第16話 Dランクの実力
村に戻ってから数日。
俺たちはいつも通り、洞窟のジムで訓練を続けていた。
丸太スクワット。
魔法練習。
モンスター同士のスパーリング。
最初は異常な光景だったはずだが、最近ではすっかり日常になっている。
丸太を肩に担ぎ、スクワットを繰り返す。
ドン。
ドン。
ドン。
岩床が沈む。
横ではアルエが魔力を練っている。
「ファイアボール!」
火球が飛び、岩壁を爆ぜさせる。
そして奥では。
カーボとコカトリスがぶつかり合っていた。
爪。
牙。
羽。
尾。
岩が砕ける音が洞窟に響く。
最近ではこの二匹のスパーリングが一番激しい。
コカトリスも最初より明らかに強くなっている。
最初に見た時はただの暴れ鳥だったが、今では完全に戦闘モンスターだ。
「マットー!」
洞窟の入口から声がした。
リーリヤだ。
最近ではすっかりジムの常連である。
「今日は村に行くんでしょ?」
「ああ、そうだった」
今日は依頼を受けに行く日だった。
Dランクになったとはいえ、俺たちはまだ新人。
まずは村で実績を積む必要がある。
◇
村の中央に、小さな建物がある。
ギルド出張所。
本部ほど大きくはないが、村の依頼はここに集まる。
扉を開けると、受付の男が顔を上げた。
「ああ、マットたちか」
最近はすっかり顔なじみだ。
「依頼を受けたいんだけど」
「Dランクだったな」
男は壁の掲示板を指差した。
依頼書がいくつか貼ってある。
畑荒らしの駆除。
森の狼退治。
イノシシ討伐。
村の依頼はこの程度が上限だ。
アルエが言った。
「……なんか弱そう」
「まあ村だからな」
俺も紙を一枚取る。
【森のボア討伐】
森で暴れている巨大イノシシの討伐。
Dランク依頼。
「これでいいか」
「うん」
受付の男が苦笑した。
「ずいぶん余裕そうだな」
「まあ、たぶん」
◇
森に入る。
少し進んだところで、すぐに見つかった。
巨大なイノシシ。
普通のボアより明らかに大きい。
牙も太い。
地面を掘り返している。
「いた」
「ほんとだ」
イノシシがこちらに気づく。
ブオオオ!!
突進してきた。
「来たね」
俺は前に出た。
拳を構える。
そして。
踏み込む。
ドン。
拳が鼻に入る。
イノシシがひっくり返った。
「え」
アルエが言う。
「終わった?」
「終わった」
イノシシは白目をむいて動かない。
あまりにもあっけない。
アルエが腕を組む。
「……弱い」
「弱いね」
カーボが近づいて鼻でつつく。
動かない。
「本当に終わり?」
「たぶん」
アルエがため息をついた。
「Dランクってこんなもんなのかな」
「かも」
俺は少し考える。
「もう少し強いのいないかな」
その時。
後ろでコカトリスが騒いだ。
ギャッ。
地面をつついている。
「どうした?」
近づく。
地面に大きな足跡があった。
イノシシよりはるかに大きい。
人間の胴体くらいある。
「……でかいな」
アルエもしゃがみ込む。
「これ、ボアじゃないよ」
森の奥を見る。
静かだ。
だが。
何かいる。
アルエが小さく言った。
「追ってみる?」
俺は少し考えた。
そして笑った。
「いいね」
「Dランクじゃ物足りないし」
カーボが尻尾を振る。
コカトリスも羽を広げた。
こうして。
俺たちは足跡を追って――
森の奥へ進むことにした。
この時はまだ。
それが本当の戦いの始まりになるとは。
思ってもいなかった。




