一筋の光明―4―
「…なんだ」
「相変わらずの荒れ具合と昏さね。
ま、気持ちはわかるよ…アタシだって似たようなものなんだから。
…………はぁ…。
それでなんだけど…デマンが呼んでるんだわ。
奥の部屋へ行ってもらえる?
あぁ、ギルドマスターの部屋だよ」
「………」
無言のままカウンターを離れたファングは、指示通りギルドマスターの部屋へ足を向けた。
いつもの事で、ノックもなしにドアを開けて中に入ると、デマンからお叱りの声が飛んできた。
「てめぇ…いい加減にマナーくらい覚えな!
何度言ゃぁ覚えるんだろうねぇ」
デマンの横に座るギルドマスターもたじたじである。
だが、その正面……テーブルを挟んで、デマンとギルドマスターの向かい側に座る人物に、ファングの目は釘付けになった。
髪色は違う。
あんな華やかな青金ではなく、深い緑色。
だが、顔立ちはあの王子と似ていた。
じっと睨み付ける様に見据えたまま、ファングは声を絞り出した。
「お前…あの時の…」
デマンがすかさず『言葉!!』と叫んでいるが、睨まれた人物の方は、特に気分を害した様子はなかった。
「覚えてくれていたとは驚きですね。
言葉を交わしてもいなかったので、忘れられていても仕方なし…と思っていたのですが」
言葉とは裏腹に、深い緑色を纏う彼は、愛想笑いの一つも浮かべていない。
「ですが、きちんと挨拶をした事もありませんでしたね。
改めて…私はレヴァン・ロージント。
ラフィラス王子殿下の側近を務めております」
「……貴族が俺に何の用だ…」
ファングの態度にデマンがすっ飛んできた。
そして頬に盛大な一発…。
「いい加減にしなッ!!!
そんなだから、ランクも上がらねぇんだよッ!!!」
流石に予測していたのか、拳を受けたものの、無様に吹っ飛ばされていないファングに、デマンは溜息を零した。
「はぁ…お前にうってつけの仕事だと思ったんだけどねぇ」
「仕事…?」
存在感のないギルドマスターは、この場をデマンに任せる事にしたのか、茶うけ代わりのリンゴを頬張っていた。
「そうだよ。
そちらの公子様からの話でね。
で?
聞く気はアンのかい?」
ファングはムスッとしたまま、それでも近くの椅子を引っ張ってきて腰を下ろし、デマンを見る。
貴族からの依頼なんて虫唾が走るが、デマンからの直々の声掛となれば、そのままぶっちぎるのも躊躇われたのだ。
「やっぱりあたいが行くべきかねぇ…」
デマンが疲れたように零すが、レヴァンは凪いだ様子で傍観している。
「行く…遠出か?」
「…そうだよ。
でなきゃ、こんな話…あたいの方が受けたいくらいだ」
デマン自身が受けたい話なのに、ファングに回すとはどう言う事だ?…と、眉根を寄せた。
「やっと興味が出たんだね…。
ちゃんとした依頼なんだから、しっかりと聞いてくれねぇと困るんだ」
「…わかった」
デマンが不機嫌に話し出す。
話の内容は魔石を集める為に、各地をまわる……簡単に言えばそう言う事だった。だが、単に数があれば良いと言う話ではない。
色々な魔物から魔石を入手し、それの保有魔力含め、大きさ等々…多岐に渡って検証するというのだ。
「狩る魔物は大物も含まれてくる。
だから実力のない冒険者なんて、お呼びじゃないんだよ…どうだい?
ファングなら実力は、あたいが保証できるんだが。
まぁあんたが断るってんなら、他を探すがね」
なるほど…理解はした。
目標を決めずに、大物まで含め、ある意味手当たり次第に狩ると言う事だろう。そうなればなかなか戻って来る事も難しいし、体力勝負な面も大きい。
冒険者として引退も見えてきたデマンには、少々厳しい依頼と言う事だ。
しかし『何故自分に?』という疑問は消えない。
何しろデマンにも耳タコになる程度には、マナーだの言葉遣いだの注意されている。しかしそれらを聞く気のないファングは、思い切り不適格だと思う。
言葉を飾らず直球で聞けば、デマンの顔がクシャリと歪んだ。




