心に巣喰うモノ―6―
パンは焦げた部分が目立ち、到底王女が食するに相応しいモノではなかった。
それ以前にテーブルも椅子もなく、カトラリーもない。
自分は役に立とうとしただけだと言うのに、仮にも王女にこんな扱いは酷い。そう訴えたいのに、声も身体も、プルチェの意志から零れ落ちたように自由にならず、涙だけが流れた。
連行された部屋が別だったので、知る機会はなかったが、もし異母兄であるカプシャよりも酷い扱いだと知れば、きっと狂ったように暴れて泣き叫んでいた事だろう。
再び扉の開く音がした。
近付いてきた足音は2つ。
プルチェはパンを食べる事も水を飲む事も出来ないまま、うつらうつらとしていたが、足音で意識が浮上した。
だが靴音はピタリと止んで無音が続き、意識を浮上させたままで居るのも面倒になったプルチェは再びうとうとし始める。それを邪魔するようなタイミングで、話し声が鼓膜を打った。
話し声は潜めるでもなく、聞かれても構わないようだ。
「食べてないようですな」
「まぁ、あの腫れじゃぁな」
「どうします? まだ通達は来てませんが、恐らく引き回す事になるんでしょ?」
「どうなるかはわからんが、衰弱されるのは困るか…。
せめて食べられるようにはしておいた方がいいかもしれんな」
「食べられないなら、それはそれで魔具を起動させるだけですけど、顔の痣は流石に見苦しいかと思います」
「そうだな。
王も腹に据えかねたんだろうが」
「いや、すごーーく手加減してますよ。
陛下が思い切り殴ったんなら、顎の骨が砕けてますって…もしかすると昇天してた可能性もありますよ」
「あ~……それは、そうだな。
はぁ、面倒だが仕方ない。手当させるとしよう」
「わかりました。
手配してきます」
足音が一つ遠ざかる。
「…………それにしても、最後まで迷惑にしかならんゴミだな。
王陛下がお気の毒だ」
もう一つの足音も遠ざかり、扉が閉まる音が響いた。
プルチェは、痛みと腫れさえなければ、思い切り歯噛みして怒鳴りつけた事だろう。
聞いた事のない声だった…多分。
例え聞き覚えがあったとしても、それを記憶してないのがプルチェだ。誰も期待はしていない。
暫くすると本当に医官がやって来た。
錬金薬を塗って貰うと、ズキズキと脳天を直撃していた痛みが、徐々に鈍くなる。とは言え、腫れが引いた訳ではない。
文句を言ってやろうとするが、うまく口が開かず、罵倒の声は言葉として出る事はない。
そんな自分も嫌で、ポロポロと涙がまた溢れた。
泣き続けるのにも飽きた頃、プルチェはやっと上体を起こした。
室内を見回す。
ガランとした室内…室内と言って良いのだろうか……いや、良くない。
だって壁がない、壁面の一つは鉄格子になっている。テーブルも椅子もないのは確認したが、化粧台も鏡も、クローゼットもない。
こんな薄汚い恰好で居ろと言うのだろうか?
自分は王女なのに?
と、どうしても頭に浮かぶ。
床に座り込んだまま、腫れの残る頬を押さえた。
薬のお蔭か、やはり痛みは軽減されている。それと同時にさっきの声が言っていた『王陛下がお気の毒だ』と言う言葉が浮かんだ。
―――気の毒なのはあたくしだわ
―――お父様はあたくしを褒めてくれない
―――でも、こんな殴られた事もなかった
やはり異母妹が悪いのだと、斜めな考えだけがグルグルと回る。
同様にちゃんと庇ってくれない異母兄も悪いのだと……。
―――言わないと
―――あたくしは悪くないって
―――そう、ネデルミスの事を考えただけだって
―――でも……お父様は怖い
無意識に身体が竦んで震える。
けれど直ぐに思い直した。




