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リィンカーネーションの理 〜そして僕たちは異世界で巡り会う〜  作者: 奥槻 庵
第二章 東京

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第12話 最後の稽古会

 ——そして、現在。


 裂帛の気合とともに遼太郎の木刀が振り下ろされる。

 その渾身の一撃を山村七海は頭上に構えた木刀で受け止め、そのままくるりと円を描くように打剣の圧力を受け流す。そして、その反動を利用して素早く遼太郎のこめかみへと打ち込んだ。

 だが、遼太郎は常人離れした反射神経と筋力で木刀を引き戻し、七海の一撃をすんでのところで防御する。

 しかし、七海はさらに一歩踏み込むと、次の瞬間、柄頭で遼太郎の顎をコツンと打ち上げた。

 勝負あり、である。

 そっと触れる程度の攻撃だったが、まったく反応できない異様さに、遼太郎の背筋は凍りついた。

 七海が本気だったら、この一撃で顎をかち割られていたであろうことを察していた。


「……わかった?」


 七海は構えていた木刀を下ろしながら、さも興味なさそうに、遼太郎、そしてそれを周囲で見ていた部員たちに尋ねた。部員たちは口々に「はい」と返事する。その曖昧な口調に七海は苦笑を浮かべた。


「有坂は反応速度も早いし、たぶん目がいいんだろうね、よく見えてる。でも、だから、遅い」

「……考えるな、感じろ、っすか?」


 遼太郎の言葉に七海は、にっと笑う。


「正確にいうと、ちょっと違う。……ブルース・リーは好きだけどね」


 七海は頬を緩める。

 大きな瞳と丸顔でふっくらとした顔立ちから、笑うと実年齢よりも幼く見えるが、基本的に常在戦場といった鬼気迫る雰囲気をまとっているため、誰しもが七海の前では緊張感を抱かざるをえなかった。「萌え」という言葉とは最も縁遠い人物の一人であろう。そんな誰も癒さない笑顔のまま、七海は言葉をつづけた。


「まあ、結局は見るんだけどさ……視覚でとらえた映像が脳に送られて、情報として処理されるじゃない? で、そこから判断して筋肉に指令を伝えるんだけど、そうすると対応がだいぶ遅くなるわけだ。大切なのはいかに中間工程を減らすかということ。その秘訣が“意識”に任せないってことになる。つまり、目で見るけど考えない、ってことだね」


 七海いわく、人間の身体には自動運転機能が備わっているらしい。だが人間はどうしても“意識”ですべてを管理したがる。だから遅れる。遅れないためには意識的に“意識”をシャットダウンし、自動運転に任せる必要があるという。


「考えるな、動け、って感じかな?」


 七海は、後頭部をぽりぽりと掻きながら気怠そうに言った。どうも七海は長口上が苦手らしい。


「さて、練習しようか。しばらくできなくなるしね……」


 そう言うと七海は手をぽんぽんと叩き、模範動作を見ていた部員たちへ稽古を促した。



 

 大学から少し離れた場所にある、都内でも有数の広さを誇る公園。その遊歩道から外れた木立の奥に、七海から指導を受けている部員たちが集まっていた。学生たちも夏休みを迎え、サークルの稽古会もしばらくおやすみを迎える時期だ。

 夕飯時だというのに、真夏の空はまだまだ明るく、遠く西の方角には夕焼けも見えていた。


 遼太郎が七海の稽古相手に指名されたため、宏基はもう一人の同級生の藤堂貴緒(とうどうたかお)と組んで稽古することになった。後輩の関口未央と三宅侑輔は、少し離れたところで教わったばかりの古流剣術の形を反復練習している。

 宏基は技を受ける打太刀の役を引き受け、生真面目な貴緒の木刀を繰り返し受け止めていた。

 端正な顔立ちでひょろっとした体格に細長い手足。その貴公子然したルックスから、古流剣術というよりはフェンシングあたりが似合いそうな貴緒だが、その真面目な性格から七海に教わった泥臭い剣を忠実に再現しようと努力していた。無駄話もせず稽古に汗を流すその姿に、宏基は同級生ながら畏敬の念を抱いていた。

 しかし、今日は珍しく貴緒が手を止めて話しかけてきた。


「宏基。なんか元気ないけど大丈夫?」

「え? ああ、まあね……」


 宏基は、意表を突かれて返す言葉に窮してしまう。

 そんな宏基の反応に貴緒は勝手になにかを察してしまったようで、長いまつ毛を伏せて悲しそうに頷いた。


「やっぱ、心配だよね……」


 そして小声でもう一人の同級生の名前を呟いた。


「……燐ちゃん」


 その名前に、宏基の胸はぎゅうっと絞られるような痛みに襲われた。まるで時間が止まったかのような絶望が宏基を支配する。呼吸を忘れ、その後、酸素を求めて喘ぐように胸を上下させた。

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