一筋の光明―5―
「……嬢ちゃんの…姫さん絡み…だからだよ」
低く、下手をすると聞き逃しそうな程小さく紡がれた言葉に、ファングの肩が揺れた。
「この公子様は姫さんの為、王子様からの依頼で魔石を集めたいんだとさ。
理由は「あぁ、それについては私の方から話すとしましょう」…頼みます」
デマンの言葉を遮ったレヴァンは、相変わらず冷ややかな表情を崩す事無く、淡々とこれまでの状況、そして打てる手立てについて話し始める。
数多の魔石を集め、検証したとしても、それがエリルシアの目覚めに繋がるかはわからない。しかし出来る事は全てしておきたいと締めくくったレヴァンに、ファングはいつの間にか姿勢を正していた。
「どうでしょう?
詳しくは聞いていませんが、小耳に挟んだ話では、貴方もウィスティリス嬢とは縁深い様子。
彼女の為に、力を貸しては頂けませんか?」
それに対するファングの返事は『はい』でも『いいえ』でも、罵倒でもなかった。
「すぐ準備する」
止める間もなく、ファングはギルドマスターの部屋を後にした。
あんな話を聞いて、いつまでも腐ってなんて居られない。
絶対成功する訳ではない。
だが、まだエリルシアの為に自分が出来る事があった。それだけで身体中に力が戻ってくるような感覚を覚えた。
暗がりの中に見えた光明を、何としても掴むのだ。
ずんずんと大股に歩き去って行くファングの背を見送りながら、カウンターのモナッタは小さく零す。
「ったく…。
荒れも昏さも、何処に行っちまったんだろうねぇ。
ほんと現金な奴」
だが、その口元は微かな笑みを湛えていた。
「あそこか」
「えぇ、町から距離があるのは僥倖ですが、近隣の村ではやはり影響が出ています。
狩っておいた方が良いでしょう。
こんな外れの村では、行商人が来ないと困りますからね」
ちょっとした高台から、レヴァンとファングは森を見下ろしている。
「既に検証済みの飛竜種ですから、こちらとしては有益とは言い難い……ですが、こんな辺境でも人々に恩を売っておけば、後から役に立つ事もありますからね」
にこりともせず、ぶっちゃけるレヴァンに、ファングは『そうだな』と呟いた。
続かない会話を互いに苦痛と感じない二人は、存外相性は良かったらしい。
見送ったデマンは心配していたが、今ではすっかり馴染んでいる。
「あ、いたいた。
レヴァン様ぁ、兄貴ぃ! 昼飯ができたっすよ!!」
リコに片思いをしていて、てっきりウィスティリス領に残ると思っていたソッドだったが『おいらが居ないと、兄貴は料理とか…細かい事がからっきしっすからね!』と、魔石収集と研究の旅に半ば強引に同行していた。
「「………」」
ファングもレヴァンも無言だが、決して空気は重くない。
ソッドも何時もの事だと気にもしない。
「あ! 飛竜、狩る事に決まったみたいっすか?
この時期だと卵があるかもっすから、レヴァン様も襲われるかも…剣は持っといてくださいよ?」
ソッドの言葉に、レヴァンの眉根がピクリと歪んだ。
相変わらず荒事は苦手らしい。
だが、ファングがさらりと言い放つ。
「問題ない。
俺が仕留める」
「……えぇ、是非ともお願いしますよ」
ファングにレヴァン、そしてソッド。
3人と、他に研究者やレヴァン付きの従者もいるが、彼等の旅はまだ続く。
だがラフィラスから時折届く手紙には、少し嬉しい報告もあったりするので、気持ちが沈む事はない。光明はまだ途切れてはいない。
見ればソッドは、しゃもじを片手に振り回している。
緊張感のなさに脱力を覚えるが、ファングとレヴァンは互いに小さく苦笑を浮かべ、ソッドの方へと足を向けた。




