第4話見ているだけ
部屋は、静まり返っていた。
灯りの落とされた薄暗い空間。
その中で、唯一光を放っているのは、机の上に並ぶ複数のモニターだった。
分割された映像が、無機質に映し出されている。
廊下。
庭。
正面入口。
屋敷のあらゆる場所が、絶えず監視されていた。
その中心に、シオンは一人で座っていた。
深く椅子にもたれ、何も言わず画面を見つめている。
だが、彼の視線が向けられている先は一つだけだった。
玲花の部屋。
ベッドの上で、玲花が静かに眠っている。
穏やかな寝息。
無防備な横顔。
何も知らないまま眠るその姿を、シオンはじっと見つめていた。
「……可愛いなあ」
小さく漏れた声は、ひどく優しかった。
シオンはそっと手を伸ばし、指先で画面に触れる。
まるで本当に彼女に触れられるかのように。
「ちゃんと寝てる」
安心したように、わずかに目を細める。
他の映像には、一切興味を示さない。
監視カメラはたくさんあるのに、彼が見ているのは玲花だけだった。
「……どこにも行かないよね」
返事はない。
当然だ。
玲花は眠っている。
それでもシオンは、満足そうに微笑んだ。
静かな沈黙が落ちる。
やがて彼はゆっくりと立ち上がった。
モニターの光が、その横顔を淡く照らす。
その表情は穏やかなのに。
どこか、底知れない執着だけが滲んでいた。
足音を立てることなく、シオンは部屋を出た。
静まり返った廊下を、ゆっくり歩いていく。
迷いはない。
向かう先は、ただ一つ。
玲花の部屋だった。
扉の前で立ち止まる。
けれど、ノックはしない。
当然のように手をかけ、そのまま静かに扉を開けた。
朝。
玲花はゆっくりと目を覚ました。
薄く差し込む朝の光。
静かな部屋。
けれど、なぜか身体に小さな寒気が走る。
「……さむ」
思わず肩をすくめた。
理由は分からない。
ただ、妙な感覚だけが残っている。
まるで。
誰かに、ずっと見られていたような。
「……気のせい、だよね?」
小さく呟く。
その時だった。
「おはよう」
突然聞こえた声に、玲花ははっと顔を上げる。
振り向いた先には、シオンが立っていた。
いつもと変わらない、柔らかな笑み。
「よく眠れた?」
まるで今この瞬間、部屋へ入ってきたかのような自然な口調だった。
「……うん」
玲花は小さく頷く。
さっきまで感じていた寒気は、いつの間にか消えていた。
「それならよかった」
シオンは安心したように微笑む。
その表情は優しく、穏やかで。
疑う理由なんて、どこにもない。
玲花はただ、黙ってその笑顔を見つめていた。
――何も知らないまま。
――第4話 終――




