6.怖いメイドさん
ハイネさんにいわゆるお姫様抱っこをして貰って初めて部屋の外に出る。ちなみにハイネさんはしっかり私の頭も支えてくれている。優しい。
部屋の外には⋯⋯部屋があった。さっきの部屋よりも少しかっちりしている感じ。高そうな調度品が色んな所に置いてある。
「ここは応接間で、先程の部屋が姫の私室です。まあ滅多なことは無いと思いますが、一応一人の時は姫の私室にいるようにして下さい」
「はい。⋯⋯え、何かあるんですか?」
「来客が来た時にちょこまかされると迷惑なので」
「あ、はい。気をつけます」
それからハイネさんはまたドアを開いて、今度は廊下へと出た。
赤いカーペットが無限に続いていて、壁にはなんか綺麗な絵画と電灯⋯⋯じゃ無さそう、ガス灯?が掛かっている。まさしく洋風城の内部風景だ。
そんな中ハイネさんは迷いなくスタスタと歩いていき、暫くしたら浴場に辿り着いていた。
「はい、脱がしますね」
と、未だ動けない私はベンチに置かれて服───どちらかと言うと布を巻き付けたもの───を脱がされていく。身体が重すぎて尊厳を捨てるしかなかった。
そしてまたハイネさんに抱き抱えられて浴室の中へ入る。
「⋯⋯あの」
「はい」
「こんな所に私入れて大丈夫なんですか?」
目の前に広がるのは何十人も泳げそうなほど大きい浴槽、そこにお湯を注ぐライオンっぽい彫像3つ、なんか輝いている床のタイル、そしてありえないくらいに高い天井⋯⋯要するにありえないくらい高級そう。
「めちゃくちゃ顔が引きつってますよ⋯⋯まあ、元は姫の浴場だったので高いですけど」
「え、」
「今は姫が王宮の全女性に使用許可を出してるので問題ないです。とりあえず髪洗いますね」
有無を言わせず私を背もたれ付きに椅子に座らせて、頭にはシャンプーハットを装着。そして丁寧にハイネさんは私の髪を洗い始めた。
多分上手で気持ちいいはずなんだけど、椅子とかシャンプーの値段が気になりすぎて全然リラックス出来ない。
「なんでそんなにおどおどしてるんです?別に姫の部屋も高級さで言うと変わりないでしょうに」
「それは⋯⋯確かに?」
うーん⋯⋯日用品だからその値段の高さが気になってしまう感じなのだろうか。王女様の部屋は現実感が無い。
けどそういうものとして慣れてくしかないのかな、とも諦め気味に思う。
今更だけど、拉致された後に王城でこんなふうに世話されるなんてどんな天文学的数字なのだろうか。ていうかやっぱなんで王女様は私を買ったんだ?
考えている内に身体はごしごしごしごしと隅々まで洗われる。竜宮城で使ってた謎海藻と違って、ここのボディタオルは力を込められても全然痛くなかった。
「はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます。お風呂入っていいですか?」
「いいですよ」
ハイネさんに浴槽まで運んでもらう。お湯に使った途端、私の身体に自由が戻ってきた。
本当に身体が軽い!まるで羽のよう。もう何処にでも行けそう。やっぱ水の中しか勝たん!
「スイウ、そろそろ出てきてください」
「え、あともう少し⋯⋯」
「スイウ?」
⋯⋯と、思っていたけれど、ハイネさんの少し冷たくなった言葉で、私の身体は鉛のように重くなった。
恐る恐る振り返ってみると、ハイネさんの後ろに般若が見えた。顔は微笑んでいるのに、その雰囲気が尋常ではない。
ここでようやく、私はテルとジアがハイネさんを前にすると大人しくなった理由を知ったのだった。めっちゃ怖い。よく分からないけど怖い⋯⋯
「はい⋯⋯」
私は壁際まで泳いでいき、そこでハイネさんに大人しく捕まった。
まだ全然泳いでないのに⋯⋯




