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リィンカーネーションの理 〜そして僕たちは異世界で巡り会う〜  作者: 奥槻 庵
第一章 コルト村の少年フィン

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第5話 生まれたてのミア

 フィンは、その言葉に全身の時間が止まったかのような息苦しさに襲われた。浅い呼吸に、頭がぼうっとする。すべての世界が自分から遠ざかったような錯覚に襲われた。

 ぼんやりと生まれたての赤子の顔を見つめていると、意図せず、ひとつの名前が唇から漏れ出てきた。


「未央……?」


 その言葉に自分自身で驚くフィン。

 改めて布に包まれて泣きじゃくる赤子の小さな顔を見つめる。ミアは、生まれながらに豊かな黒髪を有していた。その愛嬌のある顔立ちに、どことなく前世で親しかった後輩の面影を見出した。

 いつも楽しげに笑っていた関口未央(せきぐちみお)

 おしゃべりが大好きな二学年下の丸顔の後輩で、宏基とともにいるところを通り魔に襲われ、その目の前で惨殺された仲間の一人だった。

 フィンの瞳から大粒の涙が溢れ落ちた。


「生きててよかった……」


 フィンのその言葉に、ミアの祖母は戸惑いながら、助けを求めるように司祭の顔を見つめた。

 その無言の訴えに司祭は小さく頷きながら、咳払いとともにフアナとフィンに話しかける。


「あー、その、友達ってのは……この子……だと?」


 不信感を隠そうともしない司祭は、不機嫌そうに腕を組み、ぼりぼりとまばらに髭の生えた顎を引っ掻きながら尋ねた。


「あ……」


 フィンは司祭の態度に我に返ると、恥ずかしそうに涙を拭った。

 さすがに赤ん坊が友達だといっても信じてもらえないだろうことに気がつく。


 ……どうしよう……。


 フィンは不安そうに傍のフアナの顔を覗き込むが、フアナは美しく整った表情のまま、平然としていた。


「そうです」


 フアナは、さもこともなげに答える。

 フィンは思わずフアナを凝視してしまった。

 

「これは、予言ですので」


 フアナは表情も変えずに、司祭に言った。


「……予言?」


 司祭はその言葉にギョッとしたように目を丸くする。


「私は粉挽きです。母が祖母から受け継いだ予言の技を、私も母から受け継ぎました」


 まるで母親とのやりとりを思い出しているかのように、節目がちに滔々と語って聞かせた。

 その発言に、司祭だけでなくミアを抱く祖母や他の村人たちも、言葉なく驚きの表情を浮かべる。


 魔法が技術として整理され、学問として研究されるようになってから、魔法使いは農村から姿を消し、都市にてギルドや王侯貴族たちと共に存在するようになった。

 それ以前は、農村にいる産婆や粉挽きの女性が、まじないや占い、治療などの原始的な魔術の担い手だった。迷信多き時代にあっては、その超越的な力は、村人たちから畏怖と尊敬を集めていたが、時代が下り、高度な魔術が次々と開発されていくと、やがて専門に学んだ魔法使いたちによって古びた遺物と決めつけられて嘲笑の対象となっていった。

 しかし、現代にあってもその末裔はいまだに農村に生き延び、先祖から受け継いだ魔術成立以前の技を伝えていた。


 レンヌ村の村人たちにおいても、長年蓄積された価値観は文化として染みついており、粉挽きの不可思議な力には畏怖を感じずにはいられないようだ。フアナの衣服にまとわりついた白い粉が、その言葉の信憑性を高めていた。もちろんすべての粉挽きが原始的な魔術の遣い手ではないのだが。


 フアナは、あえて半眼で村人たちを睨め回した。

 その視線に村人たちが息を呑むと、厳かに言う。


「ミアは、このフィネスの友人です」


 その言葉に反論する者は、もはやその場にはいなかった。ボソボソと「予言だって」「気味が悪いね」と囁き合う声が聞こえてくる。

 フィンは、祖母の胸の中で眠るミアの寝顔に

 

「また、来るね」


 そっと話しかけ、レンヌ村を後にした。





 それから五年の月日が流れた。

 フィンは十歳となり、フアナとともに水車小屋で粉挽きの仕事に勤しむ日々を送っていた。体格こそさほど大きくはないものの、日々の重労働がもたらした強靱でしなやかな筋肉と、五歳から続けている剣術の地道な鍛錬によって、いまではエリックも認める腕前の剣士へと成長していた。

 その心の根底にあるのは、いまでも変わることなく、前世での後悔であった。

 隣村にいるミアの存在をいつも思いつつ、日々鍛錬に明け暮れていた。また会える日を夢見つつ。

 あれから五年。


「……もう五歳になるのか」


 挽き終えた小麦の粉をいっぱいに詰めた麻の袋を抱え、水車小屋の外に出たフィンは、街道の彼方を見つめながら呟く。

 やがて、ため息をつき、静かに目を閉じた。

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