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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第36話 観測と討伐


 採掘場の朝は早い。


 砕けた岩と粉塵の匂いがまだ空気に残り、夜の戦いの痕跡がそこかしこに刻まれている。


 巨大なファントムゲッコーの死骸は、作業員たちが遠巻きに見守る中、簡単な柵で囲われていた。


 マットは腕甲を軽く叩きながら、その死骸を見上げる。


「……でかかったな」


「でかいだけならまだいい」


 マエストロが岩に腰を下ろしながら言う。


「問題は、これが一体じゃなさそうだってことだ」


 その横で、ロイドがしゃがみ込んで地面を調べていた。


 岩肌に指を当て、粉をすくい、足跡をなぞる。


「うん。間違いない」


 顔を上げる。


「動線が二種類ある」


「沈み方も違うし、足の運びも違う」


「つまり複数個体」


 マットが眉を上げる。


「まだいるってこと?」


「いるね」


 あっさりと言う。


 マエストロが立ち上がった。


「……だろうな」


 そして肩を回す。


「どうせ戻っても、ギルドの連中に全部片付けてこいって言われるのがオチだ」


 マットを見る。


「このまま残りも探すぞ」


「だね」


 マットは頷いた。


 その横で、ロイドがぱっと顔を輝かせる。


「いいねそれ!」


「観察も続けられるし!」


「お前は観察しかしてねえだろ」


 マエストロが言う。


「うん」


 ロイドは迷いなく頷いた。


「でも一番大事な仕事だよ」


 一行はそのまま採掘場の奥へと足を踏み入れた。


 岩壁の隙間から、細い坑道が奥へ続いている。


 足元には砕けた石。


 ところどころに新しい爪痕。


 その時。


 ササミが岩壁をつついた。


 コツン。


 乾いた音。


 だが次の瞬間、ササミは首を傾げてその場を離れる。


 別の岩へ移動。


 もう一度つつく。


 また離れる。


 ロイドが目を細めた。


「……ちょっと待って」


 ササミは三つ目の岩をつついた。


 次の瞬間。


 バキン。


 岩の一部が砕けた。


 中から鈍い光を放つ鉱石が現れる。


 ササミは満足そうにコケ、と鳴いた。


 しかし、それを食べない。


 そのままマットの前に置いた。


 ロイドが頭を抱える。


「……採掘してる」


 岩を手に取る。


「しかも鉱石を選んでる」


 岩壁を見る。


「普通のロックスイーパーは、見つけた鉱石を食べるだけなんだ」


「でもこの子は違う」


「含有量の高い岩を探してる」


 ササミはまた別の岩をつつき始めた。


「自己強化優先型の採掘個体……?」


 ロイドは楽しそうに笑った。


「こんなの初めて見た」


 その時。


 マットの肩からアミノがするりと降りた。


 岩壁に体を巻き付ける。


 次の瞬間。


 パチ。


 小さな電撃が岩壁を走った。


 空気がわずかに震える。


 アミノの舌がゆっくりと揺れた。


 ロイドが目を見開く。


「……なるほど」


 岩壁を叩く。


「電撃を流して反応を見てる」


「電磁探知か」


 アミノはそのまま坑道の奥を向いた。


 舌が空気を舐める。


「しかも空気の振動も拾ってる」


 ロイドが呟く。


「生体レーダーだ」


 マットが首を傾げる。


「電撃か……」


 何かが引っかかる。


 だが思い出せない。


 その横で。


 カーボが静かに前へ出た。


 耳が動く。


 体勢が低くなる。


 そして、いつの間にか三人の位置関係が変わっていた。


 マットの横。


 ササミの後ろ。


 アミノの前。


 自然に守る位置に立っている。


 ロイドがぽつりと言う。


「……誰か指示した?」


「してない」


 マットが答える。


 カーボは岩場の奥を見据えたまま動かない。


「戦術配置までやる狼か」


 ロイドは笑った。


「このパーティ、本当に面白い」


 その時。


 坑道の奥で。


 石が転がった。


 乾いた音。


 ササミが首を上げる。


 アミノの体が締まる。


 カーボの毛が逆立った。


 ロイドがゆっくり顔を上げる。


「……なるほど」


 岩場の闇を見つめる。


「やっぱりまだいる」


 坑道の奥には、まだ闇が続いている。


 その直後だった。


 カーボが低く唸る。


 次の瞬間。


 天井の岩肌がわずかに揺れた。


 アミノの体がぴたりと止まる。


 舌が空気を舐める。


 パチ。


 微弱な電撃が走る。


 その瞬間。


 天井の一部が歪んだ。


「上だ!」


 マットが叫ぶ。


 透明な影が落ちてきた。


 ファントムゲッコー。


 だが先ほど倒した個体より明らかに小さい。


 カーボが飛び退き、爪が空を切る。


 ササミが岩を蹴り上げる。


 砕けた破片が散弾のように飛び、透明な輪郭が一瞬浮かび上がった。


「若い個体だ!」


 ロイドが興奮気味に叫ぶ。


「群れだこれ!」


 ゲッコーが壁を滑る。


 だが次の瞬間。


 アミノが電撃を放つ。


 パチン、と空気が弾ける。


 透明な体が一瞬光り、位置が露わになる。


 マットが踏み込んだ。


 地面を蹴る。


 腕甲が岩を掴む。


 その勢いのまま拳が振り抜かれる。


 鈍い音。


 ゲッコーが岩壁に叩きつけられた。


 しかし。


 その直後。


 アミノがもう一度電撃を走らせる。


 パチ。


 反応が三つ。


 ロイドが顔を引きつらせた。


「うわ」


「まだいる」


 岩壁。


 天井。


 坑道の奥。


 三方向から透明な影が動いた。


 カーボが前へ出る。


 低く唸る。


 マットの横に立ち、ササミの背後を守る位置へ滑り込んだ。


 戦闘配置。


 自然に出来上がる。


 マエストロが笑う。


「いいね」


「やる気出てきた」


 ササミが岩壁を蹴り砕く。


 破片が舞う。


 透明な体に当たり、輪郭が浮かぶ。


 カーボが飛びかかる。


 喉元を噛み砕く。


 マットがもう一匹を拳で叩き落とす。


 短い戦闘だった。


 数分後。


 坑道には静寂が戻っていた。


 小型のゲッコーが三体。


 地面に転がっている。


 ロイドがしゃがみ込む。


 死骸を観察する。


「やっぱり若い個体だ」


「つまりこの奥に巣がある」


 その時。


 アミノが再び電撃を流した。


 パチ。


 反応が返る。


 だが。


 今度は違った。


 反応は一つ。


 しかし、明らかに大きい。


 しかも。


 下。


 ロイドが顔を上げる。


「……地下空洞だ」


 その先から。


 微かに水音が聞こえる。


 滴る音。


 空気が湿る。


 マエストロが肩を回す。


「水場か」


 ロイドが頷く。


「大型個体はだいたいそこにいる」


 カーボが低く唸る。


 ササミが岩をつつく。


 アミノの体がわずかに震えた。


 坑道の奥。


 闇の向こうで。


 水面が、かすかに揺れた。



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