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第44話鍵

夜の冷たい空気が、小さな部屋に沈んでいた。

——シオンを信じるな


「……っ」


その文字を見た瞬間、玲花の呼吸が止まった。

紙を持つ手が震える。


「……」


後ろにシオンがいる。

すぐ近くに。


「……玲花」


静かな声が落ちる。


「それ、読んだの?」


やわらかい口調。


なのに、空気が重い。


「……」


玲花はゆっくり振り返る。


シオンはいつも通り微笑んでいる。


穏やかな目。

優しい表情。


なのに、怖い。


「……」


言葉が出ない。


シオンは玲花を見つめたあと、机の中へ視線を落とした。


古びた鍵。


紙の束。


「……そこまで見つけたんだ」


小さく呟く。


驚いているようで、どこか納得しているみたいでもある。


玲花は唇を震わせた。


「……なんで」


やっと声が出る。


「……なんで、こんなのあるの」


「……」


シオンはすぐには答えない。


ただ静かに、玲花を見る。


「……これ」


玲花は紙を持ち上げる。


「私の字」


「……うん」


否定しない。


迷いもない。


胸がざわつく。


「……覚えてないの?」


穏やかな声。


「……っ」


その一言で、心臓が強く跳ねる。


「……」


覚えてない。


でも、確かに自分の字だった。


「……」


頭の奥が痛む。


「……玲花」


シオンがゆっくり近づく。


「無理に思い出さなくていい」


優しい声。


「怖かったんだよ」


「……何が」


思わず聞く。


シオンは少しだけ黙った。


それから、静かに目を伏せる。


「外が」


短い答え。


「……」


玲花は動けない。


「昔から」


シオンが続ける。


「玲花は、怖くなると隠れる癖があった」


穏やかな声。

まるで昔話をするみたいに。


「だからここを作った」


玲花の視線が揺れる。


「……私が?」


「うん」


また即答。


迷いがない。


「……」


本当?


でも——


「……じゃあ」


玲花はゆっくり口を開く。


「なんで、“シオンを信じるな”なんて書いたの」


空気が止まる。


「……」


シオンは答えない。


ただ、静かに玲花を見る。


「……」


沈黙が苦しい。


やがてシオンが口を開いた。


「……玲花」


「人って、怖いとき」


少しだけ間。


「助けてくれる人まで怖く見えるんだよ」


「……」


玲花は息を呑む。


否定できない。


今の自分が、まさにそうだから。


「……」


シオンがそっと手を伸ばす。


玲花の髪に触れる。


優しく。


「だから」


穏やかな声。


「そんな顔しないで」


「……」


涙が出そうになる。


「……俺は玲花を傷つけない」


その言葉はあたたかいはずなのに。


どうしてか、胸が苦しかった。


ふと、視線が落ちる。


机の中。

古びた鍵。


シオンは、そっちを見ていない。


「……」


玲花はゆっくり手を下ろす。


気づかれないように。


震える指で、


鍵を掴む。


冷たい。


「……」


そのまま、


そっと袖の中へ隠す。


無意識みたいに。


「……」


シオンは気づいていない。


——本当に?


「……玲花」


また名前を呼ばれる。


「もう出ようか」


やわらかい声。


「ここ、寒いでしょ」


「……」


玲花は小さく頷く。


「……うん」


声が掠れる。


「いい子」


また、


同じ言葉。


「……」


玲花は立ち上がる。


そのまま、シオンの方へ歩く。


でも袖の中では、鍵を握る手がずっと震えていた。

――第44話 終――


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