15.どうするか
分かったこと。
この国の通貨、1グリズは大体1円と同じくらいの価値を持っていそうなこと。
そして私の服に500万グリズが注ぎ込まれたこと。
そう、一年以上暮らせるお金が、何故か私に使われてしまったのだ。
もうなんというか、申し訳ない。
そもそも私が不注意に竜宮城から出たせいで捕まって奴隷にされたのに、そこから(多分)助け出してくれて、生活を保証してもらった上に500万である。
ということで、半ば半射的に働けないか尋ねてしまった。
「働く⋯⋯って、なんで?」
「だって、私にエリシア様が与えてくれたのだから、何かで恩を返せないかな、と⋯⋯」
私がそう言うと、クレアさんは少し嫌そうな顔を浮かべて、まだしがみついているテルとジアを指さした。
「じゃあこいつら引っぺがしてくれない?」
テルとジアを引っぺがす⋯⋯?
ちょっとは考えてみたけど、昨日見た限り明らかに身体能力が劣っている私には到底できそうになかった。
「⋯⋯無理です」
「なら仕事も無理だから、諦めて」
「⋯⋯え?」
その言葉に、私は思わず驚いてクレアさんを見上げる。
クレアさんは少しバツが悪そうな表情をした後、大きく息を吐いて私の額に指を立てた。
「あのね、何も出来ない子供が働こうとしたって邪魔なだけなんだから。あなたは大人しく育っていけばいいの」
「⋯⋯でも、テルとジアは⋯⋯」
「この子たち?」
クレアさんはテルとジアのことを、首を回して見た。
2人は不思議そうな顔を浮かべている。
「⋯⋯ああ、レイとの特訓を見たのね。それを考えたらこの子たちは頑張っているけど」
「なら⋯⋯」
「でも、頑張ってるだけ。使えるかどうかは別問題、そうでしょ?」
ほら、あなたたちがいるせいで私は姫から離れなきゃいけなかったんだし、と言われ、私は反論することができなかった。
いやまあそれは、そうですよね⋯⋯はい⋯⋯
「なんであなたがそこまで思うのかは分からないけど、子供は子供らしく食べて遊んで大きくなればいいの。いい?」
クレアさんの言葉に、私はこくりと頷くしかなかった。
確かに私って何も出来ることないからなぁ。水の中で早く泳げるくらい?
と、昨日と同じ大浴場にて、私は浴槽の中で泳ぎながら考える。
一応ジアと一緒に来たのだけど、先に逃げるように上がってしまった───やはり猫は水が嫌いだった───ので、今居るのは私と、ハイネさんとは別のメイドさんが入口付近で待ってくれている。
よく考えると私が出来ることは皆無に等しくて、でもやっぱり何もしないのはなんかなぁ、という感じで。
クレアさんが私に言ってくれたことは多分普通で正しいことなんだろうけど、成長するまで大人しくお世話になるのは気が引ける。
だって、人はいつ死ぬか分からないんだから。⋯⋯別に今世でも早死にする予定は無いけど。
⋯⋯こんな風に思うようになったのは、前世の記憶の影響なのか、それともお父さんとお母さんがいたからなのか、少し疑問に思った。
だって、前世の私なら喜んで貰うだけだろうから。そして穀潰しとして死んだ。
私が1番したいことは、竜宮城に帰ること。そこに変わりはない。
でも、だからと言ってエリシア様達に欠片も恩を返さないというのは、やっぱり何か違う、そう思える。
「竜宮城に帰りたい⋯⋯でも、何かしたい」
そこまで考えたところで、ある考えが頭の中に浮かんできた。
やっぱりこうなるのか⋯⋯という気持ちがありつつ、1番現実的かなと思える方法だった。
前世の私は勉学一辺倒だった。入学は出来なかったけど、それなりに良い大学の試験にも合格した。
残念ながら文系だったため技術革命なんかは起こせる気がしないし、なんなら前世の知識が役に立つかも分からないけど、ある程度学べば計算辺りの事務作業くらいは出来るはずだ。
もちろん今すぐにできることでは無い。でも他のこと、武力を身につけるとかよりは遥かに早い。
そして、 『私が戦争を終わらせて、スイウをお家まで連れていくからね。だからそれまで、私と一緒にいてください』
エリシア様を手伝えば───手伝いになるかは分からないけど───早く帰れるんじゃないか。そんな淡い期待も私の胸の内に浮かんできた。
だって、王女様なのだ。間違いなく権力があるそんな人が、奴隷とされていた私に気を使う必要なんて全く無い状況で、家に帰らせると言ってくれた。
それなら、色々と学びつつ、エリシア様の手伝いもする。それが今の私が出来る最も良い動き方なんじゃないか。
ようやく考えが纏まって、私は泳ぐのをやめ仰向けになって浮かぶ。
浴室の天井は相変わらず恐ろしく高い。でも、それは昨日ほど遠くには無いような気がした。




