が散り、数匹のベノムスパイダーが吹き飛ぶ。


 しかし残りの個体はすぐに散開し、木の幹や地面を這って包囲を広げ始めた。


 その様子を見ながら、マットは盾を握り直す。


 背後でロイドの言葉が思い出された。


 ベノムスパイダーは、その名の通り強力な毒を持つモンスターだ。


 もし噛まれれば、ただでは済まない。


 マットは仲間たちに短く声をかけた。


「十分に気を付けて立ち回るんだよ!」


 森の静寂は、もう完全に消えていた。


 八本脚の群れが、じりじりと距離を詰めてくる。


 そして次の瞬間。


 蜘蛛たちは一斉に跳びかかった。



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