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第40話二通目の手紙

昼過ぎ。


屋敷は静まり返っていた。


時計の針の音すら聞こえそうなほど、静かな空間。


「……」


玲花は一人、廊下を歩いていた。


昨日の出来事が、頭から離れない。


——全部消しておいたから


あの言葉が、何度も脳裏をよぎる。


胸の奥がざわつく。


落ち着かない。


「……」


ふと、足が止まった。


窓の前。


曇った空。


遠くに見える街並み。


人の気配は、ずっと遠い。


「……」


その時だった。


小さな違和感。


玲花の視線が、窓枠の内側へ落ちる。


そこに、わずかに覗く紙の端。


「……え」


息が止まる。


ゆっくりと近づく。


指先で紙をつまむ。


そっと引き抜く。


折りたたまれた手紙。


昨日と同じ。


けれど今回は、端が少し汚れていた。


まるで、外から無理やり差し込まれたみたいに。


「……」


開くべきじゃない。


そう思うのに。


指は止まらなかった。


ゆっくりと紙を開く。


そこに書かれていた文字。


——玲花へ


同じ書き出し。


指先が震える。


——時間がないから短く書く


——あいつ、もう気づいてる


心臓が大きく跳ねた。


呼吸が浅くなる。


——でもまだ間に合う


玲花は唇を噛む。


——昨日の“隅”、見たよな


脳裏に浮かぶ。


あの、妙に気になった場所。


触れようとして、やめた場所。


——あそこは壁じゃない


「……っ」


喉が詰まる。


——薄い板で塞いでるだけだ


——中にあるのは


そこで文章が途切れていた。


インクが滲んでいる。


急いで書いたような跡。


——見ればわかる


玲花の呼吸が止まりそうになる。


——触れないのは、お前のせいじゃない


「……」


その一文だけが、妙に胸へ刺さった。


——あいつがそうしてる


視界が揺れる。


頭の奥がざわつく。


——玲花、思い出せ


知らないはずの言葉。


でも。


なぜか、引っかかる。


——俺は外にいる


——まだ終わってない


最後の一行。


——今度は逃がす


「……」


手紙を握る手が震える。


窓の外を見る。


誰もいない。


本当に?


その瞬間。


ぞくり、と寒気が背筋を走った。


「……っ」


今度は手紙を離さなかった。


捨てない。


誰にも渡さない。


玲花はゆっくり顔を上げる。


静かな廊下。


誰もいない。


そのまま足音を殺しながら歩き出す。


向かう先は決まっていた。


部屋の前。


「……」


ドアノブに触れる。


冷たい感触。


一瞬だけ迷う。


それでも。


玲花は扉を開けた。


部屋の中は、いつも通りだった。


綺麗に整えられた空間。


変わらない景色。


「……」


静かに扉を閉める。


鍵はかけない。


音を立てないように。


玲花は手紙を強く握りしめたまま、ゆっくり視線を向ける。


壁の隅。


あの場所。


今度は、目を逸らさない。


一歩、近づく。


また一歩。


鼓動がうるさい。


「……」


震える手を伸ばす。


怖い。


それでも。


「……っ」


指先が壁に触れた、その瞬間。


「玲花」


背後から声がした。


「――っ!!」


心臓が跳ね上がる。


勢いよく振り返る。


そこに立っていたのは、シオンだった。


「……何してるの?」


声は優しい。


いつも通り。


けれど。


視線は玲花の手元へ向いている。


握られたままの手紙。


そして――壁の隅。


「……」


玲花の喉が乾く。


今度は、隠せない。


シオンは静かに微笑んでいた。


その笑顔だけが、やけに怖かった。


――第40話 終――


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