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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第一章 少年編 

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第101話 追跡


 谷を離れた一行は、夜明け前の火山地帯を静かに進んでいた。


 空はまだ暗いが、東の地平だけがわずかに白んでいる。火山特有の赤黒い岩肌は夜露など知らないように乾ききっており、足を踏み出すたびに小さく砂礫が転がった。遠くでは溶岩の光が淡く空を染め、昼とも夜ともつかない不思議な色彩を作り出している。


 谷に残してきた捕虜たちは、しっかりと拘束してある。増援が来るまで逃げられる可能性は低い。ロイドはそう判断していた。何より、リーリヤが念入りに氷の楔で固定していたので、並の人間が抜け出すことはまず不可能だろう。


 とはいえ、気持ちの上で安心している者は誰もいない。


 敵の本拠地がまだ見えていない以上、戦いはむしろこれからだった。


 先頭を走るのはカーボだ。


 灰色の毛並みを揺らしながら、地面すれすれに鼻を動かして匂いを追っている。谷から逃げた男の痕跡はまだ新しく、岩と硫黄の匂いに紛れてもなお、獣の嗅覚から逃れるほどではない。


 少し後ろではアミノが岩陰を縫うように滑っていた。細長い体をくねらせながら、周囲の気配を探る。時折舌を出し、空気の振動を確かめるその動きは、まるで生きた警戒装置のようだった。


 マットはその後ろを歩いている。


 背中には相変わらず黒い岩が担がれていた。


 アルエがそれを見てため息をつく。


 「……ねえ、それまだ持ってるの?」


 「効率がいい」


 マットは平然と答える。


 「この重さで歩き続ければ、脚と背中に負荷がかかる。しかも火山の熱で心拍も上がる。いいトレーニングになる」


 「追跡中にやることじゃないわよ普通」


 アルエが呆れ顔で言うと、ロイドが小さく笑った。


 「でも、彼の体力があるから追跡速度を落とさずに済むのも事実だよ」


 「そこは否定できないのが悔しいわね」


 リーリヤはそのやり取りを聞きながら、ふうと息をついた。


 「まあいいじゃない。今は情報の整理の方が大事よ」


 そう言って、ロイドの持つノートへ視線を向ける。


 谷で捕らえた研究者からは、すでに一通りの情報を吐かせてある。リーリヤの尋問とロイドの誘導が合わされば、口を閉ざし続けられる人間はそう多くない。


 ロイドは歩きながら地図を取り出した。


 「まず分かったことを整理しよう」


 紙の上にはいくつもの印がつけられている。


 「この組織は、単発の研究じゃない。完全に体系化されている。各地でモンスターを乱獲し、魔力を抽出する班がいる。その魔力を保存して運搬する班がいて、さらにそれを加工する研究者がいる」


 アルエが眉をひそめた。


 「まるで工場ね」


 「うん。まさにそんな感じだ」


 ロイドは頷く。


 「しかも抽出した魔力はただ使うわけじゃない。性質ごとに分類して、混ぜ合わせている。火属性、風属性、生命系、毒系……いろいろな魔力を組み合わせて、投与するモンスターに最適な配合を探っているらしい」


 リーリヤが腕を組む。


 「気の遠くなる作業ね」


 「実際そうだろうね」


 ロイドは静かに言った。


 「研究者の話だと、既に何千、何万という実験が繰り返されているらしい。ようやく最近になって、安定的に進化を引き起こす組み合わせの傾向が見えてきた段階だそうだ」


 アルエが思わず顔をしかめる。


 「何万って……その全部でモンスターが犠牲になってるってこと?」


 「そうなるね」


 ロイドの声は静かだった。


 その事実の重さを、誰もが理解していた。


 マットがぽつりと呟く。


 「だからあんなに暴走してたのか」


 火山で出会ったフレアリザードの姿が脳裏に浮かぶ。体が壊れながらも魔法を撃ち続けていた、あの痛々しい姿。


 あれは失敗例だったのだろう。


 リーリヤが言う。


 「で、その組織のボスは?」


 ロイドは首を振った。


 「残念ながらそこは分からない。研究者も知らなかった。各地に研究者がいて、それをまとめる“博士”と呼ばれる人物がいるらしいけど、そのさらに上は見えない」


 アルエが口を尖らせる。


 「博士ねえ。いかにも怪しい名前」


 「ただ、それでも前よりはずっと進展してるよ」


 ロイドは地図を広げた。


 「運搬部隊の人数構成、護衛の規模、それから補給量。あれを考えると拠点は日帰り距離じゃない。少なくとも二日、長ければ三日圏内」


 マットが言う。


 「逃げた男も同じ方向だ」


 「そう」


 ロイドは地図の一点を指した。


 「だから、この辺りが怪しい」


 そこには三つの小さな村が描かれていた。


 火山地帯の外れにある、どれも似たような規模の集落だ。交易路からもやや外れ、人の往来は少ない。隠れ蓑にするには悪くない立地だった。


 アルエが唸る。


 「三つかー。ちょっとばくちをするには難しい数だね」


 リーリヤも同意するように頷く。


 「どれか一つに決め打ちするのは危ないわね。外したら時間の無駄になる」


 ロイドは地図を閉じた。


 「だから当初の予定通りだ」


 「後を追う」


 カーボが遠くで短く吠えた。


 匂いはまだ続いている。


 アルエが空を見上げる。


 火山の煙の向こうで、朝日がようやく顔を出し始めていた。


 「できれば、連絡がつく前に捕まえたいところね」


 ロイドは頷いた。


 「うん。もし逃げた男が本拠地に辿り着く前に追いつければ、向こうはまだ何も知らないままだ」


 マットは背中の岩を担ぎ直す。


 「走れば間に合うか」


 リーリヤが笑う。


 「その岩降ろせばもっと速いと思うけど」


 「トレーニングだ」


 「はいはい」


 カーボが再び前へ走り出す。


 その背を追いながら、四人と二匹は火山地帯を抜けていく。


 逃げた男との距離は、まだ分からない。


 だが確実に、組織の核心へと近づいていた。



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