2.冒険者ギルド③--〔試験登録〕
第5話を開いていただき、ありがとうございます!水月です。
少しずつ物語が動き始めていきます。
ゆったり楽しんでいただけましたら嬉しいです。
それでは、本日のシーンもどうぞお楽しみください!
♪「――黒髪の乙女は、竜と歩み……」
テンマは足を止める。
歌の意味が気になったわけではない。
ただ、不思議と耳に残る声だった。
♪「――銀の竜を退けし、その姿は……」
続きを歌おうとした、その時だった。
「いらっしゃいませ!」
明るい声がギルドに響く。
「冒険者試験を受けに来た方ですか?」
振り向くと、受付の奥から一人の少女が笑顔で手を振っていた。
年はテンマより少し上だろうか。
薄い茶色の髪を肩の辺りでまとめ、どこか子どもっぽさの残る顔立ちをしている。
酒場の注文も受けているのか、慣れた様子で客へ手を振りながら、テンマへ歩み寄ってきた。
「試験でしたら、こちらへどうぞ!」
テンマはもう一度だけ吟遊詩人の方を見る。
しかし、人垣の向こうに姿は隠れ、歌声も酒場の喧騒へ溶け込んでいた。
「……あ、はい」
そう返事をすると、受付嬢の後を追って歩き出した。
受付の前まで来ると、受付嬢は手際よく一枚の紙を取り出した。
「冒険者試験ですね!」
明るい笑顔を向けられ、テンマは少しだけ背筋を伸ばす。
「はい」
「初めてですか?」
「はい」
「でしたら、試験の説明は全部聞きますか?」
一瞬だけ考える。
何を聞けばいいのかさえ分からない。
「……分からないので、全部お願いします」
「はい!」
受付嬢は嬉しそうに頷くと、試験の流れや注意事項を一つひとつ丁寧に説明し始めた。
試験の進め方。
合格後の手続き。
そして、冒険者として守るべき決まりごと。
初めて聞くことばかりだったが、テンマは聞き漏らすまいと真剣に耳を傾けた。
「――以上になります。何か質問はありますか?」
「いえ、大丈夫です」
「それでは、まず受験料をお願いします」
テンマは旅袋を足元へ降ろす。
革紐を解き、中を探る。
財布を取り出そうとした、その時だった。
指先に、小さな革袋が触れる。
「……?」
見覚えがない。
取り出して口を開く。
中には、いくつもの硬貨が入っていた。
気づいていなかった。
母が旅袋の奥へ、小さな革袋をそっと忍ばせていたことを。
しばらく、その革袋を見つめる。
「お客様?」
受付嬢の声で我に返る。
「あ……すみません」
革袋をしまい直し、受験料を支払う。
受付嬢は手早く確認すると、にこりと笑った。
「はい、確かにお預かりしました!」
木札を一枚手渡される。
「試験開始まで、あちらの待合でお待ちください」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げ、待合へ向かう。
そこには、すでに何人もの受験生が座っていた。
腕を組んで目を閉じる者。
剣の手入れをする者。
落ち着かない様子で足を揺らす者。
そして、一人だけ。
壁にもたれ掛かりながら、静かに周囲を見渡している青い髪の若者がいた。
テンマと目が合う。
ほんの一瞬。
それだけで、互いに視線を外した。
まだ名前も知らない。
言葉も交わしていない。
ただ同じ試験へ臨む者同士。
それだけだった。
テンマは空いている席へ腰を下ろす。
周囲を見回し、小さく息を吐く。
いよいよだ。
大きく息を吸い込む。
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