表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

第15話違う空気

「……また来たんだ」


 食堂の席に座った瞬間、向かいから声が飛んできた。


 玲花は軽く視線を上げる。


「暇なわけじゃない」


 そっけなく返すと、親友はくすりと笑った。


「でも来てるじゃん」


 そう言いながら向かいの席に腰を下ろし、じっと玲花を見つめる。


 その視線が、少しだけ長い。


「……なに」


「いや、ほんと普通だなって」


 また、その言葉だった。


「“普通”ってなに」


「そのままの意味」


 軽い口調のまま、親友は少しだけ目を細める。


「もっとさ、こう……閉じ込められてる感じあるのかと思ってた」


「別に閉じ込められてない」


 玲花は即答した。


 迷いはなかった。


 親友は一瞬だけ黙り込む。


「……ふーん」


 短く返し、視線を逸らす。


 けれど、すぐにまた玲花を見た。


「じゃあさ」


 今度は、少しだけ声が低い。


「なんで毎回同じ時間に帰るの」


 玲花の指先が、わずかに止まる。


「……たまたま」


「たまたまね」


 納得していない顔だった。


 それでも、それ以上は追及してこない。


「ま、いいや」


 あっさりと引く。


 けれど――


「玲花」


 呼び止める声だけは、さっきより真剣だった。


「ちゃんと見てる?」


「……なにを」


「周り」


 短い言葉。


 それだけで、空気が少しだけ重くなる。


 玲花は答えられなかった。


 食堂を出たあと、玲花はいつもよりゆっくり歩いていた。


 親友の言葉が頭に残っている。


『ちゃんと見てる?』


「……」


 無意識に周囲へ視線を向ける。


 人の流れ。


 並ぶ店の看板。


 すれ違う人たち。


 特に変わったものはない。


 ――そのはずなのに。


 なにかがおかしい。


 うまく言葉にできない違和感。


 落ち着かない。


「……気のせい」


 小さく呟く。


 そのときだった。


 通りの向こうで、人影が動いた気がした。


 一瞬だけ。


 見覚えのある輪郭。


「……っ」


 足が止まる。


 目を凝らす。


 けれど、そこにはもう誰もいない。


 あるのは、いつもの人混みだけだった。


「……なんだよ」


 小さく息を吐く。


 そのまま帰路につく。


 屋敷へ戻ると、そこにはいつも通りの光景があった。


「おかえり」


 シオンがいる。


 それだけで、胸のざわつきが少し和らぐ。


「……ただいま」


 自然と返事がこぼれた。


「遅かったね」


「ちょっと」


 短く返すと、シオンは静かに頷く。


 何も疑わない。


 何も聞かない。


 ただ、そばにいる。


「玲花」


 名前を呼ばれる。


 顔を上げると、いつの間にかすぐ近くまで来ていた。


「大丈夫?」


「……なにが」


「なんか、顔いつもと違う」


 少しだけ覗き込まれる。


 逃げ場のない距離。


「……別に」


 玲花は視線を逸らした。


 けれど、少しだけ間を置いて――


「……変な感じはする」


 ぽつりと本音が漏れる。


「外にいると、落ち着かない」


 それは、確かな感覚だった。


 シオンは小さく微笑む。


「そっか」


 優しい声。


 そのまま、そっと玲花の手を取る。


「なら、ここにいればいいよ」


 いつもの言葉。


 なのに、今日はやけに安心した。


「……うん」


 小さく頷く。


 それだけで、胸のざわつきが静かに消えていく。


 さっきまで感じていた違和感が、嘘みたいに。


 ――それが少しだけ、不自然だった。


――第15話 終――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ