表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リィンカーネーションの理 〜転生者たちの英雄譚〜  作者: 奥槻 庵
第八章 美丈夫卿と赤錆の大鴉団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/79

第72話 恩恵の力

 一行は、大規模破壊呪文で黒躯はおろか周辺の建物も吹き飛ばされた更地を抜けて、領主館に向けて急いだ。黒躯は次から次へと路地裏から湧いてくる。そのつどフィンとノーマが打ち倒し、ある程度数が多いときにはナタリアの魔法が文字どおり火を噴いた。

 最初に見せた火球魔法だけでなく、大地から激しい爆炎を噴き上げる煉獄魔法など、圧倒的な破壊力を持った火属性の魔法が、ザイオンの美しかった街並みを次々と破壊していく。

 巻き込まれた黒躯は抵抗する余地もなく瞬時に塵と化していった。

 

「ナタリアさん! 破壊しすぎだよ!」

 

 たまらず悲鳴をあげたフィンに対して、ノーマが諦めたように笑いながら言った。

 

「いやあ、ナタリアにそれを言うのは酷ってもんだぞ? あいつ、ああいうバカげた威力の破壊魔法しか使えねえから」

「え?」

 

 驚いて振り向いたフィンにノーマはうんうんと頷いて見せる。

 

「あいつ、そもそもが研究してた魔術を実践の場で試したいって理由で傭兵の世界に飛び込んできた変わり者でな、威力ばっか求めすぎて、いつの間にかバカみたいな威力の魔法しか使えなくなってんだ」

 

 そんなんでよく魔術学院の講師なんかやれてるよな、と言いながらノーマは笑った。

 さすがにそんなはずはないだろうと、ナタリアの表情をうかがうと、あながち冗談じゃないらしく、顔を赤らめながらノーマを蹴り上げようと追い回し、するりと逃げられている。

 いままでナタリアが魔法を使わなかったのも、その並外れた威力で周囲に被害をもたらしかねないからということが判明する。

 

「……本当に講師なんかできるの?」

 

 心配になり恐る恐る尋ねるフィンに、ナタリアは少しだけ声を上擦らせながら言った。

 

「できる! あたしがコントロールできないのは、火球とか稲妻とか四大元素の力を具現化する呪文の、しかも威力だけ。他の呪文はふつうに使えるから!」

「じゃあ、使ってみろよ?」

 

 ノーマはニヤニヤしながら煽る。

 ナタリアは鋭く舌打ちをした。

 

「……こんなときに、そんな呪文を用意してるわけないだろ?」

 

 若干腹立たしげに言うナタリア。

 講義の予定があれば別だが、旅先ではやはり攻撃魔法ばかりらしい。

 

「しかし、そんな強力な呪文ばかり、よくもまあ、そんなに覚えてられるな。あと何発残ってるんだ?」

「あたしからすれば、そんなに強力な呪文でもないから。数は心配ない。問題はあたしの体力だね」

 

 ナタリアはそう言うと、こわばった身体をほぐすようにぐぐっと伸びをした。

 大規模破壊呪文は体力の消費も激しいらしく、数発の呪文を唱えただけでも、ナタリアはすでに息を荒げ、額に汗を浮かべていた。

 

「まあ、休み休みやらせてもらうよ」

 

 ナタリアは、周囲に散乱した建材の破片のなかから炎の小さなものを拾い上げると、咥えたパイプに火をつけ、大きく煙を吐き出した。

 転生者であるフィンからすれば、煙草など百害あって一利なしだと思うのだが、少なくともナタリアにとってはそうではないらしい。

 フィンは、燃焼によって体力を回復させるような物質を思い浮かべようとしたが、すぐに諦めて小さくため息をついた。

 

「ノーマさん、領主館までは、あとどれくらいですか?」

「あ? まだ半分も行ってねぇよ。早くしねぇと日が暮れちまう。ちんたらしてねぇでさっさと急ぐぞ」

 

 次第に空を赤く染めはじめた夕陽の光を浴びながら、ノーマはけらけらと笑った。

 その傍らでナタリアが改めて周囲を見渡し、いたるところで黒煙を上げる街の姿に残念そうにつぶやく。

 

「……しかし、酷い有様だね。これが長い歴史を誇った栄華あるザイオンの姿とはね。たかだか黒い死体がうろついているだけなのに」

 

 思わずフィンはつっこんでしまった。

 

「……どちらかというと黒い死体よりも、ナタリアさんの方が街を破壊してる気がするんだけど?」

「はあ?」

 

 ナタリアは、カチンときたのか眉間に皺を寄せてフィンの方に振り向いた。

 

「あのな、お前が手伝ってくれと言うからやってるんだぞ? そんなこと言うなら、フィン、お前がなんとかしろって」

「え……」

 

 年上であるはずのナタリアに容赦なく詰め寄られ、フィンは困惑した表情を浮かべながら後ずさる。そんな二人の様子をノーマが玩具を与えられた子どものようにニヤニヤと眺めていた。

 

「なんだよ、フィン、双剣以外にもなんかできんのか?」

 

 完全に野次馬を決め込んだノーマのヤジに、フィンは困ったように顔を歪める。

 自分の武器といえば、小剣による剣術と飛び道具としての手裏剣くらいしかない。

 頼みの綱の異能(オーバークロック)も、その性質上長続きするものでもなく、大量の黒躯を相手をするには不向きだった。

 フィンは改めて自らのスキルの選択肢の乏しさを痛感した。


 ……転生者って、チートなんじゃなかったっけ?


 ラノベやマンガとは明らかに異なる現実の厳しさに思わず苦笑しながら、フィンはふと思い出した。

 戦闘技術ではないが、もう一つだけあった。

 左手の薬指に残る痣のようなものを見つめ、やがて意を決したようにぎゅっと拳を握る。

 水の毒素を浄化したり、スライムを泥に戻すことができるならば、黒い死体にも効くかもしれない。

 フィンは自ら「燐光」と呼ぶ転生神の恩恵の力を試してみることにした。

 

「効くかどうかわからないけど……」

 

 フィンの張った予防線に、ナタリアは不思議そうに首を傾ける。

 無理もない。ナタリアはフィンの恩恵の存在を知らない。隠していたわけではなく、たまたま使う機会がなかっただけである。

 ただ、研究熱心なナタリアのことだ。魔術ではなくとも見慣れぬ不思議な力に強く興味を抱くことも考えられた。それはそれで面倒くさそうだな、とフィンは小さくため息をつく。

 そして、ため息の理由はナタリアだけではない。

 燐光には、そもそもの欠点がある。

 左手の薬指から放たれる光の効果は、対象に接近しなければ発揮しない。

 肌が触れることで感染させる黒躯とは相性が悪すぎた。

 燐光か、それとも黒躯の感染力か、いずれが勝つのかフィンにもわからなかった。

 だったら、やってみるしかない。

 フィンはふたたびため息をつくと、周囲を見渡し、他と比べても格段に動きの遅い黒躯に狙いを定める。大きく息を吸い、クロックアップを起動させると一気に黒躯の懐に入り込み、双剣を巧みに操り、黒躯を地面に横倒しにした。そして、間髪入れず、その胸に左手をかざし燐光を浴びせてみる。

 黒躯は、びくんと身体を大きく震わせる。

 転生神の恩恵である乳白色の淡い光は、たちまち黒躯の全身に広がっていき、そのどす黒さを飲み込み、失わせていく。またたくまに黒躯は、土気色の肌をした死体へと姿を変え、地面に横たわったままピクリとも動かなくなった。

 

「……効いた」

 

 フィンはほっとしながら言う。

 

「おまえ、すげえじゃん! 加速したのもすげえが、なにそれ、浄化? 僧侶みたいじゃん!」

 

 ノーマは感心したようにフィンを褒めちぎる。ナタリアも言葉こそ発しないものの驚愕の表情でフィンを見つめていた。

 

「……なんだそれ?」

 

 ようやくナタリアが口に出した言葉は、ノーマと同じく、黒躯を不死の呪いから解き放す不思議な力に対しての質問であった。

 

「神に授けられた恩恵……なのかな? よくわからないけど、毒とかいろいろ浄化することができるみたい」

 

 フィンは言葉を濁しつつ、当たり障りのない範囲で説明する。

 

「ふーん。異能(スキル)みたいなもんか」

 

 ノーマは納得した表情で頷く。

 

「確かに生まれたときに神から不思議な力を授けられることがあるってのは聞いたことがあるけど……見るのは初めてだ」

 

 ナタリアは難しそうに顔をしかめながら、ボリボリと頭をかいた。

 

「なにができるんだ?」

「え、いや、毒を打ち消したり、スライムを泥水に戻したりしたことあるけど」

 

 フィンは戸惑いながら、いままで燐光でやってきたことをいくつか列挙する。さすがに魔剣を無効化したことは、なんとなくやりすぎな気がして伏せておいた。

 

「なんだ、意外に地味だな。これは触らないとダメなのか?」

 

 ナタリアの質問にフィンはうなずくと、左掌を広げ、薬指の痣から乳白色の光が漏れ出るのを見せた。ほんのりと掌のまわりを照らす程度の弱い光である。効果を生むためには接触まではいかなくとも至近距離までの接近が必要であることを語らずともわからしめた。

 

「……いずれにせよ、黒躯を死体に戻す効果はあるみたいだな」

「な。使えるじゃん」

 

 ナタリアに相槌を打ちながらノーマはニヤリと唇を歪める。

 一方でフィンは、燐光によって魂糸を解体したときに流れ込む情報の質が、いつもと異なることに違和感を感じていた。

 いつもであれば情報の意味などわからず、ただ圧倒的な情報量に翻弄されるだけであったが、黒躯を解体したときに流れ込んできた情報は、その量こそあいかわらず多いものの、情報の持つ意味としては、ただひとつに集約されていた。

 それは「兵士を倒せ」という意思であった。

 それがどういう現象なのか、フィンには適切な解釈を下すことができない。

 ナタリアやノーマに相談することもできず、曖昧な表情のまま、年長者二人の会話に愛想笑いを浮かべていた。

 

「なあ、フィン、それあとどれくらい使えるんだ?」

 

 ナタリアの問いにフィンは首をひねった。

 

「わからないけど、疲労もないから、しばらくは大丈夫だと思う」

「……すげえな」

 

 フィンの答えにナタリアは呆れた様子を浮かべた。

 ナタリアの駆使する魔術は、呪文や触媒そのものの力も用いるが、その多くは術者のエネルギーに頼っている。いわばそのエネルギーを決められたルールに基づいてありえないくらい増幅させるものが魔術なのだ。

 もしも際限なくその力を行使できるとしたら、魔術師はあらゆる覇者や英雄を退けて、世界を支配できるであろう。

 フィンは居心地悪そうに肩をすくめた。

 言ったとおり、燐光には特に体力を費やしている感覚はない。やり方さえ覚えてしまえば、特に意識せずとも漏れてくるような印象すらある。発動したはいいもののすぐに限界を迎え、その後激しい後遺症にさいなまれる「過限駆動(オーバークロック)」とは大きな違いだ。

 とはいえ魔術や異能とは異なり、それほど強大な効果があるわけでもない。毒や呪いなどの状態異常を無効化する程度である。

 黒躯やスライムに効くだけよかったとフィンは自嘲するようにため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ