第26話大丈夫だから
夜。
部屋の空気は、静かなままだった。
さっきまでの出来事が、
嘘みたいに消えている。
「……」
ベッドに座ったまま、
玲花は動けずにいた。
落ち着いたはずなのに、
どこか、変な感じが残っている。
「玲花」
「大丈夫?」
シオンが、ゆっくりと覗き込む。
いつもと同じ、優しい顔。
「……うん」
小さく頷く。
それだけで少し安心する。
「怖かったよね」
静かな声。
責める気配はない。
ただ、寄り添うみたいに。
「急に来るなんて、びっくりするよね」
「……」
玲花は少しだけ視線を落とす。
「鍵、閉めてたんだけど」
ぽつりと呟く。
確かに、閉めたはずだった。
「うん」
シオンは、すぐに頷いた。
迷いもなく。
「閉まってたよ」
自然な返答。
でも——
その言い方に、ほんの少しだけ引っかかる。
「……」
違和感。
けれど、うまく言葉にできない。
「でも、大丈夫」
シオンはそのまま続ける。
「もう入れないから」
穏やかな声。
安心させるように。
「……どういうこと」
小さく聞き返す。
シオンは少しだけ笑った。
「ちょっとだけ、変えるだけ」
軽い言い方。
大したことじゃないみたいに。
「鍵、増やしておくね」
さらっと言う。
「あと、しばらくは外も控えよ」
「……」
言葉が止まる。
強制じゃない。
でも、
選択肢が減っていく感覚。
「無理しなくていいよ」
すぐに、フォローするように言う。
「怖い思いした後なんだから」
優しい理由。
正しい言い方。
「ここにいれば、安全だから」
その言葉はさっきよりも、重かった。
そっと、手を取られる。
逃げる理由はない。
「玲花」
名前を呼ばれる。
「俺がちゃんと守るから」
まっすぐな声。
嘘はない。
だからこそ——
強い。
「……うん」
小さく頷く。
それでいいと思った。
ここにいれば、
もう何も起きない。
そう思える。
「よかった」
シオンが、安心したように笑う。
「ちゃんと、守れる」
その言葉は小さくて、
玲花には届かなかった。
夜は、そのまま静かに過ぎていく。
鍵は、確かに増えた。
外に出る理由も、少しずつ減っていく。
でも——
玲花は、それを不自由だとは思わなかった。
むしろ、
安心している自分に気づいて、
少しだけ目を閉じた。
――第26話 終――




