第25話 街は今日も騒がしい
石畳の道を踏みしめながら、マットは大きく伸びをした。
「やっぱ街は広いな」
久しぶりに見る建物の列。
村とは比べ物にならない人の多さ。
荷車の音、商人の呼び声、酒場から漏れる笑い声。
全部が混ざり合って、街の空気を作っている。
隣ではアルエもきょろきょろと辺りを見回していた。
「前来た時より人増えてない?」
「気のせいじゃないか?」
「いや絶対増えてるって」
二人の後ろでは、リーリヤが完全に落ち着きを失っていた。
「すごい……!すごい!」
あっちを見て、こっちを見て、忙しい。
「お店いっぱいある!」「武器屋だ!」「あれギルド!?」
「落ち着け」
マットが言う。
「もうすぐそこだから」
その後ろを、カーボが悠然と歩く。
巨大なダイアウルフ。
さらにその横を、白い巨大コカトリス――ササミがのしのし歩いていた。
当然、道行く人々の視線は集まる。
「……なんだあれ」
「狼でかくないか?」
「いや鳥もおかしいぞ」
だが一行は気にしない。
最後尾を歩くマエストロが、のんびりと肩をすくめた。
「相変わらず目立つな」
隣でエルザがため息をつく。
「あなたが平然と連れて歩くからよ」
「隠す方が大変だろ」
「それはそうだけど」
そんな会話をしているうちに、目的地が見えてきた。
冒険者ギルド。
分厚い木の扉。
大きな看板。
昼間でも酒場のように賑やかな建物だ。
扉を開ける。
途端に視線が集まった。
最初に気付いたのは受付の職員だった。
「……あ」
次の瞬間。
「狼の次はコカトリス!?」
ギルドの中がざわつく。
「おいマジか」
「またあいつらか?」
「村のガキだろ」
「なんで鳥増えてんだよ」
マットは軽く手を上げた。
「久しぶり」
受付嬢は頭を抱えた。
「本当に来た……」
その横でリーリヤが目を輝かせていた。
「すごい……冒険者いっぱい……!」
そして突然カウンターに身を乗り出す。
「私も冒険者登録したい!」
受付嬢が固まる。
「……え?」
「お願いします!」
受付嬢はマットを見る。
マットは肩をすくめた。
「まあ出来るなら」
受付嬢は深くため息をついた。
「……水晶持ってきます」
奥から鑑定水晶を運んでくる。
「はい、手を置いてください」
リーリヤが嬉しそうに手を乗せる。
水晶が光る。
文字が浮かび上がる。
受付嬢はそれを見た。
数秒沈黙。
そして。
「……またか」
周囲の冒険者が身を乗り出す。
「どうした?」
「何が出た?」
受付嬢がぼそっと言う。
「普通じゃないです」
その瞬間。
「やっぱりか!!」
ギルドが一気に騒がしくなった。
「こいつもか!」
「なんなんだあの村!」
「化け物量産してんのか!?」
その騒ぎの最中。
ササミがふらふらと歩いていた。
そして。
近くのテーブル。
若い冒険者の皿。
そこに乗っていたフライドチキンを。
ぱくり。
食べた。
「……あ」
全員の視線が集まる。
アルエが叫ぶ。
「こらササミ!」
「共食いしちゃダメ!」
マットが言う。
「いやそこなの?」
フライドチキンを奪われた冒険者は呆然としていた。
マエストロが歩み寄る。
「悪いな」
銀貨をぽんと置く。
「これで勘弁してくれ」
冒険者はそれを見て言った。
「……いや、まあいいけどよ」
ギルドは完全に騒ぎになっていた。
「なんだこの家族はよ!」
「私は家族じゃない!」アルエがすかさず反論するが、反対側から別の声が飛んでくる。「似たようなもんだ!お前さんなんかうちのパーティの誰よりも魔力量高かっただろうが!」
その騒ぎを聞きつけて。
二階から足音が響く。
重い足取り。
階段を降りてくる大柄な男。
ゲラングだった。
ギルドの空気が少しだけ引き締まる。
ゲラングは一行を見た。
マット。
アルエ。
カーボ。
ササミ。
リーリヤ。
そしてエルザとマエストロ。
数秒の沈黙。
それから。
深いため息。
「お前らは」
「トラブルしか持ち込まねえのか」
マットが肩をすくめる。
「そんなつもりはないんだけどなぁ」
受付嬢が慌てて報告する。
「支部長!この子の登録なんですが!」
「水晶の結果が……」
ゲラングはちらっとリーリヤを見る。
「……ああ」
「そっちもか」
そしてエルザとマエストロを見る。
「お前ら二人」
「子供を化け物にしか育てられない呪にでもかかってるのか?」
エルザが即座に言い返した。
「失礼ね」
「呪いなんて一個で十分よ」
ゲラングが笑った。
「ちがいねえ」
ギルドの中に、どっと笑いが広がった。
ゲラングはそのままリーリヤの水晶表示をもう一度見た。
それからアルエを見る。
「……なるほどな」
腕を組み、少しだけ考える。
「予定変更だ」
受付嬢が聞き返す。
「予定?」
「魔術学院だ」
アルエが首を傾げる。
「え?」
「お前、推薦来てるぞ」
アルエが目を丸くする。
「ええ!?」
ゲラングはリーリヤを指差す。
「そっちもだ」
「こんな数値出しておいて放置はできねえ」
リーリヤはぽかんとしていた。
「え、え?」
ゲラングはエルザを見る。
「お前も来い」
「保護者だろ」
エルザは軽く肩をすくめた。
「まあ、いいけど」
マエストロが言う。
「俺は?」
「お前は残れ」
ゲラングは即答した。
「ギルド壊されても困る」
「ひでえな」
準備は早かった。
アルエ。
リーリヤ。
そしてエルザ。
三人はそのままゲラングに連れられてギルドを出る。
扉の前でゲラングが振り返った。
マットとマエストロを見る。
ゲラングはマットを軽く指さした。
そして一言。
「頼むから」
「お前ら、じっとしてろよ」
扉が閉まる。
しばらく沈黙。
マットが言った。
「……今の」
「俺たちに言ったの?」
マエストロは顎に手を当てた。
「そりゃそうだろ」
そしてニヤリと笑う。
「ただな」
「ありゃフリだ」
マットは一瞬だけ考えた。ゲラングの言い方、視線、間――全部思い出して、すぐに意味を理解する。
それでも確認するように首を傾げた。
「フリ?」
「やれってことだ」
マエストロは掲示板の方へ歩き出した。
依頼書がずらりと並ぶ。
紙を一枚めくる。
「さて」
「何か面白いのあるかな」
マットも隣に並ぶ。
掲示板を見上げる。
久しぶりの街。
久しぶりのギルド。
そして。
父親と二人の依頼。
それも、なかなか楽しそうだった。
マエストロが小さく笑う。
「こいつなんか面白そうだぞ?」 掲示板から一枚の依頼書を引き抜き、ぴらぴらと振る。 その笑顔は年甲斐もなく本当に楽しそうで。
マットも笑った。
「いいね、それ」




