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第14話いつも通り

朝。


目を覚ました瞬間、玲花は一瞬だけ自分がどこにいるのかわからなくなった。


ぼんやりした視界。


静かな空気。


けれど、すぐに思い出す。


――ここだ。


見慣れた天井。


閉ざされた静かな部屋。


その安心感に、小さく息を吐いた。


「おはよう」


扉の向こうから、シオンの声が聞こえる。


「起きてる?」


「……起きてる」


短く返事をすると、すぐに扉が開いた。


まるで当たり前みたいに、自然に部屋へ入ってくる。


「よかった」


シオンは少し安心したように笑った。


「昨日、疲れてたでしょ」


「別に」


玲花はベッドから身体を起こす。


体調は悪くない。


むしろ、驚くほど軽い。


何も問題ないはずなのに。


胸の奥だけが、少しだけ引っかかっていた。


「朝ごはんできてるよ」


シオンが手を差し出す。


玲花は少しだけその手を見つめ――


迷うことなく、取った。




食卓は、いつも通りだった。


温かいスープ。


焼きたてのパン。


静かな空間。


「今日、外行く?」


シオンが自然に問いかける。


玲花は少し考えてから、小さく首を振った。


「……いい」


「そっか」


シオンは嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、今日はゆっくりしよ」


それだけで満足そうだった。


玲花は何も言わず、スープを口に運ぶ。


ちゃんとした味がする。


安心する味。


それなのに。


どこか現実感だけが薄かった。


「……」


玲花はその違和感を、気のせいだと思うことにした。


深く考えるのをやめる。



食事のあと、部屋へ戻る。


静かな空間。


何も変わらない景色。


昨日のことが、ふと頭をよぎる。


元恋人の顔。


差し伸べられた手。


「……」


少しだけ息が詰まる。


けれど、それだけだった。


思っていたより、感情が残っていない。


「……こんなもんか」


小さく呟く。


自分でも、少し不自然だと思った。


けれど、その違和感すら、すぐに薄れていく。


午後。


特にやることもなく、玲花はベッドへ横になった。


目を閉じる。


不思議と落ち着く。


ここにいればいい。


そう思うだけで、呼吸が楽になる。


――その時だった。


誰かの視線を感じた気がした。


玲花はふと目を開ける。


部屋の中には誰もいない。


静かな空間だけが広がっている。


「……気のせい」


自分に言い聞かせるように呟く。


そして、もう一度静かに目を閉じた。


――第14話 終――


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