表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/129

第60話 ギルドマスター、イレーヌ


 研究員に案内されながら、マットたちは広場の中央にある建物へと向かった。


 ギルド支所は、周囲の倉庫や飼料小屋と比べれば少しだけ大きいが、それでも都市のギルドほど立派なものではない。厚い梁で組まれた木造の建物に、魔獣の爪跡を補修した跡がいくつも残り、入口の扉には古い鉄板が打ち付けられている。実用一点張りの建物だった。


 扉を押し開けると、中は思った以上に忙しそうだった。


 依頼書の束。


 運び込まれた魔獣素材。


 カウンターの奥で言い争う研究員と冒険者。


 そして、壁際には捕獲用の檻まで置かれている。


 普通のギルドなら酒の匂いが漂っているところだが、ここは違う。薬品と干し草と獣臭が混ざった、どこか研究施設に近い空気が満ちていた。


 その奥の机で、一人の女性が書類の山に埋もれていた。


 長い金髪。


 整った顔立ち。


 背筋の伸びた姿勢。


 上品な雰囲気の女性だった。


 だが――


 目の下には、うっすらとしたクマがある。


 書類をめくる指の動きも、どこか疲れている。


 研究員が声をかけた。


「イレーヌ。例の一行を連れてきた」


 女性はゆっくりと顔を上げた。


 その視線は、まずロイドに向き、次にマットたちへ。


 そして――


 カーボ。


 ササミ。


 アミノ。


 三匹のモンスターを順番に見る。


 そこで、わずかに眉が上がった。


「……なるほど」


 女性は椅子にもたれ、深く息を吐いた。


「噂の子供たち、というわけね」


 アルエが小声で言う。


「やっぱり噂になってるんだ……」


 イレーヌは苦笑した。


「なってるわよ。かなりね」


 書類をまとめながら続ける。


「サリアンから報告も来てるし、冒険者経由の話も回ってくる。モンスターを三匹連れた子供のパーティ。しかも能力値がおかしい」


 そこで視線がマットへ向く。


「あなたがリーダー?」


「そうだけど」


 マットが答えると、イレーヌは頷いた。


「私はここのギルドマスター、イレーヌよ」


 さらりと言ったが、その声には妙な重みがあった。


 ただの事務員ではない。


 昔、前線に立っていた人間の声だ。


 リーリヤがそれを察したのか、小さく呟く。


「……強い人ですね」


 イレーヌは肩をすくめた。


「昔はね。今は書類とモンスター騒ぎの処理係よ」


 机の横には、折れた槍が立てかけられていた。


 飾りではない。


 実際に使われていた武器だ。


「ここ最近、トラブルが多くてね」


 イレーヌはこめかみを軽く揉む。


「モンスターの暴走、飼育区画の事故、研究者同士の揉め事……」


 疲れた声だった。


「研究には興味ないの?」


 アルエが聞く。


 イレーヌはきっぱり答えた。


「全然」


 即答だった。


「私は研究者じゃない。ギルドマスターよ。街の秩序を保つのが仕事」


 それでも、と彼女は続ける。


「情報は全部入ってくる。だから状況は把握してる」


 マットたちを見回す。


「アーデンに来た理由は?」


 マットが答える。


「モンスターの進化を調べに来た」


 イレーヌの視線が、ササミとアミノへ移る。


「……なるほどね」


 しばらく黙ったあと、椅子の背にもたれた。


「まあいいわ」


 軽く手を振る。


「トラブルを起こさないなら歓迎する」


 そして少し笑う。


「ついでに依頼もこなしてくれるなら大歓迎」


 その言い方は軽い。


 だが――


 次の瞬間。


 イレーヌはもう一度、三匹のモンスターを見た。


 カーボ。


 ササミ。


 アミノ。


 その目が、ゆっくり細くなる。


 何かに気づいた顔だった。


 書類を一枚めくる。


 そこには、いくつかの報告書があった。


 サリアンからの情報。


 進化個体。


 異常成長。


 モンスター研究。


 イレーヌは数秒黙り込んだ。


 そして――


 額を押さえた。


「……ああもう」


 小さく呻く。


「嫌な予感がするわ」


 マットが首を傾げる。


「なんで?」


 イレーヌはゆっくり顔を上げた。


 その表情には、完全に悟ったような諦めが浮かんでいた。


「長くこの仕事をしてるとね」


 ため息をつく。


「トラブルの匂いが分かるのよ」


 そして、はっきり言った。


「あなたたち」


 一行を指差す。


「かなり危険な匂いがする」


 アルエが抗議する。


「まだ何もしてないわよ!」


「分かってる」


 イレーヌは苦笑した。


「だから歓迎してるの」


 そして静かに続ける。


「ただ――」


 少しだけ間を置く。


「あなたたちが来たことで、何かが起きる気がしてならないのよね」


 ギルドの窓の外では、遠くの飼育区画でモンスターの鳴き声が上がった。


 イレーヌはそれを聞きながら、もう一度深いため息をつく。


「お願いだから」


 疲れた声だった。


「私の仕事を増やさないでちょうだい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ