第30話ありえない再会
昼。
町の食堂。
「でさ、あの時ほんと焦ったんだって」
親友が笑いながら話す。
「……へえ」
玲花は適当に返す。
会話は普通。
いつも通り。
でも、どこか上の空だった。
「玲花、聞いてる?」
「……聞いてる」
視線を上げる。
親友と目が合う。
そのとき——
カラン、とドアの音。
何気なくそっちを見る。
そして、
一瞬で空気が変わる。
「……え」
立っていたのは、元カレだった。
「……は?」
親友の声が一気に冷える。
「なんでここにいるの」
反射的に立ち上がる。
警戒の色がはっきり出る。
「……」
玲花は動けない。
思考が追いつかない。
「……捕まってるんじゃなかったの」
親友が低く言う。
それは“当然の前提”だった。
元カレは少しだけ息を吐く。
「……そう思ってるんだ」
否定もしない。肯定もしない。
その曖昧さが逆に不気味だった。
「座るぞ」
勝手に席に座る。
昔のままの距離感。
でも、空気だけが違う。
「説明して」
親友の声が鋭くなる。
「今すぐ」
「……あとでいい」
元カレは短く切る。
視線は玲花に向いていた。
ポケットから写真を取り出す。
テーブルに置く。
「……これ」
玲花の目が止まる。
見覚えのある部屋。
自分の部屋だった。
「……なにこれ」
「カメラだ」
一言。
頭の奥がざわつく。
「……それ、玲花に見せたの?」
親友の声が尖る。
「見せないと進まない」
淡々とした返答。
「……っ」
玲花の呼吸が浅くなる。
視線が外れない。
「鍵、増えてるだろ」
「外、嫌がるようになってるだろ」
「……」
全部、当たっている。
言葉が出ない。
「……なんで知ってるの」
玲花の声が震える。
元カレは一瞬だけ黙る。
「見てるから」
短く言った。
親友が小さく息を吐く。
状況を理解している顔。
「……来いとは言わない」
元カレが続ける。
以前とは違う静けさ。
「今は無理だからな」
その言葉に現実味がある。
「その代わり」
視線がまっすぐ玲花に刺さる。
「考えろ」
一拍。
「それ、本当に自分で選んでるか」
言葉が落ちる。
重く。
逃げ場なく。
「……」
玲花は答えられない。
「……また来る」
元カレはそれだけ言って立ち上がる。
引き際は迷わない。
ドアが開く音。
そして消える気配。
店内に静けさが戻る。
「……なにあれ」
親友が小さく呟く。
すぐに玲花を見る。
「玲花」
声が少し強くなる。
「大丈夫?」
玲花は答えない。
写真を見つめたまま。
あの違和感が、形になりかけている。
――第30話 終――




