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第35話隠したもの

「それ、何?」


シオンの声はやわらかい。

でも——逃げ場がなかった。


「……っ」


一瞬で体が強張る。


手の中の紙を、反射的に後ろへ隠す。


「……なんでもない」


とっさに答える。


自分でもわかるくらい、不自然だった。


「……」


シオンは何も言わない。


ただ、静かに玲花を見ている。


「……廊下に落ちてただけ」


慌てて言葉を足す。


「だから、拾って——」


途中で止まる。


うまく続かない。


「そっか」


シオンは小さく頷いた。


その反応に、一瞬だけ安心しかける。


でも——


「どこに?」


「……え?」


「落ちてた場所」


少しだけ首を傾ける。


「どこ?」


声は変わらない。


静かなまま。


なのに、逃げられない。


「……廊下」


なんとか答える。


「……へえ」


短く返す。


それだけ。


なのに、視線が外れない。


「……」


息が詰まる。


手紙を握る手に、汗が滲む。


「見せて」


ぽつりと落ちる。


優しい声だった。


お願いみたいに。


でも——断れない。


「……」


言葉が出ない。


「ただの紙でしょ?」


少し笑う。


「なら、いいよね」


一歩、近づく。


玲花は無意識に下がった。


「……玲花」


静かに名前を呼ばれる。


「隠す理由、あるの?」


心臓が跳ねる。


「……ない」


反射で答えてしまう。


「じゃあ」


すぐに返ってくる。


「見せて」


逃げ道がなくなる。


「……」


どうする。


見せる?


無理。


でも——


迷った、その瞬間。


シオンの手が伸びる。


「……っ」


とっさに手を引いた。


空気が変わる。


ほんの少しだけ。


「……やだ」


小さな声。


でも、はっきりしていた。


シオンの動きが止まる。


「……」


沈黙。


「……そっか」


静かな声。


怒ってはいない。


でも、少しだけ冷たい。


「見せたくないんだ」


事実を確認するみたいに言う。


「……」


玲花は何も言えない。


「……いいよ」


意外なくらい、あっさり引いた。


「無理にとは言わない」


少しだけ距離を戻す。


玲花は小さく息を吐く。


でも——


「後で、ちゃんと教えてね」


やわらかい笑顔のまま。


「玲花が隠し事するなんて、ないはずだから」


「……っ」


胸が締まる。


「……うん」


気づけば、頷いていた。


「いい子」


また頭を撫でられる。


優しく。


逃がさないみたいに。


「部屋、暖かくしてあるから」


何事もなかったみたいに言う。


「風邪ひかないでね」


そのまま、ドアへ向かう。


止められない。


何も言えない。


扉が静かに閉まった。


「……っ」


その瞬間、力が抜ける。


壁にもたれかかる。


浅く息を吐く。


手の中には、くしゃくしゃになった手紙。


震える指で、もう一度開く。


——壁の“隅”


玲花はゆっくり顔を上げた。


部屋の隅。


何もない場所。


「……」


でも。


今は、わかる。


確かに、そこに。


「……ある」


小さく呟く。


「……ここに」

――第35話 終――


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