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第6話近すぎる距離

部屋の空気は、静かだった。


窓から差し込む柔らかな光。

整えられた室内。


玲花はベッドにもたれながら、本を読んでいた。


ページをめくり、文字を追う。


けれど内容は、ほとんど頭に入ってこない。


「……」


小さく息をついた、その時。


コン、と控えめな音が響いた。


玲花が顔を上げるより先に、扉の向こうから声がする。


「入るね」


静かに扉が開き、シオンが姿を見せた。


「読んでたんだ」


「うん」


短いやり取り。


シオンは自然な足取りで部屋に入ってくる。


逃げる理由なんてない。


それなのに、なぜか少しだけ息が詰まった。


「ここ座るね」


そう言って、シオンは玲花の隣へ腰を下ろす。


近い。


肩が触れそうなほどの距離。


「難しい?」


覗き込むように顔を寄せられ、玲花はわずかに視線を逸らした。


「……ちょっと」


本当は、さっきから集中なんてできていなかった。


シオンの指先が、本の文字をなぞる。


「ここはこう読むんだよ」


声が近い。


横を見れば、すぐ隣に彼の顔がある。


玲花は落ち着かなくなって、また目を逸らした。


「……ありがとう」


小さく礼を言う。


「どういたしまして」


シオンはやわらかく笑った。


その直後。


彼の指先が、そっと玲花の手に触れる。


「……っ」


反射的に肩が揺れた。


すぐ離れると思った。


けれど、シオンはそのまま玲花の手を包み込む。


「冷たいね」


当たり前のように言う声。


逃げるほどではない。


嫌でもない。


ただ、少しだけ落ち着かなかった。


「……平気」


玲花がそう言うと、シオンは小さく笑う。


「そっか」


それでも、手は離れない。


むしろ、少しだけ強く握られる。


「外、寒かったでしょ」


優しい理由だった。


否定できない。


「……うん」


玲花は小さく頷く。


そのままシオンは、空いた手で玲花の髪に触れた。


やさしく整えるように、ゆっくりと。


「綺麗」


囁くような声。


近すぎる距離に、鼓動が少しだけ速くなる。


けれど、不思議と嫌ではなかった。


拒む理由も見つからない。


「ねえ」


シオンが静かに呼びかける。


「もう少し、こっち来て」


軽く腕を引かれる。


逆らうほどの力ではない。


気づけば、二人の距離はさらに近づいていた。


「……これくらいがいい」


満足そうに呟くシオン。


その言葉に、玲花の胸がわずかにざわつく。


理由は分からない。


ただ少しずつ。


“近い”という感覚が、当たり前になり始めていた。


――第6話 終――


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