表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/130

第52話 偽りの筋肉


 研究区画の騒ぎが落ち着いてから数日後。


 地下施設の奥にある小さな会議室で、レイラムは静かに資料を閉じた。


 机の上には、これまでの実験記録が積み上がっている。回復豆の効力、過剰再生の挙動、筋肉トレーニングと回復魔法の相互作用。どれも興味深い結果ではあった。


 だが。


「結論として」


 レイラムは淡々と言った。


「一般への転用は不可能だ」


 研究員の一人が顔を上げる。


「不可能、ですか?」


「正確には、現段階では不可能だ」


 レイラムは椅子にもたれ、指先で机を軽く叩いた。


「回復豆。進化。筋肉トレーニング。どれも単体では興味深い技術だ」


 だが、と続ける。


「根底にあるのは、あの男の異常な回復魔法の出力だ」


 部屋の空気がわずかに沈む。


 研究員たちは皆、実験を思い出していた。砕けた骨が瞬時に戻り、裂けた筋肉が盛り上がるように修復される。あれは通常の回復魔法の挙動ではない。


「さらに言えば」


 レイラムは続ける。


「その回復力を前提にした、狂気じみたトレーニングがある」


 腕を組む。


「普通の人間なら、初日の段階で身体が壊れる」


 別の研究員が苦笑した。


「モンスターでも無理でしょうね」


「その通りだ」


 レイラムは頷く。


「仮に外部に技術が流れたとしても結果は三つだ」


 指を一本立てる。


「暴走」


 二本。


「身体破壊」


 三本。


「魔物虐待」


 机に指を戻した。


「どれも成果とは呼べない」


 研究室に静かな笑いが漏れた。


 つまり。


 真似をしても、意味はない。


 レイラムは最後の資料を閉じる。


「この研究は続ける価値がある。だが長い時間がかかるだろう」


「そして少なくとも」


 ほんのわずか、口元が動いた。


「あの男はもう必要ない」


 研究員たちが頷く。


 実験段階は終わった。


 それだけの話だった。


   ◇


 一方その頃。


 魔法都市の昼下がり。酒場の奥まった席で、数人の男たちが顔を寄せ合っていた。


 杯を傾けていた男が、鼻で笑う。


「ダンジョンじゃなくて、魔法都市の話なんだろ?」


「そうだ」


「なんで魔法都市で筋肉の話が出てくるんだよ」


 もう一人が肩をすくめた。


「完全に眉唾じゃねえか」


 それを聞いて、最初に話を持ち出した男がニヤリと笑う。


「だからこそだよ」


 机を指で叩いた。


「考えてみろ。魔法都市だぞ? 筋肉なんて一番縁がなさそうな場所だ」


 酒瓶を持ち上げ、仲間の顔を見回す。


「そんな場所で“筋肉で強くなる”なんて話が出てきたら――逆に本物っぽく聞こえねえか?」


 男たちは顔を見合わせた。


 ……確かに、そう言われるとそんな気もしてくる。


 腕を組んでいた男が眉をひそめる。


「でもよ、筋肉で強くなるってどういう理屈だ」


「そこは魔法だ」


「は?」


 男は得意げに紙切れを叩いた。


「回復豆ってのがあるらしい」


「豆?」


「食うと回復魔法がかかる」


 酒場の空気が一瞬だけ止まる。


「つまりだ」


 男はゆっくりと言った。


「壊しても、治る」


 その言葉に、誰かがぽつりと呟く。


「……鍛え放題ってことか」


 男は笑った。


「そういうことだ」


 杯が持ち上がる。


「やってみるか」


「おう」


 酒瓶がぶつかり、鈍い音が鳴った。


 その夜。


 世界のどこにも存在しなかった思想が、酒場の隅で生まれた。


 ――筋肉錬成。


   ◇


 その頃。


 ダンジョンの作業区画。


 例のグールが、黙々と石材を運んでいた。


 以前とは違う。


 背筋が伸び、筋肉は引き締まり、動きは妙に効率的だ。


 そして作業が終わると。


 何故か腕立て伏せを始める。


 その様子を見て、マットは満足そうに腕を組んだ。


「いい筋肉になってきたな」


 横にいたレイラムが呆れたように言う。


「グールに筋トレの指導をするな」


 だがグールは、真剣な顔で腕立てを続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ