第46話 従魔研究棟
門をくぐると、学院の空気は街とはまた違っていた。
広い石畳の中庭の中央には巨大な魔法陣が刻まれ、その外周を取り囲むように研究棟が並んでいる。塔の上階からは淡い光が絶えず漏れ、どこかでは魔法実験が続いているらしく、空気の奥でわずかな魔力の震えが感じ取れた。
学生たちが忙しなく行き交っている。
厚い魔導書を抱えた者。
浮遊魔法で箱を運ぶ者。
羽根ペンがひとりでに走る机を抱えて歩く研究助手らしき人物までいる。
リーリヤは思わず立ち止まった。
「……すごい」
アルエも辺りを見回す。
「本当に魔法の学院なんだ」
中庭の向こうでは、掃除用の小型ゴーレムが石畳の埃を静かに集めている。別の場所では学生が小さな火球を浮かべ、術式の制御を練習していた。
マットは腕を組んだまま、建物の並びを見上げる。
「広いな」
ロイドが笑う。
「研究都市の中心だからね。学院そのものが一つの街みたいなものさ」
四人は案内板の前で足を止めた。
石板には学院の区画が刻まれている。
基礎魔法棟。
治癒術研究棟。
錬金術研究棟。
そして、その一角に。
従魔研究棟。
アルエが指差した。
「ここね」
研究棟へ向かう途中、受付を兼ねた小さな窓口があった。書類を整理していた女性が顔を上げる。
「用件は?」
ロイドが答える。
「ストラス学院の外部特待生です。従魔魔法の研究者に話を聞きたい」
女性は二人の少女を見て、小さく頷いた。
「外部特待生ですね。登録は確認できます。従魔研究なら第三研究室に行ってください」
そう言って奥の通路を示す。
石造りの廊下はひんやりとしており、床には細い魔力導線が走っていた。壁には魔獣の骨格標本や、契約術式の図がびっしりと貼られている。
やがて一つの部屋の前に辿り着いた。
扉は半分ほど開いている。
中から紙をめくる音が聞こえていた。
ロイドが軽く扉を叩く。
「失礼します」
部屋の奥で椅子が軋んだ。
現れたのは、髪をぼさぼさにした男だった。ローブの袖にはインクの染みが付き、机の上には書類と魔導書が山のように積まれている。
男は細い目でこちらを見た。
「……何だい」
ロイドが事情を説明する。
「従魔魔法の相談です。少し話を聞きたくて」
男は椅子に腰を戻しながら頷いた。
「従魔魔法? まあいい。相談なら聞こう」
そう言いかけて。
男の視線が止まった。
マットの後ろ。
カーボ。
アルファダイアウルフ。
男の目が細くなる。
次に。
ササミ。
岩の装甲を持つロックスイーパー。
そして最後に。
アミノ。
白蛇が静かに鎌首をもたげていた。
男はしばらく黙った。
部屋の空気が止まる。
やがて、ゆっくりと口を開く。
「……君たち」
もう一度、従魔たちを見渡す。
「これ、どこで捕まえた?」
沈黙が落ちた。
男は眉をひそめる。
「いや、違うな」
視線がマットに向く。
「どうやって従えた?」




