第28話 ギルドマスターの頭痛
夕方のギルドは、いつものように賑やかだった。
酒の匂い。
肉を焼く香ばしい煙。
冒険者たちの笑い声。
だが。
入口の扉が開いた瞬間、その空気がほんの一瞬だけ止まった。
現れたのはマエストロとマット。
そしてその後ろに。
巨大な白い鳥――ササミ。
さらに。
白い蛇。
酒を飲んでいた冒険者の一人がぽつりと呟いた。
「……増えてねえか?」
マエストロは気にした様子もなく受付へ歩いていく。
依頼書をカウンターに置く。
「ほら、終わったぞ」
受付嬢は無言で書類を確認した。
オーク討伐。
証明部位。
問題なし。
そこまでは普通だった。
だが。
受付嬢の視線がゆっくり横へ動く。
ササミ。
そして蛇。
こめかみがぴくりと動いた。
「……少々お待ちください」
奥へ消える。
数秒後。
奥の扉が勢いよく開いた。
ギルドマスター、ゲラングが現れる。
腕を組み、ゆっくりと歩いてくる。
マエストロを見る。
次にマット。
そして。
背後の二匹を見る。
沈黙。
「……おい」
低い声だった。
「大人しくしてろって言ったよなぁ?」
マエストロは肩をすくめる。
「してただろ」
「何もトラブル起こしてねえぞ?」
ゲラングの眉がぴくりと動いた。
ゆっくりと指を上げる。
ササミ。
そして。
蛇。
「じゃあ聞くが」
「コカトリスが別のモンスターに進化して」
「しかもオマケで一匹増えてるのは」
「どこの辞書の“おとなしい”なんだ?」
酒場が静まり返る。
マエストロは少し考え。
真顔で言った。
「知らん」
ゲラングのこめかみに青筋が浮かぶ。
「辞書で“大人しい”って調べてみろや」
「分裂するなんて一言も書いてねえよ」
マットが小声で言った。
「分裂じゃなくて進化です」
「黙れ」
即答だった。
その時だった。
ギルドの扉が再び開く。
入ってきたのはエルザだった。
「何の騒ぎ?」
マエストロが振り向く。
「おう、終わったぞ」
「アルエとリーリヤは?」
「宿で寝てる」
エルザは少し呆れた顔をする。
「一日中学院で連れ回されたらしいわよ」
「そりゃ疲れるだろ」
マエストロは笑う。
「起きたらびっくりするな」
エルザが首を傾げる。
「何がよ」
「ササミのこと?」
ササミを見て言う。
「確かに進化したみたいだけど」
肩をすくめた。
「もう進化くらいじゃ驚かないわよ」
その瞬間。
マエストロの背後から。
ぬっと。
白い蛇が顔を出した。
「ひっ!」
エルザの体がびくりと硬直した。
次の瞬間。
マエストロの腕にしがみつく。
「ちょ、ちょっと!」
「何よそれ!!」
マエストロが笑う。
「おいおい、人前で照れるだろ」
「ふざけないで!」
「私が蛇ダメなの知ってるでしょ!」
マエストロがぽかんとする。
「あ」
「そういえば」
忘れていたらしい。
その様子を見て。
蛇――アミノが、しゅんとしたように首を下げた。
完全に傷ついた様子だった。
ゲラングが額を押さえる。
「……おい」
蛇を見る。
「こいつ、ただの蛇じゃねえな」
「妙に知能が高い」
少し考える。
「ちょっと水晶触らせてみろ」
受付から鑑定水晶を持ってこさせる。
アミノの前に置いた。
蛇はしばらくそれを見て。
ぺろりと舌を出す。
「……理解してやがるな」 ゲラングが呟いた。
そして。
水晶に触れた。
光が走る。
水晶の中に文字が浮かび上がる。
ゲラングが読み上げる。
「種族……ウィッチバイパー」
ざわりと酒場がざわめく。
「レベル……二十五」
今度は完全に静まり返った。
「知力……高」
「魔法耐性……高」「こんな厄介なモンスターギルドでも面倒見切れん。そこら辺の魔法使いよりよっぽど魔法の適性がある」
ゲラングがゆっくり顔を上げる。
マエストロを見る。
マットを見る。
そして言った。
「……お前ら」
「何を育ててんだ?」




