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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第35話 異常を測る者


 採掘場に、朝の光が差し込んでいた。


 夜の戦いの痕跡は、まだそこかしこに残っている。


 砕けた岩壁。


 えぐれた地面。


 そして、横たわる巨大な影――すでに透明化を解いたファントムゲッコーの死骸。


 作業員たちは恐る恐る距離を保ちながらも、少しずつ仕事を再開し始めていた。


「これで……本当に終わりなんだな」


 作業長が、安堵とも不安ともつかない声で呟く。


「でかいのはもう出ねえだろうな」


 マエストロが肩を回しながら言った。


 マットは腕甲を軽く叩き、昨日の衝撃を思い出す。


「……あれ以上が出たら、ちょっと面倒だね」


「面倒で済めばいいがな」


 そんな会話をしていた、その時だった。


 背後から、軽やかな声が飛んできた。


「ああ!遅かったかぁ!」


 振り向く。


 そこには、フードを外した男が立っていた。


 長い耳。


 やや中性的な顔立ち。


 細身で、いかにも体力はなさそうな体格。


 だが、その目だけは妙に輝いていた。


「僕はロイド。魔物の研究を生業にしている研究者だよ」


 軽く手を上げる。


「面白いコカトリスを連れた冒険者が居るって噂を聞きつけて街にいったんだけど、検討違いだったみたいでね」


 視線が、ササミに向く。


 一瞬、止まる。


 次の瞬間。


 顔が一気に崩れた。


「……あれ?」


 一歩近づく。


 さらに近づく。


「ちょっと待って」


 ササミの周りをぐるりと回る。


「それにしても珍しい色のロックスイーパーを連れているね。……ササミさん、かな? 健康状態もいいし、金属の蓄積も良好。かなりいい環境で育ったんだろうね」


 早口だった。


 止まらない。


「嘴の硬度も高いし、筋肉の付き方もおかしい。通常個体より明らかに負荷をかけて育ててる。ああ、なるほど。継続的な外的刺激と栄養供給のバランスが――」


「おい」


 マエストロが遮る。


「なんでこいつらの名前を知ってる。それになんで敬語なんだ」


「あ、ごめんごめん!君たちの話はギルドで聞いてきたからね。名前があるならさん付けは当然でしょ?」


 口では謝るが、目はまったく離れていない。


 次の瞬間。


 アミノに気づいた。


「……え?」


 固まる。


「ちょっと待って、何それ」


 距離を詰める。


「蛇?いや、違う。魔力反応が……え、これウィッチバイパー系統? アミノさん? こんなサイズで?いや待って、なんで肩に乗ってるの?」


 マットの肩に乗るアミノを、まじまじと覗き込む。


 アミノは少しだけ警戒するように体を引き締めた。


「すごいなあ……いや本当にすごいなこれ……」


 そのまま今度はカーボを見る。


「……で、これは普通に強そうなやつ。カーボさん、だよね?」


「雑だな」


 マットが呟く。


「いや、これは普通に完成されてるタイプだからさ」


 数秒。


 沈黙。


 しゃがみ込む。


 指で地面をなぞる。


 岩を触る。


 爪跡を見る。


 動線を追う。


 ゆっくりと立ち上がった。


「……なるほどね」


 声のトーンが変わった。


「ファントムゲッコー。しかもかなり大型の個体だね」


 マットを見る。


「これ、君たちがやったの?」


「ああ」


「へえ……」


 少しだけ、楽しそうに笑う。


 だが、その目は別のものを見ていた。


「……おかしいな」


 ぽつりと呟く。


「何がだ」


 マエストロが問う。


 ロイドは足元の岩を指で軽く叩いた。


「この個体、普通じゃない」


 続ける。


「まず成長速度。ここまで大きくなるには時間が足りない」


「それに活動範囲。ファントムゲッコーは基本的にもっと限定された領域で動く」


 さらに。


「……それと」


 視線が、採掘場全体へ向く。


「痕跡が多すぎる」


「多い?」


 マットが聞き返す。


「うん。動線が一体分じゃない」


 マエストロの目が細くなる。


「どういうことだ」


「簡単に言うとね」


 ロイドは軽く肩をすくめた。


「これは、一体じゃ説明つかないんだよ」


 空気が、少しだけ変わった。


 マットは無意識に周囲を見る。


 だが。


 何もいない。


 もう、あの気配はない。


「……終わったんじゃねえのか」


 マエストロが言う。


「うん、たぶん目の前の個体は終わってる」


 ロイドはあっさり頷く。


「でも、原因は終わってないかもしれない」


 その言葉は、軽い口調のまま、妙に重かった。


 少しの沈黙。


 ロイドはふっと笑う。


「まあいいや」


 手を叩く。


「ねえ、ちょっと一緒に行かない?」


 マットとマエストロを見る。


「君たち、明らかに普通じゃない成長してるし」


「観察対象として、すごく面白い」


「断る理由は?」


 マエストロが聞く。


「ないよ」


 ロイドは即答した。


「僕が勝手に付いていくだけだから」


「迷惑だ」


「大丈夫大丈夫」


 軽く手を振る。


「役に立つよ。たぶん」


 マットはマエストロを見る。


 マエストロは少し考え。


 肩をすくめた。


「好きにしろ」


「やった」


 ロイドが笑う。


 その目は、完全に“見つけた”目だった。


 マットたちを。


 そして。


 その先にある何かを。


 ふと、ロイドが立ち止まった。


「それにしても、狼に鳥に蛇。面白いパーティだね」


 指先で順に示すように、カーボ、ササミ、そしてマットの肩のアミノへと視線を滑らせる。


「ん? 鳥に蛇?」


 言葉が途中で引っかかる。


 ロイドの手が、わなわなと震えはじめた。


 もう一度、ササミを見る。


 次に、アミノを見る。


 視線を往復させる。


 羽の色合い。走る赤い線。


 鱗の配列。わずかな色の乗り方。


 そして、二匹の距離感。


 捕食者と被食者の距離ではない。


 むしろ、同じ“塊”だったものの名残のような、奇妙な近さ。


「……もしかして」


 声が低くなる。


 ロイドは一歩、二歩と近づき、目を細めて二匹を見比べた。


「よく見れば模様も似ている……しかも、捕食対象にもしていない」


 そして。


 顔が、ゆっくりと歪む。


「もしかして、だけど、この子たちって……」


「ん?」


 マットが首を傾げる。


「もともとはコカトリスだったよ」


 あっさりと答える。


 その一言で。


 ロイドの思考が、弾けた。


「そういうことかああああああああ!」


 爆発した。


 両手を頭にやり、空を仰ぎ、歓喜とも絶望ともつかない声を上げる。


「分裂進化! しかも異種分岐! 尾部が独立して魔法系に転化、体幹部は岩食性へ最適化!? いやいやいや、そんな前例聞いたことない! 条件は? トリガーは? 環境? 個体差? それとも――」


「うるせえ」


 マエストロが一刀で切り捨てた。


 だがロイドは止まらない。


 目だけがぎらぎらと輝いている。


「最高だ……これは最高だ……」


 その視線が、マットへ向く。


 観測者の目。


 対象を見つけた目。


 空は高い。


 風は乾いている。


 だが。


 どこか。


 まだ何かが、動いている気がした。



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