表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします ~徒然綴り〖短編etc〗  作者:
ファング

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/10

一筋の光明―3―



「へ?」

「いない」

「いや、だから何すか…いないって…」

「………お嬢」


 単語でぶつ切り気味に話すファングの話を、理解しようとするのは骨が折れる。


「あ~エリー様が居ないから、ここのギルドの評判なんて、知ったこっちゃないと?

 ま~ほんっとにわかり易いっすね…」


 呆れたように肩を竦めてから落としたソッドだったが、そっと周囲へ視線を流した。


「ま、わかんない訳じゃないっすけどね。

 実際、もう結構経つのに、まだ空気が重いっす。特にギルドは……。

 でもほら、人間食わなきゃ生きてけないんで、領民達は少しずつ前向きになってるじゃないっすか。いい加減、兄貴も前見て下さいよ」


 ソッドの言葉に、ファングは更に酒を呷って返事に変える。

 そしてダンッとテーブルを叩きつけた。

 突然の行動に、ソッドがビクンと跳ね上がる。


「何でだ?

 何で忘れられる?

 な、んで…」


 ソッドは唇を噛んだ。

 結構経つとは言ったが、まだ1年も経っていない。

 だが……これまでの事に感謝はしつつも、日々の生活の追われる人々が、いつまでも記憶に留めていられない事もわかる……わかってしまう。


 頭では分かっていても、そんな人々が、ファングには薄情に思えるのだろう。


 彼は忘れない。

 ソッドは、それは断言出来る…と思った。




 実際、本人やエリルシアから話を聞いた事はない。

 しかし聞いた話では、ファングはエリルシアに救われたのだそうだ。



 ファングの生まれを、ソッドは知らない。

 少なくともウィスティリス領でないのは確からしい。

 どこかの村が盗賊に襲われるか何かした様で、彼はその生き残りだったのだろうと言われている。


 それから何があったのかはわからないが、命からがら逃げ伸びて、そして辿り着いたのがウィスティリス領。



 浮民は、地方領になればなるほど、受け入れて貰えない。

 総じて王都などより、地方領の方が貧しいからだ。

 更に言うなら、当時のウィスティリス領は水不足が引き金となって、飢饉になりつつある時期だった。


 なりたくてなった訳ではなく浮民に落ちてしまったファングは、最初…領民達に見つからない様に必死に隠れていたのだそうだ。

 この辺りはデマンから聞いた事がある。


 逃げて逃げて、けれど弱り切った子供が逃げ延びる事は難しく、程なしてく見つかってしまったと言う。

 役人に渡すか、どうするか…領民達が話し合っていると、そこへエリルシアが現れた。


 彼女は、そんなファングを受け入れ、最終的にデマンに預けた。

 水不足で、飢饉に陥りつつあった領で、どこの馬の骨とも知れぬ子供を受け入れる余裕なんてない…と、かなりの反対にあったらしい。

 しかし、それでもエリルシアは、まったく引かなかったと聞いた。

 前当主である老夫妻も、エリルシアの意見に頷いたと言う。


 それからのファングは、口では語らないが、ただエリルシアからの恩に報いる為に…と、領に溢れる魔物と戦い続け今に至る。



 ちなみ『ファング』と言う名は、本名ではない。

 と言うか、本人が本名を名乗らないのだ。


 誰もが困っていた時、エリルシアが…。


『……そうね、

 便宜的にも名前は必要だから、一旦何か呼び名だけでも……。

 ぁ、じゃあ『ファング』ってどうかしら?』


 これ以降、ファングはファングとなった。

 恐らく、この先一生、親から貰った名を名乗る事はないだろう。


 だからこそ、これほどに深く悲しんで、深く苦しんでいるのだ。

 掛けようと思いつく言葉なんて、どれもこれも薄っぺらで、ソッドは黙り込むしか出来ない。



 何度目かわからない溜息が漏れた時、ギルドカウンターの向こうから声が掛った。


「ファング、今ちょっと良いかい?」


 一瞬ムッとするが、流石のファングもギルドカウンターのお局であるモナッタの声を無視は出来ない。

 ファングは無言でのそりと立ち上がり、カウンターの方へ向かった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ