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破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします ~徒然綴り〖短編etc〗  作者:
ネデルミス プルチェとカプシャ

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18/20

心に巣喰うモノ―8―


 だが、終焉は着実に近づいている。

 プルチェが気付いていようがいまいが、そんな事はお構いなしに…。


 やらかし前より落ちていた体力は更に落ち、叫ぶ声にも張りは無くなっていた。

 それでもプルチェは要求し続ける。

 自分が王女ではなく罪人に堕ちたのだと、どうしても認めたくないと言わんばかりに叫び続ける。



 食事ではない時間に、プルチェの牢に近付く靴音があった。

 殴られた腫れも、患部に浮かんでいた斑模様も、()うに消えている。だが頬は()け、手足も痩せ細り、その姿は幽鬼のようだ。以前の面影を探し出すことも難しくなった彼女は、冷たい石の床に横たわっている。


 そんな彼女の下に、靴音共に(もたら)された一報。

 骨に皮が張り付いただけの彼女の背中側…鉄格子の隙間から、薄い紙片が投げ込まれた。

 床に落ちて、かさりと乾いた音をたてる。

 何か文字が書かれているようで、プルチェはゴロリと転がると、その紙片に目を向けた。



『ヒルド毒死』



 ヒルドはプルチェの実母だ。


 元は、内乱には至らない程度の小競り合いの地に、慰問で訪れた一座の踊り子の一人だった。


 一座の売り物は、座員たちの芸で身体ではない。

 だが、身体を求められても目を瞑るのが当然とされていた。どのみち、平民や貧民で構成される芸人一座に、貴族からの話を断る力などない。

 当時前線に居たプルガが、一座の看板踊り子になったばかりのヒルドに手を出すのも、誰もが見て見ぬ振りだった。


 ただ誤算だったのは、一夜限りの交合だったのに、ヒルドが孕んでしまった事だ。


 正妃キャノリーヌに子がないまま、雑用係だったカネミン・ヌガフ男爵令嬢が、やはり一夜の過ちで妊娠し、側妃となった前例がある。それに倣う様に、ヒルドも愛妾として末席に加わる事になった。


 プルガの場合に限って…ではあるが、実の所、側妃と愛妾の立場に違いはない。

 側妃だからと言って公務に関わる訳ではないし、愛妾だからといって、プルガとベタベタイチャイチャしている訳でもない。

 ただカネミンは低位とは言え貴族令嬢だったので側妃と称され、ヒルドは平民だった為、愛妾と呼ばれる事になった……それだけの事だった。



 後宮の一角に捨て置かれた愛妾の死亡。

 それも『毒死』とある。


 賜毒(しどく)でもなく自死でもなく、毒死。


 その言葉が意味するところ――ヒルドが死に至った理由は、プルチェのやらかしだ。

 だが…元平民で、貴族ではないヒルドに賜死(しし)や毒杯なんて概念はない。

 死にたくないと逃げ惑い、追い詰められた挙句、無理やり毒を飲まされた…と言うのが真相であった。


 そんな意味を、プルチェが短い文面から読み取れたかどうかはわからない。

 表情に変化はなく、虚ろに紙片を眺めていたが、暫くすると興味を失ったようだ。


 横たえていた身を起こし、鉄格子の方へにじり寄って、いつものように叫びを繰り返す。

 プルチェに見えているのは豪華なドレス、眩い輝きを放つ宝石達。そして絢爛な夜会の一幕なのだろう。

 それこそが彼女にとっての現実で、薄汚れ擦り切れた衣服も、悪臭を放つ自分も現実ではないのだ。


「今日は薔薇湯がいいわ」

「首飾りはエメラルドよ。早く用意して頂戴。

 夜会に間に合わなくなっちゃう」

「ドレスはアレがいいかしら。レヴァン様の御色のドレスだもの、あたくしに似合わない訳がないのよ」

「ウフフ…殿方はみぃんな、あたくしに夢中にね」

「フフ…アハハハ あたくしが主役よぉ!」



 そして、紙片はただのゴミになった。






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