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第13話選びきれない

「……私は」


玲花の足が、わずかに元恋人の方へ動いた。


ほんの一歩。


それだけの距離。


けれど、その意味は大きかった。


「玲花……!」


元恋人の声に、かすかな希望が滲む。


その瞬間――


「……そっか」


静かな声が落ちた。


シオンだった。


振り返ると、そこにはいつも通りの微笑み。


優しい笑顔。


けれど、その奥だけが冷えている。


「そっち、行くんだ」


穏やかな声。


責めるでもない。


引き止めるでもない。


ただ、受け入れてしまうような言い方。


「……ちが」


玲花は反射的に否定しようとする。


けれど、言葉は最後まで続かなかった。


「いいよ」


シオンは小さく首を振る。


「玲花が決めたことなら」


逃げ場をなくすような優しさ。


「でもさ」


一歩、距離を詰める。


「ちゃんと考えた?」


声が少し低くなる。


「そいつと戻ったら、どうなるか」


「……どういう意味だ」


元恋人が鋭く睨む。


「そのままの意味だよ」


シオンは静かに笑った。


「全部、元通りになると思ってる?」


その言葉に、空気が揺れる。


「……玲花?」


元恋人の視線が向けられる。


真っ直ぐな目。


逃げられない視線。


「お前、言ってたよな」


一歩、近づく。


「冤罪だって。全部、嘘だって」


――ドクン。


心臓が強く鳴る。


答えは、喉のすぐ近くにある。


それなのに。


「……本当、なんだよな?」


信じている前提の問い。


疑っていない声。


その優しさが、重かった。


「……」


玲花は目を逸らす。


肯定もしない。


否定もしない。


ただ、沈黙だけを選んだ。


「……玲花?」


元恋人の声が揺れる。


けれど、それ以上は踏み込んでこない。


踏み込めない。


「ほらね」


シオンの声が静かに落ちる。


「もう簡単じゃないでしょ」


優しく言いながら、現実を突きつける。


「玲花」


そっと手を取られる。


振り払えない。


「屋敷に戻ろ?」


その言葉に。


心が、ゆっくり傾いていく。


「……うん」


小さな返事。


それだけで、すべてが決まった。


「……玲花!」


背後から声が響く。


それでも。


玲花は振り返らなかった。


もう、振り返る理由が見つからなかった。




帰り道。


シオンは、少しだけ機嫌がよさそうだった。


「戻ってきてくれてよかった」


「……別に」


玲花は短く返す。


「選んだだけ」


その言葉に、シオンは静かに笑った。


「そっか」


絡められる指先。


自然な動きで、離れないように。


「じゃあ、もう離さない」


その言葉に、玲花は何も答えなかった。


ただ。


繋がれた手を、離さなかった。


――第13話 終――


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