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第34話届くはずのないもの

朝。


まだ空気が冷たい。


玲花は一人で廊下を歩いていた。


静かすぎる屋敷。


足音だけが響く。


いつも通り。


変わらないはずの朝。


「……?」


ふと、足が止まる。


床の上に、白いものが落ちていた。


「……手紙?」


小さく呟く。


こんな場所にあるのは、おかしい。


使用人が落とした?


でも——


封は閉じられていて、宛名もない。


まるで、玲花のために置かれていたみたいだった。


「……」


少し迷う。


胸がざわつく。


嫌な予感がするのに、手が伸びる。


紙に触れる。


ひやりと冷たい。


ゆっくり封を開け、中の紙を引き出した。


文字が目に入った瞬間。


「……っ」


息が止まる。


——玲花へ


見覚えのある字だった。


忘れられるはずがない。


「……なんで」


小さく漏れる。


“こんな形でごめん。でも、直接は無理だから”


指先が少し震える。


“あいつの家、変わってないな。相変わらず、閉じてる”


心臓が強く鳴る。


“玲花、まだ気づいてないだろ”


「……」


呼吸が浅くなる。


“あの部屋、ちゃんと見ろ”


頭の中に浮かぶ。


黒い点。


触れられなかった場所。


——壁の隅。


「……っ」


思わず手が止まる。


紙を握る指に力が入った。


“全部はここじゃ書けない。でも、あいつを信じるな”


「……」


視界が揺れる。


“また連絡する”


そこで文章は終わっていた。


玲花はしばらく動けなかった。


手紙を握ったまま、乱れた呼吸だけが静かな廊下に残る。


「……なんで」


どうしてここにあるのか。


どうやって入ったのか。


考えるほど、わからない。


「……」


ゆっくり顔を上げる。


廊下は静かだった。


誰もいない。


なのに。


急に寒気が走る。


この屋敷の中に、“外”が入り込んできたみたいで。


「……っ」


玲花は手紙を握りしめた。


どうする。


見なかったことにする?


捨てる?


「……」


でも——もう読んでしまった。


知ってしまった。


玲花の足が自然と動く。


向かう先は、自分の部屋だった。


確かめるみたいに。


ドアの前で立ち止まる。


「……」


一瞬だけ迷ってから、ゆっくり扉を開けた。


部屋の中はいつも通り。


何も変わらない。


「……」


静かに中へ入る。


視線が自然と動いた。


壁。


隅。


何もないはずの場所。


「……」


喉が乾く。


ゆっくり近づく。


一歩ずつ。


そっと手を伸ばす。


触れられる距離。


「……っ」


止まる。


また。


同じ場所で。


触れられない。


「……なんで」


小さく漏れた、そのとき。


「玲花?」


背後から声がした。


「……っ!!」


心臓が跳ねる。


振り返る。


シオンが立っていた。


ドアの前に。


「……何してるの?」


やわらかい声。


でも——


視線はまっすぐ玲花へ向いている。


その目が、ゆっくりと手元へ落ちた。


「……」


手紙は、まだ握ったまま。


「それ」


シオンが一歩近づく。


「何?」

――第34話 終――


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