7.魔道具と王子様
浴室から出た。ひんやりとした空気が当たって気持ちいい。
個人的にはこのままコーヒー牛乳が飲みたいなぁ。前世じゃ出来なかったから⋯⋯多分異世界には無いけど⋯⋯
私はハイネさんによって身体を拭かれ、髪を乾かしてもらう。
水中だと気づかなかったけど、私の髪は腰の辺りまで届くほどに長い。。それをドライヤーみたいな温風が出る筒によって、ハイネさんは丁寧に乾かしていく。
「ハイネさん、それってなんですか?温かいやつ」
「これですか?火と風の魔石を使った魔道具ですよ。巷ではドライヤーとか言われてます」
「へえー⋯⋯?」
まさかのそのままだった。
え、言語体系どうなってるの?⋯⋯ていうかそもそも、なんで私って会話出来てるんだ?海の中と陸上で使っている言葉が同じなの?
⋯⋯まあ別にいっか。問題無いし、考えたって分からないし。
そんな事よりも魔石や魔道具の方が興味深い。
この世界にはおそらく魔法がある。流石異世界、ロマンがある。
いつか見てみたいけど、ここは王城だし魔術師とかいるのかな?いや、もしかしたら私が使える可能性も⋯⋯
「あ、スイウは勝手に魔道具に触っちゃ駄目ですよ。魔力を吸われると命に関わりますから」
ハイネさんにしっかりと釘を刺された。私の顔はそんなに期待で満ちていたのだろうか。
髪が完全に乾き切ると、私は服を着せてもらう。
下着とワンピース。前世も含めて、私が今まで着た服で最も肌触りがいい服だった。値段のことは考えないようにした。
そしてハイネさんに抱え上げられて浴場を出る。
身体が少し慣れてきたのか、手を上げたり、首を少し動かしたりできるようになっていた。
改めて廊下を見ると、先程とは違うものが見えてくる。
まず天井がこちらも凄く高い。5m以上ありそうで、上からも簡易版シャンデリアがぶら下がっている。これも、壁に付いてるガス灯だと思ったやつも、魔力で明るくなるのかな。
そして壁の反対側は全面ガラス張りになっていて、広大な庭園が外に広がっていた。青々とした芝生に、噴水や花壇、彫刻が設置されている。その向こう側には城壁らしきものもあって、とにかくスケールが大きかった。
更に前を見ると、遠くにどこぞの院長回診みたく1人を先頭にぞろぞろと歩いている集団がいた。
目を凝らしてみるとその先頭の男の人は、なんか荘厳なマントを身に付けていて、髪の色が王女と同じ金色だ。この人って王女様の兄弟とかだったりするのかな?
と、見慣れない風景に心を奪われていると、ハイネさんが横に避けたことでようやく大名行列が徐々に近づいて来ていることに気付いた。
暫定王子様は、近くで見てみると王女様と同じように美形だった。目も同じように碧いので、間違いなく血縁関係はあるのだろう。
ハイネさんが暫定王子様に向かって頭を下げた。なので私も空気を読んで一緒に頭を下げた。えらい。
そのまま通り過ぎるのかなーと思った矢先、暫定王子様がハイネさん、と言うより多分私を見てその歩みを止めた。
「⋯⋯おいハイネ、そいつは?」
「スイウでございます。グラン殿下」
「そういうことを聞いてるんじゃねえんだが⋯⋯それ、亜人だろ。また拾ったのか?」
「エリシア殿下が保護致しました」
「ったく、犬猫のように拾ってくるんじゃねえよ。つかそんなものを王宮内に入れるな。猫共と共にさっさと追い出しとけ」
王子様───殿下呼びから確定───はそう不機嫌そうに吐き捨てて去って行った。
私はハイネさんと一緒に離れていくのを見送る。心做しか近づいてくる時よりも歩くのが速い気がした。
「スイウ、大丈夫でしたか?」
「はい、問題ないです。すごく感じ悪かったですけど⋯⋯あの方たちは誰ですか?」
「グラン・ミレトス殿下とその取り巻き共です。グラン殿下は第二王子で姫の兄ですね。ちなみにがさつで女好きで思いやりと品がなくて、唯一の美点は黒くなる腹が無いことですね」
「めっちゃ嫌いじゃないですか」
王子様のことを語るハイネさんの顔は酷かった。綺麗なお姉さんという顔が、ものの見事に歪んでいた。
まあ確かに、たったこれだけの会話でも嫌な気持ちを抱くのに十分な相手ではあったけれど。出会い頭に、そんなもの呼びは流石に酷い⋯⋯いや、分かんないな、身分制社会ならそのくらいは普通なのかもしれない。
「はぁ⋯⋯もうさっさと部屋に帰りましょうか。ほんと、ろくなことがないので」
「はい⋯⋯その、お疲れ様です」
けどハイネさんの反応を見る限り、やっぱり王子様は酷い方の人なのだろう。
そうしてハイネさんはげんなりした様子で早歩き、と言うより小走りで廊下を急ぐのだった。
「⋯⋯そういえば、スイウって本当に子供ですか?妙に落ち着いてますし、言葉もしっかりしてますし」
「⋯⋯え?ワタシハチイサイコドモデスヨ⋯⋯?」




