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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第55話 次の目的地


 サリアンの冒険者ギルドは、昼下がりでも活気に満ちていた。


 昼食を終えたばかりの時間帯だというのに、ホールには常に人の声が響いている。依頼掲示板の前では、複数のパーティが同じ依頼書を巡って小さな言い争いをしており、受付カウンターでは書類を抱えた職員が慌ただしく行き来していた。奥の酒場スペースからは、昼間だというのに既に酒を飲み始めている連中の笑い声まで聞こえてくる。


 石造りの広い空間には、人と金属と革と魔力の匂いが混ざり合い、いかにも冒険者ギルドらしい雑多な空気が満ちていた。


 その喧騒から少し離れた奥の一角。


 ロイドの執務机の前に、マットたちは集まっていた。


 机の上には、数枚の書類が整然と並べられている。その横ではカーボとササミが床に腰を落ち着け、まるで会議の参加者のように大人しく座っていた。アミノは机の角にちょこんと止まり、小さな電撃をぱちぱちと鳴らしながら周囲を見回している。


 ロイドは書類を一枚手に取り、ゆっくりと目を通していた。


 しばらく紙をめくる音だけが続く。


 やがて。


 ロイドは一枚の紙を机に置き、眼鏡を指で押し上げた。


「結論から言おう」


 静かな声だったが、どこか楽しそうでもあった。


「問題なしだ」


 その言葉に、マットが首を傾げる。


「問題?」


 ロイドは視線を上げ、カーボたちをちらりと見た。


「お前の従魔だ」


 そして腕を組み、椅子にもたれかかる。


「そもそも今回、サリアンに来てもらった理由を覚えているか?」


「覚えてる」


 マットは頷いた。


「俺がテイマーでもないのに、モンスターを従えてるからだろ?」


「そうだ」


 ロイドの表情は真面目だった。


「ギルドとしては、放置できない状況だった」


 テイマー技能がない。


 契約魔法の記録もない。


 それなのにモンスターが三匹。


 普通の冒険者なら、ありえない状況だった。


 従魔契約というものは、魔法体系として確立された技術であり、契約の成立には必ず術式と魔力の刻印が残る。ギルドはそれを確認することで、モンスターの暴走や不正契約を防いできた。


 だが。


 マットの場合、それが存在しなかった。


 契約の記録も、魔法の痕跡もない。


 それなのに。


 カーボは完全にマットを主として認識している。


 ササミも同じだ。


 アミノに至っては、ほとんど子供のようにマットの後をついて回る。


 普通なら、研究対象どころか危険案件だった。


 ロイドは机の上の書類を指先で叩いた。


「研究の結果、分かった」


 視線をマットに向ける。


「マットとこの三匹の間には、確かに従魔契約が成立している」


 マットが眉を上げる。


「でも、契約魔法なんて使ってないぞ?」


「そこが問題だったんだ」


 ロイドは苦笑した。


「普通の方法じゃない」


 その時、横に立っていたレイラムが静かに口を開いた。


「経緯は不明だ」


 落ち着いた声だった。


「だが、契約は成立している」


 研究棟で何度も検証した結果だった。


 魔力の結びつき。


 精神のリンク。


 感情の同期。


 どれを調べても、マットと三匹の間には強固な繋がりが存在していた。


 しかもそれは、通常の従魔契約よりも遥かに自然な形で成立している。


 魔法で縛る契約ではない。


 もっと原始的で、もっと本能的な結びつき。


 研究者としては、むしろ興味深い事例だった。


 ロイドが肩をすくめる。


「つまり」


「ギルドとしては問題なしだ」


 机の上の紙を指で押した。


「レイラムのお墨付き付きだ」


 レイラムは小さく頷いた。


 それだけで十分だった。


 サリアン魔術学院研究棟の主任。


 魔力研究の第一人者。


 彼の判断を疑う者は、この都市にはほとんどいない。


 ロイドは背もたれに身体を預けた。


「というわけで」


「サリアンに来た目的は、達成だ」


 マットは腕を組んで少し考えた。


「じゃあ」


「ストラスに戻るか?」


 その言葉に、ロイドは顎を撫でた。


「それもありだな」


 元々の依頼は、ストラスのギルドから発生したものだ。報告に戻るのは自然な流れだった。


 しかし。


 その時。


 レイラムが静かに言った。


「いや」


 視線を地図に落とす。


「次はアーデンに行くといい」


 ロイドの目が光った。


「アーデン?」


 レイラムは机の上の地図を指差した。


「モンスター進化研究都市だ」


 その名を聞いた瞬間、ロイドの表情が変わる。


「サリアンでは、進化研究はあまり進んでいない」


 レイラムは淡々と続ける。


「だがアーデンでは、ギルドと学院が共同で研究を行っている」


 魔物の進化。


 突然変異。


 環境適応。


 それらを体系的に調査している都市。


 研究者の間では、半ば聖地のような場所でもあった。


 その言葉を聞いた瞬間。


 ロイドの瞳がきらめいた。


「そうか」


 身を乗り出す。


「アーデンか!」


 彼の視線がカーボへ向く。


 次にササミ。


 そしてアミノ。


「この子たちの進化は興味深いことばかりだ」


 声が明らかに弾んでいる。


「きっと面白いことになるよ」


 マットは少し顔を曇らせた。


「また研究か……」


 ロイドはにやりと笑った。


「いやいや」


 人差し指を立てる。


「もし、より効率的な進化方法が見つかったら?」


 言葉を区切る。


「君のトレーニングも、さらに高みに行けるかもしれない」


 一瞬。


 空気が止まる。


 そして。


 マットの目が光った。


「ありだな!」


 リーリヤがため息をついた。


「やっぱりそうなりますよね」


 アルエも呆れた顔をする。


「単純だなぁ……」


 その横で。


 カーボが嬉しそうに尻尾を振った。


 ササミは何を思ったのか、突然その場で腕立て伏せを始める。


 アミノは小さく電撃を弾いた。


 まるで。


 新しい冒険が始まることを理解しているかのようだった。


 話は、もう決まりだった。


 その頃。


 魔術学院の演習場の隅では。


 ガイナスとグールが、真剣な顔で腕立て伏せをしていた。


「筋肉……」


「筋肉……」


「筋肉……」


 息を合わせるように、同じ言葉を繰り返す。


 周囲の学生たちは遠巻きにそれを眺めていたが、誰も止めようとはしなかった。


 この都市では、奇妙な光景など珍しくもない。


 そして何より。


 彼らが筋肉に目覚めた原因は、皆なんとなく察していた。


 こうして。


 マットたちの次の目的地は決まった。


 モンスター進化研究都市。


 アーデン。


 そこには、まだ見ぬ進化と、未知の強さが待っている。

魔術都市サリアン編終了です。


次は研究都市アーデン。

進化の研究を行う街。

カーボたちは進化するのか?お楽しみに~

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