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破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします ~徒然綴り〖短編etc〗  作者:
ファング

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6/10

一筋の光明―1―



 全ては遠い出来事だった。

 大先輩のデマン、後輩のソッドも、川を渡って近づく事は許可されず、遠くから固唾を呑んで見守るしかなかった。


 一陣の風が…しかも、かなり強い風が吹き抜ける。

 誰もが無言で、遠くに見える人影を見つめていたが、突然、絶望を塗り込めた悲痛な叫びが空気を切り裂いた。


「な!?」

「ありゃ御領主様の声か…」


 冷静に聞き分けているデマンにファングも同意だが、『誰が発したか』より『何故』の方が重要ではないだろうか?

 それを口にすると、デマンはそっと目を伏せた。


「侯爵様があんな声を出すなんて……声の後に戦闘音は聞こえない…そこから考えれば…」


 ファングもハッとした様に息を呑む。

 ネデルミス側なのに、ネデルミスの者じゃなくウィスティリス侯爵の叫声……エリルシアに何かあったのだと、やっと考えが及ぶ。それと同時に身体が動いた。


「待ちな」


 デマンがファングの腕を、きつく握り込んでいる。


「嬢ちゃんは……多分、何もかも知ってここまで来たんだろうね…。

 あの責任感の強い嬢ちゃんが、何の意味もなく、こんな国境くんだりまで足をのばす理由なんて……さ…」


 デマンは唇を噛み締めた。

 その横でソッドは、訳が分からずおろおろするばかりだ。


 ファングはデマンの言葉を、何とか理解しようとする、が……言葉は耳に入っても脳はそれを拒否し、そのままポロポロと零れ落ちた。




 デマンに引き摺られるようにして、空き地に張ったテントに押し込められる。

 恐らく宿の確保は難しいだろうと言う、デマンの判断だろうが、ファングにとってそんな事はどうでも良かった。


 なんとかして状況を確認したい。

 エリルシアが無事なのか……どうなったのか知りたい…それだけだが、テントに押し込まれた後、ファングはデマンによって昏倒させられた。


 気付いた時にはソッドの背中で、マナウトは既に遠くなっていた。


「っ…」

「あ、兄貴、気が付いたんだ。心配したんすよ。

 姉御ってば容赦なしなんすから…ほんとにもう」

「お前らに手加減なんかしてたら、こっちの身が幾つあったって足りゃしないだろうが」


 振り返る事もなく、デマンは先頭を歩いている。

 ファングは、まだ足元に少しばかり不安があるが、歩けない事はないだろうと、ソッドに合図をし、地面に降り立った。

 そして無言で身を翻し、来た道を戻ろうとする。


「ちょ、兄貴!!」


 そんなファングを、デマンが見逃してくれるはずもない。

 すぐに腕を抑え込まれ、進む事は叶わなくなった。


「放せ」

「嫌だね。

 放したら、お前はマナウトに戻るつもりだろうが、戻ったところでどうするってんだ? あ?

 お前に出来る事があるとでも?」


 カッと頭に血が上り、デマンを睨み付けようとして……ファングは勢いを失くし、言葉を呑み込む。

 デマンの目は真っ赤だった。


「お前だけじゃないよ…なんで嬢ちゃんが、なんでって、叫びたいのはあたいだって同じなんだ。

 けどよ……」


 デマンは腕で目元をぐいと拭う。


「嬢ちゃんが愛し、大事にしてた領を、あの地を、放り出す訳にゃいかないんだ。

 あたいら冒険者でも出来る事しないと、嬢ちゃんに顔向け出来ねぇだろうが…」

「………」

「嬢ちゃんは王子達が、御領主様達が何とかしてくれる。

 そう信じて、あたいらは戻るんだよ。

 そう遠からず、嬢ちゃんの事は領にも伝わる。

 ……大騒ぎになるだろうさ……あの領に暮らす者にとって、嬢ちゃんは宝だったからね」


 そう言いながら、涙声になって行くデマンの力は、考えられない程弱々しくて、直ぐにも振りほどけそうなのに、ファングはそれが出来ないまま、一緒に俯くばかりだった。







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