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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第30話 進化個体の観察


 翌日。


 街を出て少し歩いた先。


 森が途切れ、岩肌がむき出しになった斜面が広がる場所にマットたちは来ていた。


 岩場。


 冒険者がよく鍛錬に使う場所でもあり、同時に簡単なモンスター調査にも向いている。


 足元には大小様々な岩。


 少し上には崩れかけた岩壁。


 風が吹くたび、乾いた砂がさらさらと斜面を滑り落ちていく。


 マットは荷物の中から一冊の古びた本を取り出した。


 モンスター図鑑。


 街の書店で借りてきたものだ。


 ページをめくり、指を止める。


「ロックスイーパー……」


 声に出して読み上げる。


「岩山地帯に生息する鳥型モンスター」


「鉱石を摂取し、その金属成分を体内に蓄積することで爪や嘴の強度を増していく」


 横でマエストロが岩に腰掛けながら言った。


「つまり岩食い鳥だな」


「かなり雑なまとめ方だな」


「間違ってないだろ」


 マットは肩をすくめた。


 そして前を指さす。


 そこにいるのは白い巨大な鳥。


 ササミ。


 進化したコカトリス。


 いや、正確には――ロックスイーパー。


 ササミは地面の岩をつついていた。


 コン。


 コン。


 コン。


 普通の鳥のような動き。


 だが。


 三回目。


 ドゴン。


 鈍い音と共に岩が砕けた。


 破片が転がる。


 ササミはそのまま欠片をくわえ。


 飲み込んだ。


 もぐもぐ。


 咀嚼音。


 さらにもう一つ。


 また岩をつつく。


 ドゴン。


 マットは図鑑とササミを見比べた。


「……確かに岩は食うらしいけど」


 もう一度ページを見る。


「ここまで豪快とは書いてないな」


 マエストロが笑う。


「お前が鍛えすぎたんだろ」


「俺だけじゃない。カーボも一緒にやったし」


「わふっ」


 カーボが誇らしげに胸を張る。


 マットは岩壁を見る。


 思い出す。


 連日続いたトレーニング。


 岩を砕く。


 岩を運ぶ。


 岩を積む。


 そしてまた砕く。


 その横でササミも岩を突き続けていた。


 確かに。


 あの時から妙だった。


「……進化条件」


 マットが呟く。


「岩の破砕か」


 ササミが岩をくわえる。


 噛む。


 砕く。


 飲み込む。


 そして。


 もう一個。


「食い過ぎだろ」


 マットが言う。


 マエストロが肩を揺らして笑った。


「筋トレ後だからな」


「腹減るんだろ」


「鳥がそんな理屈で岩食うか」


 マットは図鑑を閉じた。


 そして地面に拳大の岩を置く。


「試してみるか」


 ササミを見る。


「突いてみろ」


 ササミは首を傾げ。


 そして岩へ嘴を振り下ろした。


 ドゴン。


 岩が真っ二つになった。


 マエストロが口笛を吹く。


「これは硬度が云々の前に首の筋力がおかしいだろ」


「筋トレの成果だな」


「図鑑書き換えないといけないな」


 マットが苦笑した。


 さらに別の岩を置く。


「じゃあこれは?」


 今度は鉄分の多い赤い岩。


 ササミはそれをつつき。


 砕き。


 飲み込む。


 しばらくして。


 嘴をカチカチと鳴らした。


「……おい」


 マエストロが言う。


「今、火花出なかったか?」


「出たな」


 マットは図鑑を開きながら呟いた。


「金属成分の蓄積……」


「本当にやってるっぽいな」


 ササミは満足そうに胸を張った。


「コケーッ」


 短く鳴く。


 その瞬間。


 嘴と爪に、ほんのわずかだが金属の光沢が灯った。


 陽の光を受けて、かすかな銀色がきらりと走る。


「……今の見たか?」


 マットが呟く。


「見た」


 マエストロが笑う。


「どうやら本当に金属を溜め込んでるらしいな」


 その時。


 足元で何かが動く。


 白い蛇。


 アミノだった。


 マットの足元にするりと近寄る。


 身体を軽く巻き付けてくる。


 落ち着いた様子。


 マットは再び図鑑を開いた。


「次はこっちだ」


 ページをめくる。


「ウィッチバイパー」


「爬虫類型モンスターの中では珍しく魔法を扱う種族」


 読み上げる。


「生息地域により扱う魔法属性は異なる」


「臆病な性格で人前に姿を見せることは少ない」


 マエストロがアミノを見る。


 アミノはマットの肩へと登っていた。


「臆病……?」


「人前……?」


 マエストロが笑う。


「図鑑が泣いてるぞ」


 マットは蛇の頭を軽く叩いた。


「魔法使えるのか?」


 アミノはじっとこちらを見た。


 何も起こらない。


「……」


「図鑑外れか?」


 マエストロが言った。


 その瞬間。


 少し離れた岩が弾けた。


 バチン。


 石の欠片が飛び散る。


 マットとマエストロが同時に振り向く。


「今の……」


「お前か?」


 アミノは静かに舌を出した。


 ぺろり。


 マットがため息をつく。


「今のは電撃かな」


 マットは少しだけ首を傾げた。


「……電撃?」


 何かが引っかかったような顔をする。


 ほんの一瞬。


 思考が止まる。


「どうした」


 マエストロが聞いた。


「電撃がどうかしたのか?」


「ううん」


 マットは首を振る。


「何か思い出せそうな気がしたんだけど……」


「なんだったかな」


「性格は図鑑通りだな」


 マエストロが笑った。


「臆病だから背後から撃つってわけか」


「でも人前には出てる」


「普段から人に囲まれてるわけだしな」


 マットは少し考える。


 岩。


 魔法。


 そして昨日の戦闘。


「進化条件は……」


 ゆっくり言う。


「ササミは岩砕き」


「アミノは魔法訓練」


 マエストロが頷く。


「アルエとリーリヤの練習か」


 思い出す。


 毎日の魔法トレーニング。


 横で蛇がじっと見ていた。


 そしてオーク戦。


 尻尾が切断された瞬間。


 進化。


「……なるほどな」


 マエストロが岩を蹴る。


「鍛えた結果ってわけだ」


「モンスターまで筋トレか」


 マットが笑う。


「筋トレの成果がモンスターの進化にまで及ぶとは思わなかったなぁ」


 その時。


 金属音が鳴った。


 カン。


 二人が振り向く。


 ササミがマエストロの剣をつついていた。


「おい」


 マエストロが慌てて剣を引く。


「こいつは食いもんじゃないぞ。俺の武器だ」


 ササミは気にせずもう一度突く。


 カン。


「やめろやめろやめろ!」


「それ高いんだから!」


 マットが笑う。


「金属も食うのか?」


 ササミは首を傾げ。


 そして地面の岩へ戻った。


 ドゴン。


 岩がまた砕ける。


 アミノはマットの肩で静かに周囲を見ている。


 マットは図鑑を閉じた。


 そして呟く。


「……図鑑」


「書き直した方がいいんじゃない?」


 マエストロが笑った。


「それは同感だ」


「育つ環境が違えばこうも個性豊かになるんだからな」


 岩場には。


 岩を砕く音だけが響いていた。


 その日の夕方。


 マットたちはギルドへ戻っていた。


 依頼受付の奥。


 ギルドマスターの部屋。


 机の向こうで、ゲラングが腕を組んで座っている。


「……それで?」


 短く言う。


 マットは調査結果を書いた紙を机の上に置いた。


「まとめるとこうなる」


「ササミはロックスイーパーとして進化」


「鉱石を摂取して嘴と爪に金属を蓄積している」


「実際に岩と鉄分の多い鉱石を食べて確認した」


 ゲラングは紙をめくる。


「……ほう」


 マットは続ける。


「アミノはウィッチバイパー」


「電撃系の魔法を確認」


「ただし背後からの不意打ち型」


 ゲラングの視線が蛇へ向く。


 アミノは机の端に巻きついていた。


 ぺろりと舌を出す。


 ゲラングはしばらく黙っていた。


 紙を見る。


 ササミを見る。


 アミノを見る。


 そして。


 机に額を打ちつけた。


 ゴン。


「……岩食って金属化?」


 ゲラングは眉間を押さえた。


「お前ら、一ついいことを教えてやる」


「そんな生態濃縮は普通は何年もかけて変化が現れるんだよ」


「一回岩食ったくらいでそんなに目立った変化は現れねえんだよ」


 マットが首を傾げる。


「でも実際に光ってたぞ」


 ゲラングはため息をついた。


「……あー、どうせ途中で変な物食わせたんだろ」


「お前ら絶対普通の育て方してねえだろ」


 そして顎で部屋の隅を指した。


「見てみろアレ」


 ササミがギルドの石壁をつついていた。


 コン。


 コン。


 ゲラングが頭を抱える。


「……蛇が電撃魔法?」


「はい」


「はいじゃねえ。電撃魔法なんてそうそう習得できる魔法じゃねえんだぞ」


 ゲラングは天井を見上げた。


「お前ら本当に何育ててんだ」


 マエストロが笑う。


「俺も興味が出てきたところだ」


 ゲラングは深く息を吐いた。


「まあいい」


「この件はギルドの資料として残す」


 そして紙を軽く叩く。


「ただしだ」


「もしさらに変な進化したら、ちゃんと報告しろ」


「あとで面倒になる」


 マットが苦笑した。


「了解」


 その横で。


 ササミが部屋の隅の石壁をつついていた。


 コン。


 コン。 ゴキ。


 ゲラングが叫ぶ。


「やめろ!!」


「そこの建材は高いんだ!」



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