#3 vsカフェ
ミートパイおいちい。
ゲーセンを出て、近くのカフェで第3ラウンドである。
テーブルの向こうにはシナモンロールをちびちびと齧っている湊がいて、その膝の上にはにゃん侍が抱きかかえられている。
貴重な北里先生2枚の成果である、大事にしてもらいたいもんだ。
正直痛い出費ではあるが、女児の笑顔も見れたし、湊も嬉しそうだし、致し方なし。
別れ際に「かれしさんとなかよくね!」と爆弾を落とされたのはいただけないが。女の子はマセてるな。
でも、湊とそういう風に見られるのはなんだか悪くない気分だった。たとえ女児の視点からであっても。
「UFOキャッチャーさ」
「ん?」
「なんであんなに得意なの?」
あー。そこは結構プライベートなことなんだが……ま、いいか。
「うちさ、5歳下の妹がいるんだ」
「妹?」
「うん。で、その妹が小さい頃は身体が弱くてな、しょっちゅう入院してたんだ」
ほんとにちょっとしたことで体調を崩して入院してたので、両親も俺も気が気でなかったな。
そんな調子だから友だちもあんまり出来なくて、随分と寂しい想いをしてたと思う。
「で、妹が寂しくないように、好きなぬいぐるみを沢山プレゼントしようと思って練習したんだよ」
「そうなんだ……。でもお金、大変だったんじゃない?」
「まぁ、それなりに」
なんでか、当時の俺はプライズなら上手くなれば取り放題! とか思ったんだよな。
当然、現実は甘くなかったけど。
「小遣いとかほぼ消えたしなあ。あと妹が入院したときは両親がつきっきりになるから、食費だけ渡されてさ。そこから捻出したりもしてた」
「……そう、なんだ」
まぁ、幸いにも近所のゲーセンにプライズの達人みたいなおっちゃんがいて、その人に色々と教えてもらってからはグングン上手くなったんだけど。
いつもグレーのスーツにオールバックの、やたらガタイのいいおっちゃんだった。見た目からしていかにもカタギじゃない感じだったけど、子どもの俺には優しかったんだよなあ。結局名前も聞かないまま、いつの間にか会わなくなったけど。何者だったんだろうか、あのおっちゃん。
「まぁ、そんなわけで昔取った杵柄っていうやつ?」
「ふーん……いいお兄さんだね。ちょっと意外」
「意外ってアナタ、失礼しちゃうわね」
「ぷ、なにそれ」
なぜかオネエになった。ウケたからいいか。
妹なー。近ごろはあんまりぬいぐるみ遊びもしなくなって、お兄ちゃんちょっと悲しい。
「意外といえば、湊も子どもにぬいぐるみあげるみたいな優しい性格とか、ちょっと意外だったな」
「は? ふーかのこと、どんなイメージで見てたわけ?」
「いやー、一軍女子って皆もっと自己中なもんだと」
「何それ……そんなんじゃないし。皆いい子だよ」
いい子は嘘告とかせんと思うんだがな。
そういや嘘告から始まったデートだったな、これ。忘れてた。
「ふーかんちさ、昔は母子家庭で、あんまりお金なかったんだよね」
「……そうなの?」
「そうなの。だから流行りの玩具とかあんまり買ってもらえなくて、友だちにも仲間に入れてもらえなくて寂しかっ時があったの」
「へぇ……」
あの湊がなあ。今の姿からはちょっと想像がつかない。いつもグループの中心にいるし。ひとりでいるのを見たことがない。
「だから、代償行動? っていうんだっけ?」
えーと、過去に自分がして欲しかったことを他人にして、自分の後悔や欠損を埋めようとする心理だったか。
難しい言葉知ってるな。
「とにかく、優しいとかじゃなくて、そういう……自己満足なの」
ふうん、なるほどな。てか意外と自己評価低いのか?
まぁ、俺は特に頭がいいわけでもないし、哲学者でもなんでもないから、優しさの定義なんて知らないが。
「それでも、湊は優しいと思うぞ」
「え?」
「自己満足でもさ、実際に行動に移せる人って少ないと思うし。あの子に話しかけてた時の湊の声、すげー優しげだったし」
ちゃんと膝を折って子どもの目線に合わせ、柔らかい声で話しかける湊は、なんというか新鮮だった。教室で毎日一緒にいても見たことがなかったぐらいに。
「それにさ、プレゼントもちゃんと俺に断ってからしたじゃん。本当に自己満足で動いてたら、そういうところに気がつかないで勝手に渡してたと思うし」
「……」
「うん、やっぱり湊は優しい人だよ」
「……なにそれ、意味わかんない」
湊は照れたように顔を赤くして、誤魔化すように紅茶に口をつけた。
やべえ、かわいいぞ、この表情。
「佐伯って、変なやつ」
「そうか? 俺ほどわかりやすいナイスガイはいないと思うが」
「なにそれ、やっぱり変」
湊はクスクスと笑った。
何気に今回のデートで初めての屈託のない笑顔かもしれない。意地悪く笑ってたのはあったが、あれは除外する。
それから俺達はとりとめのないことを話した。友だちの話とか、家族の話とか。
失敗談やトラブルのことを少しだけ脚色して大げさに話すと、湊はコロコロと笑った。
いつもの女子グループといるときとは違って、少し控えめに笑っていた。本来の彼女はこうなのかもしれない。
俺の妹は元気になって、湊のお母さんは再婚して経済的に楽になった。
生意気になってきた妹と、優しいけど少しだけお腹が出てきたお父さんの話でひとしきり盛り上がった。
話しているうちに湊が見せる色んな表情がとても魅力的に感じられて、もっと引き出したくなって、俺は様々な話を大げさに話した。
俺のくだらない話にコロコロと笑ってくれる湊と一緒にいるのは、なんだか悪くない気分だった。




