第24話いつも通りなはず
朝。
目が覚めたとき、体が少しだけ重かった。
理由はわからない。
ただ、眠りが浅かった気がする。
「……」
天井を見る。
静かで何も変わらない部屋。
いつも通り。
のはずなのに。
「起きてる?」
ドアの向こうから、シオンの声。
「……起きてる」
少し間を置いて返すと、すぐに扉が開いた。
「おはよう」
柔らかい声。
変わらない笑顔。
「……おはよ」
短く返す。
それだけで、少し安心する。
「顔ちょっと疲れてる」
「そう?」
「うん。だから無理しないで」
近づいてくる。
距離がいつもより近い気がした。
「今日、出る?」
「……どうしよ」
少し考える。
外に出ることを想像しただけで、胸の奥がざわついた。
理由はわからない。
でも——
「やめとく」
自然にそう答えていた。
シオンが、ほんの少しだけ目を細める。
「そっか」
すぐに、優しく笑う。
「じゃあ、ゆっくりしよ」
その言葉になぜかほっとした。
昼過ぎ。
部屋で一人になる。
静かすぎて、少しだけ落ち着かない。
「……」
ベッドに座る。
何もしていないのに、時間だけがゆっくり進む。
ふと、親友の言葉を思い出す。
——ちゃんと見てる?
「……見てるって」
小さく呟く。
周りを見渡す。
壁。
窓。
ドア。
いつもと同じ。
変なところなんて——ない。
はずなのに。
視線を感じる気がした。
一瞬だけ。
振り返る。
誰もいない。
当たり前だ。
「……気のせい」
そう言い聞かせる。
でも、胸の奥のざわつきは消えない。
夕方。
少しだけ外に出た。
出ない方がいいと思ったのに、なぜか外の空気を吸いたくなった。
人通りの少ない道。
静かな空気。
——そのとき。
視界の端に、影が映る。
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
「……っ」
足が止まる。
振り向く。
誰もいない。
ただの道。
ただの風景。
「……なんだよ」
小さく息を吐く。
でも、確かに“誰かいた気がした”。
帰る。
ドアを開けた瞬間。
「おかえり」
シオンの声。
それだけで——さっきまでの違和感が、すっと消える。
「……ただいま」
自然に言葉が出る。
「どうだった?」
「別に」
短く答える。
少しだけ間を置いて、
「……外、なんか落ち着かなかった」
ぽつりと漏れる。
シオンは少しだけ笑った。
「そっか」
近づいてくる。
「じゃあ、無理して外に出なくていい」
そっと手を取られる。
その瞬間、胸のざわつきが、少しずつほどけていく。
「ここにいればいいよ」
いつもの言葉。
でも今日は、それがやけに深く沈む。
「……うん」
頷く。
それでいいと思った。
他のことは、どうでもよくなる。
——それが少しだけ、不自然だった。
――第24話 終――




