#7 vs女子
「嘘いいなさい」
上手いことやったさ、と肩をすくめて言うと、華はそう断言した。
「嘘じゃねえよ」
「嘘よ。何年幼馴染やってると思ってんの」
助けを求めて駿輔を見ると、困った顔で苦笑していた。
バレバレか。
「はぁ……。あたしも迂闊だったわ。まさかあんたに彼女が出来てるなんて思いつきもしなかった」
「いや、彼女じゃないが」
「は?」
華はチベットスナギツネみたいな顔になった。心底呆れたときにする表情だ。
「あー……うん、なんとなくわかった」
「何がだよ」
「あんたたちの関係。あと、あんたの何処がダメなのか」
「あ? お前に何が」
「無駄だよ、蒼太」
駿輔が苦笑しながら言った。
「こういう時の華ちゃんは無敵だから」
どうやら、相変わらず駿輔は華の尻に敷かれているらしい。
「とにかく、あんたは早めに謝りなさい」
「何を謝れってんだよ」
「自分で考えないと意味ないでしょ」
フレンチクルーラーを食いちぎり(文字通り)ながら華は言う。口元に付いたクリームを駿輔が紙ナプキンで拭った。
うん、完全に説教モードだ。こういう時の華に何を言っても無駄だってことは、これまでの付き合いでわかっていた。
しかしな、今日一日取り付く島もなかったんだぞ。
仮に俺に何某かの落ち度が合ったとしても、どう謝ればいいのか。
「そんなの、あんたの無駄にデカい声でなんとかしなさいよ」
「そうだね。勢いとパワーが蒼太の持ち味みたいなとこあるし」
「お前らなあ」
俺が苦笑すると、二人は笑った。
元気づけようとしてくれるのが分かって、何処かささくれ立っていた心が少し落ち着いた。
全く、持つべきものは友だちだ。
★
「佐伯ぃ、ちょっとツラ貸しな」
まるで頭に入らない授業を聞き流して迎えた休み時間、風花のグループの鈴木と斎藤が俺の席に乗り込んできた。
危機的状況を察した伊藤くんは早々に逃げ出していて、鈴木と斎藤は二人で伊藤くんの席に勝手に座った。
二人とも怒っている表情だ。顔がいいだけに怒ると凄みがある。ギャルこわい。
「あんたさ、風花に何したの」
「冤罪だ。わしじゃない、わしはやっていない!」
「茶化すな」
「あ、はい」
と言われてもな。散々考えたが本当に心当たりがないのだ。華の件は風花の一方的な勘違いだし、弁解もさせてもらえないのではどうしようもない。
「いいから。昨日あったこと細大漏らさず全部ゲロしな」
「はい」
……
「あんたが悪いわ」
「だね。佐伯が悪い」
反論しようとする俺を鈴木が片手で制した。
「考えてみなよ。待ち合わせの場所に行ったら、風花が知らない男と親しげに話してる姿を見たらさ、あんたどう思う?」
「どうって……」
想像してみる。
俺の知らない男、イケメンで背が高くて、ボケを挟まないスマートな話題で風花を笑顔にさせられる男。
二人の間には親密な空気(俺と華のような?)が流れていて、風花もまんざらでもなさそうな様子で……
「嫌だな」
「でしょ」
「ああ、凄く嫌だ」
胸がムカムカとして、頭がカッとした。どけ、そこは俺の場所だ、と想像上のイケメンをブン殴りたい衝動に駆られた。
……そうか、そういうことか。俺にとって華はただの幼馴染だが、風花にとっては知らない女だもんな。
こんな思いを風花にさせていたのだと思うと、ブン殴るべきはまず俺なのだろう。だが、先に風花に謝らなきゃ。
「風花は?」
「今レイナがトイレに連れ出してる」
「そうか。帰ってきたらちゃんと謝る」
「ちょっと待って」
今度は斎藤が俺を制した。まだ何かあるのか。
「あんたさ、風花がなんであんなに頑なになったか、ちゃんとわかってる?」
「え」
「風花が何に傷ついたのか、風花があんたのことをどう思ってるのか、ちゃんと考えな。謝るのはそれから」
「そうだね。……女の子はさ、不安なんだよ。この人は自分のことをどう思っているのか、自分はこの人にとって一番でいられているのか。ずっと不安なの」
「そう。だから女の子を安心させてあげるのが男の甲斐性ってやつだよ。男なら腹ァくくんな」
「言っとくけど、このまま問題を中途半端にして後悔すんのは、絶対あんただからね」
「あんたが後悔するだけならうちらは関係ないの。でも風花を傷つけたまんまにするのは絶対に許さないから」
言いたいことを言うと、二人は揃って自分の席へ戻っていった。
……俺は。
俺は風花のことを、どう思っている?




