心に巣喰うモノ―5―
言い出しっぺは異母妹だが、自分に罪がないとは言えない事くらい自覚している。
そうして取り調べが終わり、騎士達が部屋から出ると、静寂が圧し掛かってきた。
―――馬鹿ばっかりやっちまったな
―――プルに唆されたのはホントだ
―――けど、俺自身、どっかで思ってたんだろうな
―――自分に気付いて欲しい
―――自分を認めて欲しい…なんてさ…
―――そんな甘っちょろい感情
―――まだ俺にもあったんだな…
―――母上は俺を見ない
―――父上も同じだ
―――なんでだろうな
―――ちっこい頃は、少なくとも母上は見てくれてた
―――いや、そんな気がするだけか……
―――あぁ、もうどうでもいい
―――呼吸するのさえ、しんどい
―――どうせ価値なんてないんだから……
―――……さっさと殺してくれ
虚ろなまま暫くした頃、取り調べに来た騎士の一人がやってきた。
牢から出され、外へ連行される。
王城内とは言え、裏手だから何もない。
物置のような小屋があるくらいの小さな空き地だ。
そこに大きめの穴が掘られている。
穴の前に座るよう押さえつけられた。
「カプシャ王子…ぃゃ、王国に仇なした罪人カプシャ。
何か言い残したい事はあるか…?」
今更だ。
最期に言いたい事…なんて聞かれても……あぁ、でも……。
「…………次があるなら、ここじゃない何処か…俺じゃない俺になりたい…かな。
いや、なんでもない。
忘れてくれ」
カプシャは穴の方へと身体を傾けて首を差し出した。
そして…白銀に輝く刃が振り下ろされる。
赤く染まった地面。
そこにぽっかりと開いた穴の底の方から、ゴトリと、重いのか軽いのか…判別のつかない音が小さく響いた。
少し時は遡り……。
汚れ切った牢箱から、いつの間にか運び出されていたらしい。
プルチェは、重い瞼をゆっくりと持ち上げ、視線だけで周囲を見る。
上体を起こすどころか、顔を動かす事さえ億劫な程、何もかもが痛くて重い。
ぼやけた視界に入るのは床。
それ以上は滲んでよくわからない。
息を吐くだけで身体中が痛んだ。特に頬や首は痛いなんてもんじゃない。
そうして思い出す。
父親であるプルガに殴られた事。
殴られると言うか、殴り飛ばされた。
プルチェは絶対に否定するだろうが、かなり手加減はされていた。
あの巨漢に、一切の手加減なく渾身の力で殴られたなら、最低でも顎の骨が砕けていただろうし、最悪の場合、絶命と言う結果が待っていた筈だが、プルチェには思い切り殴られたと言う感情しかない。
口を開くだけで、脳天を突き抜けるような痛みに襲われるため、内心で毒づくしかないが、まるで呪詛のように呟き続けていた。
―――酷い…
―――酷い酷い酷い…
―――どーしてあたくしが、こんな目に……
―――だって悪いのはお父様よ
―――ううん、お父様だけじゃない
―――お母様も
―――侍女も
―――お兄様も
―――正妃だって何にもしてくれない
―――いつだってベスピネベスピネ……
―――誰もがベスピネベスピネ……
―――あたくしの方が可愛いわ
―――あたくしの方が姉なのよ
―――あたくしの方が…それなのに
呟けば呟く程、毒は降り積もっていく。
―――あぁ…
―――どうして
―――どうしてなの…
―――あたくしの望みなんて
―――…ほんとうに小さな物でしょ
―――レヴァン様が欲しかっただけなのに
―――レヴァン様が無理なら、王子でも良いって…
―――ちゃんと我慢だってしてるのに…
―――なんで? どうして?
―――あたくしの欲しいモノはくれない
―――ドレスも宝石も、何もかも……
―――誰もくれないのよ!
ガチャリと扉の音がする。
でも視線を動かすだけじゃ視界に入らない位置らしく、開いたのか閉じたのか、誰かが入って来たのか出て行ったのか…それさえ定かではない。
眼球を動かす事も諦めたプルチェの前に、パンとカップが置かれる。
皿に乗っている訳でもなく、床に直置きだ。
今更ながらの話だが、片側の鉄格子面以外は、全てがゴツゴツとした石になっていて、まさに『牢獄』と言うに相応しい部屋。置かれたカップも傾いている。
カチンときて、思わず声を荒げようとするが、突き抜ける痛みに芋虫のようにのたうつ事しか出来なかった。




